六百七十九話 暗闇の襲撃者1 ブルードロップを狙って役割分担と逃げる木の実様
「ええと、皆さん馬車移動お疲れ様です。時刻は十八時、日も落ちあたりは暗いですが、頑張ってクエストをこなしましょう」
「ベッス」
赤いお魚クエストは無事終了。
水槽に入れた『赤い貴婦人』を五匹冒険者センターに持っていったら、報酬の査定に少しお時間がかかるとのこと。
冒険者センター内にある「速い安い美味しくはない」と評判の食堂でお昼をいただくが、まぁ美味しくはない。
アプティなんて紅茶を飲んで無表情で震えだしたし、ハイラも無言。
アーデルニとドロシーも顔をしかめる状態だったが、夕飯、夕飯にはジゼリィ=アゼリィで食べますので、今はここで我慢して下さい。
そういえばお二人は銀の妖狐の島にいる、天才料理人の女性の味を知っているんだよね。
彼女はイケボ兄さんの料理の技を、見て盗んだ、というマジの天才。
つか……この二人を宿ジゼリィ=アゼリィに連れて行っていいものなのか……まぁ後で考えよう。
俺以外では、水着魔女ラビコがこの二人と会っているから、すぐに正体バレるだろうしなぁ。
お昼を食べてもまだ査定に時間がかかりそうだったので、追加でクエストをやることに。
「夜に馬車に乗り二人は山へと逃げる……彷徨い、途中みつけた山小屋に入り肩を寄せ合い、寒さで震える手を握り、二人は見つめ合う……この逃避行に終わりはないけど、二人は幸せ……そう、なぜなら愛さえあれば場所はどこだって構わない……」
ソルートンから馬車に乗ること数時間。
山の近くで降りる。
街灯も何も無い、本当に暗闇の山……ちょっと恐怖だが、ここらへんでクエストの目的物が回収できるらしい。
なんか愛犬が周囲をチラチラ気にしているな。
暗闇の山だしな、何かモンスターでもいるのだろうが、このメンバーでそうそう危険な目には遭わないだろう。
「さぁ先生、まずは山小屋をみつけましょう! そして愛の逃避行を……」
みつけねぇよ。
ハイラが恋愛系の物語っぽいストーリーを語り始めるが、何なんだよさっきから。
海では入水物語だし、山では逃避行だし。
なんでバッドエンドまっしぐらなんだよ、その二人は。
ここには冒険者センターで受けたクエストをこなしにきたんだってーの。
「ご主人様、今の物語の最後はどうなるのですか?」
アーデルニが真顔で俺に聞いてきたが、ちょ、ハイラの空想物語に興味を持たないで……。
「逃げるなら山より海を走ったほうが良くない? 絶対に追いつかれないし」
ドロシーも真面目に考え始めたが、だからあれはハイラの空想物語(悲恋)なんだって。
「……マスター、前……私と一緒に島に逃避行した……」
バニー娘アプティも無表情で反応し始めたぞ。
なんだ? 作家ハイラ大先生の物語は、蒸気モンスターにヒットする要素でもあるのか?
アプティさん、それはあれですよね、寝ている俺を勝手に抱えて海走って島に連れていかれたやつですよね。
蒸気モンスターという種族だからしょうがないのかもしれませんが、そういうの、人間の文化では逃避行ではなくて、拉致って言うんですよ。
そう、犯罪です。
まぁ俺を守るためにとった行動だって分かったから許すけど。
「そ、その物語の結末は後でな。ここには三人の連携を学ぶために来たのを思い出していただいて、クエストを優先しよう」
ハイラの空想物語の何かが蒸気モンスターの皆さんの琴線に触れたらしいが、今はクエストで山にいることを忘れないでね……。
「ええと、今回は『ブルードロップ探索』だな。何やらほんのり魔力を含んだ木の実が、数十年に一度ぐらいの頻度で見つかるんだと。それは夜になるとぼんやり青く光るとか。相当な貴重品らしく、多分見つからないとは思うけど、暗闇の山での探索は連携が大事ってのを学ぼう」
「はい先生! じゃあ私たちは山小屋探しに集中ですね」
探さねぇよ。
ハイラが元気に挙手をして言うが、まだ物語続いてんのかよ。
「アプティ、アーデルニ、ドロシー、こっちへ」
「……はい、マスター……」
「なんでしょうご主人様」
「はーい、整列ー」
俺は三人のバニー耳女性、蒸気モンスターの三人を呼び、今回の連携のポイントを伝える。
「リーダーであるアプティを真ん中に、右をアーデルニ、左をドロシーの布陣で動く。行動を起こすとき、初手は必ずドロシー、二番手がアーデルニ、そして最後に仕留める役がアプティだ。これでやってみよう」
「……私が、最後……はい、マスター」
「なるほど、陣形と動く順番ですか。確かに連携では大事ですね」
「りょーかい! まずは私がドーン、だねー」
三人が頷いてくれた。
まずドロシー。
彼女は索敵能力が高い。
さっきの赤い魚、全部ドロシーが見つけたそうだ。
対象を見つけないことには作戦が実行出来ないからな。まず見つける、そして動いてもらう。
二番手はアーデルニ。
本当は彼女が一番リーダーに向いている。
状況把握能力がとにかく高く、頭の回転も速い。言語化も出来る。
ドロシーの初手で逃した情報があっても瞬時に把握し、行動に起こせるだろう。
そして最後はアプティ。
アプティは基本的に個人行動で完結させてしまう傾向が強い。
そしてそれを叶えてしまえる戦力と速度がある。
この三人の中では突出して能力が高いのだが、今回は『格上相手の連携』を学ぶことが目的。
一人でどうしようもない相手でも、複数で仕掛ければ隙を作ることが出来る。
索敵ドロシー、搦め手アーデルニ、そして二人が作った隙をアプティが逃さず一撃。
今回アプティには、二人の動きを見て行動を決めるという手順を覚えてもらおう。
そしたら連携っぽくなるだろ。
多分。
「じゃあ暗闇でケガをしないように、目指すは貴重なブルードロップ! よし、作戦スタート!」
俺が号令をかけると、三人がダッシュで山の中に消えていく。
うっへ、さすが蒸気モンスターのみなさん、動きが速い。
「うわぁ、さすがあの強者であるアプティさんのお知り合いですねぇ。みなさん動きが人間離れしていますぅ」
隣のハイラが三人の動きを見て驚くが、そういやハイラはアプティとお遊びで戦ったことがあるからな。
確かに動きが人間離れしているが……まぁそういう高レベル冒険者ってことにしておこう。
「ベッス」
山のほうをじーっと見ていた愛犬が吼える。
これは警告……?
「みつけたー! ご主人様ー、ありましたよじんわり青く光る木の実ー! って、あれ、木の実が逃げていくー! ご主人様ー、この木の実って逃げるんですかー?」
一番で山に入っていたドロシーから発見報告が。
早すぎだろ……一応それ、すんごい見つけるのが困難な木の実らしいんだが……って、木の実が逃げる……?
いや、冒険者センターのクエスト資料にはそんなこと書かれていないが……。
まぁここって異世界だし、俺の常識では計れないことが起こることもあるか。
見ると、ドロシーの先にぼんやりと青く光る物があって、それがものすごい速度で移動している。
はて……人影……?
誰かが木の実を持って移動しているように見えるが……
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




