六百八十話 暗闇の襲撃者2 闇の種族のリーダーとハイラに腹を舐められた様
「ご主人様ー、木の実がものすごい速さで逃げて行きますー!」
蒸気モンスターである三人の連携を学ぶために受けた、冒険者クエスト。
ほんの少し魔力を帯びた木の実が極まれに出来るらしく、それを探しにソルートンから馬車を使って夜の山に来た。
ショートカットのメイド娘、ドロシーがすぐに発見報告をしてきたが、木の実が逃げているとかなんとか。
いやいや、数十年に一度クラスの木の実を見つけるのも早すぎだし、見つけた木の実が走って逃げるとかも想定外すぎる。
とりあえず、愛犬ベスが警告音を発しているのが気になるところだ。
「アーデルニ、状況報告! 誰かが木の実を持って走っているように見えるが……」
よく見ると、木の実を誰かが持っているように見える。
ああ良かった……いくら異世界とはいえ、木の実が一人で走って逃げるわけがないもんな。
というか、その人物は何者なんだ。
ドロシーが追いつけない速度って……人間じゃあありえない。
うちのバニー娘アプティなら余裕で追いつけるが……
「黒い服を纏った人物が、ものすごい速度で木の実を持って走っています! こちらへの攻撃の意志は見られません……はて、どこかで見たような……」
アーデルニから報告がくる。
やはり誰かいるのか。
アーデルニが見覚えのある人物? それって……人間じゃあないよね……?
「……闇……もう一人いる……」
バニー娘アプティが反応、闇?
確かに周囲は暗いけど……もう一人?
「申し訳ない、無断でテリトリーに入ってしまったことは謝ります。攻撃の意志もありません。私もこの木の実が欲しかった、そして私が先に見つけたのですが、追われたから逃げている、それだけです」
木の実を持っている人物が、走りながら発言。
男性で、とても冷静な口調。
同じクエストを受注した冒険者か?
でも俺たちが受けた受注票には「1」と数字が表記されているんだよな。
誰か先に受けていたら「2」と表記されるはず。
つまり、俺たちが受けるまで誰もこのクエストは受けていないってことだ。
俺たちより後から受けた可能性もあるが、こんなに早く追いつけないだろうし……
テリトリー……?
「ご主人様、闇です。アプティ様と同格のグレイフィル。珍しいですね、人前に出て来るとか。少々厳しい相手です」
アーデルニが情報を確定してくれた。
闇? アプティと同格?
もしかして上位蒸気モンスターで、闇の種族ってことか?
闇の種族っていったら、こないだ行った星神の国のサリディアの大穴で遭遇したな。
何て言ったっけ、確か闇の種族のリーダーとかで、名前は……
「かかったな人間! 所詮はその程度、私が受けた辱め……倍返しさせてもらう!」
「きゃっ……!」
森のどこかから女性の声が聞こえたと思ったら、隣にいるハイラが足払いを受け転ぶ。
ちっ……アプティがもう一人、って言っていたのはこれか。
真っ暗で視界が厳しい状況ではこちらが不利か。
「思い知れ人間! 積年の恨みをプゴハァッ!」
「ベッス!」
背後から迫る気配に愛犬ベスが反応、衝撃波アリの警告の咆哮をしてくれた。
愛犬の咆哮をまともに受けた女性がのけぞり、着ていた黒い服が全て吹き飛ぶ……あ、ベスさん、強めの咆哮だったのね……。
「うンご……! ぐぅぅ……またこの犬か……! だが私は負けんぞ、喰らえぇああああああああ!」
裸になった女性が奮起し、俺めがけ決死のダイブをかましてくる。
ちょ、何! 何なのこの人……!
ベスも警告だけだし、命を奪うような攻撃ではないっぽいけど、気迫がすごくて怖いぃ……!
「うわぁあああっ……! な、なんでジャージめくってくる……うっひゃぁあああ! くすぐった……ちょ、なんで舐めて……あひゃははは!」
「どうだ……! 私がちょっと本気を出せば、人間なんてこんなもんだ! ほら、情けない声出して泣き叫べよ! ほらぁ、ふにゃんと言え、ふにゃんとぉぉ!」
裸の女性がとんでもない速度で俺に近付き、押し倒してくる。
何事かと思っていたら、女性が俺のジャージの上着を強引にめくり上げ、俺の腹をベロベロと舐めてくる。
ホァアアア……ハ、ハイラとはまた違った舐めかた……へ、へぇ、こういうのって人によって違いがあるんだね……ってそうじゃない!
舐めかたの感想とかどうでも良くて、受けた屈辱だの積年の恨みだのふにゃんと鳴けだの、誰なのこの裸の女性!
ん? よく見たらこの女性、星神の国で出会った闇の種族のリーダーとか言っていた女性に似ているような。
「う、うわぁぁああ! わ、私の先生の愛しのお腹が痴女に舐められているぅぅぅ! ふざけないで下さい、それは私だけの特権……!」
裸の女性に腹を舐められている俺を見たハイラが驚き、激怒。
いや、ハイラに俺の腹を舐めてもいい特権なんて無いから。
つか助けて。
「どうした、そこの女に舐められていたときは情けない声でフホニャアとか言っていたろ! 言え! 鳴け! ふにゃんだ、ふにゃん!」
ホァアアアア……くすぐった……ふにゃん?
そういえば、星神の国で闇の種族のリーダーである女性を相手にしたとき、愛犬の咆哮で服が全部吹き飛んで裸になって、ふにゃん、とか言って転んでいたな。
確か……ルリエラさんとか言ったか?
「……私のマスターを泣かせた……許さない……」
少し離れた場所にいる、木の実を持った男性のほうからものすごい速度で走ってくる女性。
これは……無表情だが、とんでもなく怒っている顔のアプティさん。
目が赤く光り、口から蒸気を漏らしたマジモードのアプティが、俺を襲っている裸の女性に手加減無しの蹴りを放つ。
「ちっ……狐の女め……! 弱いくせに邪魔してきて……!」
ちょ、アプティ、蒸気が……それアカンって!
確かに闇の種族のリーダーのルリエラさんなら格上で、本気を出さないとヤバイ相手だけど……。
ルリエラさんがアプティの蹴りを腕でガードし、吹き飛ぶ。
ど、どうする……このままじゃ、ここにいるみんなが上位蒸気モンスターだってハイラにバレるぞ。
と、とりあえず誤魔化せ……しかしどうやって……
ハッ……そうだ、もうこれしかない……!
「ハイラぁぁ! 俺の腹を舐めろ! 今すぐだ!」
俺は自らジャージをめくり、ハイラを呼ぶ。
「ふぇっ……? い、いいんですか……! やった、先生から舐めてもいいお誘いだー! 分かりました、もう存分に、やめてくれって言われてもやめませんから! ベロベロベロベロベロ……!」
俺の声を聞いたハイラの目が怪しく光り、狩猟者の顔になり飛び掛かってくる。
ひぎゃああああああ……!
さっきより強めじゃないかハイラ……加減せぇよ……!
アプティの口から漏れた蒸気を誤魔化すには、ハイラの視界を奪うしかない。
この状況、もう俺の腹を舐めさせるしかなかったんだって……!
他にもいい方法があるんだろうが、今の俺には思いつかなかった……
「…………?」
よし……! アプティが無表情ながら、マジ激怒から疑惑と疑問、不審者を見る顔に変化したぞ!
口から漏れる蒸気も止まったし、成功だ!
もう止めてもいいぞハイラ……ぎゃっはは、くすぐった……やめて、ハイラ……もうやめてぇぇぇ!
「最高……! 先生のお腹って最高ですぅーー!!」
その日、暗闇の山に謎の言葉が響き渡った──
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




