六百八十二話 暗闇の襲撃者4 楽しい一触即発夕食会と理解者爆誕様
「おお、美味いなこれ! いいのか人間、これ全部食べても!」
「ルリエラ様、ご相伴にあずかっているのに、だめですよ。少しは遠慮して下さい」
「美味しいですご主人様! うちのランディーネのも美味しいですが、これはもうワンランク、いえツーランク上かもしれません!」
「なにこの肉ー! 口の中で溶けるー!」
朝、ソルートン港で初心者パーティーに出会い朝ごはん、その後アーデルニさんたちが来て冒険者センターのクエストで海に行き、夜には馬車で山に向かった。
やっとクエストと突発で起きた、説明の難しいトラブルを乗り越え、俺たちは宿ジゼリィ=アゼリィに帰って来た。
時刻は二十一時前、もはや夕飯ではなく夜食かもしれないが、宿の神の料理人、イケボ兄さんの作ってくれたほろほろ肉のビーフシチューが美味すぎる。
「社長~、これどういうこと~」
「あの……この方々は、その……」
「にゃはは……大丈夫なのか、これ? アタシちょっと怖ぇンだけど……」
そういや早朝から出かけていたので、水着魔女ラビコ、宿の娘ロゼリィ、猫耳フードのクロと話すのは昨日の夜以来になるのか。
「うぅーん、やっぱり宿ジゼリィ=アゼリィのごはんはレベルが高ーい! 先生を舐めて疲れた舌に染みわたりますぅ」
「……紅茶、美味しい……」
三人は夕食は済ませたらしいので、俺はクエストに出かけたメンバーでの楽しい夕食を囲んでいる。
王都からなぜか来ているハイラも笑顔だし。バニー娘アプティも無表情ながらも満足気に紅茶を飲んでいる。
となりのテーブルに座っているラビコとロゼリィとクロが何とも言えない視線を送ってくるが、俺には今の状況を上手く説明をするスキルが無い。
俺の今日のクエストメンバー?
そうだな、メンバーぐらいは説明しよう。
まずバニー娘アプティに騎士ハイラ、そして上位蒸気モンスターで水の種族であるアーデルニとドロシー、そして現地集合で合流した闇の種族のリーダーであるルリエラさんと、その部下のグレイフィルさんだ。
ほら、ルリエラさんとか、この間行った星神の国で出会ったばかりだから覚えているだろう?
以上、細かな詮索はよしてくれ。
俺の説明スキルを超えた状況だし、まずは美味いごはんを食べさせてほしい。
宿の娘ロゼリィと猫耳フードのクロは星神の国で出会っているルリエラさんを、そして水着魔女ラビコはそれに加え、銀の妖狐の島で出会ったメイドバニー姿のアーデルニとドロシーをチラチラと見ている。
そう、お察しの通り、全員上位蒸気モンスターの方々です……。
ああ、闇の種族のリーダーであるルリエラさんにはついてきてもらって、ソルートンで服を買ってあげたぞ。
だって蒸気モンスターとはいえ、女性を裸で山に放置はヤバイだろ。
ハイラにお金を渡して、似合いそうな服を選んでもらった。俺には女性の服の流行は分からないしな。
で、帰って美味しいごはんだー! と言ったら、ルリエラさんが興味を持ってついてきた、というわけ。
「ルリエラ様、その服、似合いますね」
「そうか? なんか動きにくいけどな、これ。でもまぁスマートに見えて良いな」
部下であるグレイフィルさんが褒めているが、あれはお世辞ではないっぽい。
俺から見ても、ちょっと似合っている……と思う。
大物ハイラが選んだのは、黒服SPみたいなスーツに黒縁の伊達メガネ。
ルリエラさんはセミロングの金髪なのだが、黒い服がまぁ似合うこと。
あとこのグレイフィルさん、この人がとても冷静で話が分かる人で助かった。うまーくルリエラさんの怒りをあちこちに分散し、コントロールしてくれた。
「俺も似合っていると思います。とても知的で魅力的に見えます」
黒縁メガネのせいもあるかもしれないが、頭良さそうに見える。
「ぶっ……やめろ男二人、この私を性的な目で見るな!」
「見てませんよ、ルリエラ様」
「見てないです、素直な感想です」
ルリエラさんが真っ赤な顔で水を噴くが、グレイフィルさんと俺が同時に否定。
似合っているから似合っていると言っただけだぞ。
なんでそれが性的な目になるんだ。
俺とグレイフィルさんが頷きあう。
この人、蒸気モンスターだけど、話しが合いそうだなぁ……。
「くっ……このっ! そういえばずっと思っていたけど、お前等なんとなく似ているんだよ! 溜息つきながらフーやれやれ、的な感じ……私の一番苦手なタイプだ! いいな、今後二度と一緒に喋るな! あとお前の周り、キツネキツネキツネ……! キツネが多すぎなんだよ、このキツネ派が!」
ルリエラさんが急に興奮しだし、早口で捲し立ててくる。
俺の周囲にいるバニー娘アプティ、アーデルニ、ドロシー、そして最後に俺を指し『キツネ派』呼びをしてくる。
俺がキツネ派……?
いや、見て分かる通り、俺は足元に絡みついている超可愛いベスが大好きな、生粋の『犬派』ですけど。
「こんな美味しいシチューを食べさせていただいているのに、暴言はやめて下さいルリエラ様。文句があるなら残りのシチュー、私が全部食べてしまいますよ」
「あ、いや、それはダメだ! これは本当に美味しい……ついてきて良かった……その、悪かった……」
グレイフィルさんが厳しい視線を送ると、ルリエラさんがハッとした顔になり、ブツブツ言いながら大人しくなる。
「ご主人様、その、我々はどうでしょうか……お気に召さなかったのでしょうか……」
俺たちのやりとりをじーっと見ていた、メイドバニーのアーデルニが少し悲し気に顔を伏せる。
「え、いやいや、すっごく可愛いよ! こっちに来るためにわざわざメイド服を新調したんだろう? 実は俺、メイド服大好きでさ! だから二人が側にいてくれると嬉しいよ!」
俺は慌ててフォローをするが、いや、こっちもお世辞じゃあないよ!
銀の妖狐の島で着ていた服じゃあなくて、新しくメイド服を買って来てくれたんだろうし、いや、なぜメイド服なのかは不明だが、似合っているのは事実!
「やった、やったねアーデルニ! ご主人様って私たちが大好きなんだって! あ、ごめんなさいアプティ様、でもご主人様が言ったことなので」
横にいたドロシーがアーデルニの手を取り喜び、チラっとバニー娘アプティを見る。
大好き……? あれ?
「…………マスター?」
ちょ……! アプティさんが無表情ながらも怖い顔で俺を見てきた……!
やめてドロシー、アプティを煽らないで……!
「社長~、ちょ~っとお話があるんだけど~?」
ガタンと立ち上がった水着魔女ラビコさんが、すっごい笑顔で俺を見てくる……ああああああああ……ロゼリィとクロも立ち上がり、超笑顔……。
なぜだ、俺は似合っているから似合っていると、可愛いから可愛いと言ったまでだ……!
「あれれ、メイド? 先生、サーズ様によると、先生は制服好きだって聞きましたけど? ほら、ラビコ様が教師の格好をしたとき、鼻の下が伸びてすごかったじゃないですか。私、今ペルセフォスの制服なんです。ほら、こういうのを脱がすのが好きなんですよね?」
そして騎士ハイラが余計なことを言う。
確かに水着魔女ラビコが女教師の姿になったときはすごかった。
でもそれは似合っているから素敵だと思っただけで、なんでそれを脱がすのが好きとか、俺が一言も言っていない余計なワードを足すのか。
そしてこの一触即発みたいな状況を治めるの、俺なんですよ……分かっていますかハイラさん……。
「お疲れ様です」
グレイフィルさんが俺を見ずに、シチューをすすりながら小声で言う。
良かった……理解者がいた……!
俺には人間じゃあないけど、理解者がいる……!
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




