六百七十八話 海上入水デートで腹舐めに耐えて赤い貴婦人を狙え様
「なるほど、つまりそういう訓練がしたいってことね。二人は冒険者カードは持っている? あるなら冒険者センターでクエストを受けてみようか、それが一番手っ取り早いと思うよ」
こういうのは実戦あるのみ。
「はい、いつご主人様に呼ばれてもいいように、作っておきました」
「これ、ご主人様と別れてからすぐ作ったんだよー? アーデルニが騒いですごかったんだー、いつお呼ばれするか分からないからって」
アプティも冒険者カードは持っていたけど、アーデルニさんとドロシーさん二人ともカードは持っているのか。
……今のところ大丈夫っぽいけど、一応二人には釘を刺しておくか。
「その……アーデルニさんとドロシーさん、分かっているとは思うけど、極力本気を出すのは避けてね。余計なトラブルはなるべく起こさないほうがいいからさ」
アーデルニさんとドロシーさんに近付き、小声でお願いをする。
まぁアレだ、蒸気モンスターと一発で分かる行為は避けてくれってやつだ。
「もちろん、それはアージェンゾロ様からもきつく言われております。余程のことが起こらない限り、ご主人様の指示に従います。あと、私たちのことはアーデルニ、ドロシーとお呼びください。敬称は不要です」
「そうそう、『さん』とかキモいってー。あー! ご主人様、私があげた指輪付けてくれてるー! アーデルニー、これって恋愛マスターに加算されるやつだよー」
アージェンゾロ様……? あ、そういや銀の妖狐の名前がそんなだったな。
……ん? 今回のって、銀の妖狐絡みなの? んん?
「ええと、そうですね。『贈ったアクセサリーを普段から付けてくれている』は大幅加点ですね。この本、点数表示がありますので、人間の文化を学ぶのに最適ですね」
指輪? ああ、以前銀の妖狐の島でドロシーさ……敬称不要だったな、ええとドロシーから貰ったやつか。
ガラス製の指輪で、普段から右手の人差し指に付けているぞ。
なんか綺麗だし、軽くて良いんだよね、これ。
アーデルニがまた例の本を開き、満足気に頷いている。
うーん、それ……恋愛のイロハを学ぶものであって、人間の文化を学ぶ本ではないんだよなぁ……。
でもまぁ二人とも楽しそうだし、いいか。
「……指輪……結婚……」
二人の後ろで、バニー娘アプティが無表情で俺があげた指輪をさすっている。
だからそれは結婚とかじゃなくて、感謝を込めて贈った指輪な。
「ちょ、なんで小声で盛り上がっているんですか! クエストなら私も行きますよ! 私も近日中に騎士を辞めてソルートンで冒険者になりますし、先生との連携もより深いものになっていきますので、事前に二人で学ぶことは大変有意義なことで……」
ハイラがダッシュで近付いてきて、アプティたちを威嚇しつつ俺にがっしり抱きついてくる。
近日中……だからハイラはしばらく騎士を辞められないって……。
「天気快晴、海穏やか。行くぞみんな、狙うは海の『赤い貴婦人』!」
冒険者センターでクエストを受け、ソルートン港に移動。
「手漕ぎボートとか初めてですぅ。ああ、これ良いですね、まさにデートって感じですぅ。煩わしい現実の喧騒から離れ、愛する二人は新天地を求め船を漕ぐ……数日後、二人は大海原の真ん中で光に包まれ、永遠の愛を手に空へ……」
釣り用の手漕ぎボートをレンタルし、目的のお魚さんがいそうな場所を巡る。
ソルートン近海に生息している赤いお魚さん、漁師さん曰く『赤ヒゲ』なのだが、それがとても美しい見た目らしく、観賞用として人気らしい。
観賞用のお魚を取り扱っているお店では『赤い貴婦人』と呼ばれ、お店に持ち込めば結構な高額で買い取ってもらえるとか。
三人用ボートなので、俺とベス、ハイラの三人。
連携を学びたいアプティ、アーデルニ、ドロシーの三人の二手に分かれクエスト開始。
ハイラがうっとり顔で何か言っているが、それって遭難からの天に召されるコースじゃないか。
入水デートじゃなくて、クエストだって言ってんだろ。
まぁ日本でも公園の池にあるボートに乗る、っていうデートコースは人気らしいな。
俺はしたことないが。
「ふふ、風が気持ちいい。王都では絶対に味わえないこのゆったりとした時間の流れ……良いですねぇ、こういうの」
ハイラが海風でなびく髪を押さえ、優しく微笑みながら俺を見てくる。
おっと、急に普通の女の子になったな、ハイラ。
ハイラは見た目は美人さんなので、そうこられると、十六歳の少年は半開きの口で見惚れるのみ。
まぁハイラは王都でずっと忙しかっただろうしな……さっきまでの行動も、溜まったストレスのせいだろうし、ソルートンにいるあいだぐらいはハイラに心穏やかに過ごしてもらいたい……
「こういうの……うふふ、待っていましたよ、こういう状況……! 船の上、邪魔者はいない……さぁ船を誰もいない方向に進めてもらって、逃げられない海上で初めての合体……ぅんごっ! え、ちょ、アプティさんは向こうの船にいたはず……!」
「……マスター、いました……赤いの……」
ハイラの顔が狩猟者へと変貌し、両手を構え俺に飛び掛かってきたが、突如現れたバニー娘アプティに顔面をつかまれ驚愕の声を出す。
「あ、ありがとうアプティ、助かったよ……」
ん? あれ? 自慢の跳躍力を生かして俺たちの船にジャンプしてきたのかと思ったが、アプティさんが立っているのは海の上……
「ご主人様ー、何匹取ればいいのー?」
「確かにこの赤い魚、綺麗ですね。食べられないんですか?」
見ると、ドロシーとアーデルニも海の上にいて、スタスタと歩いている……え、ちょ……!
「ハイラ! 今日は日差しが厳しいから顔の日焼けには気を付けないといけないんじゃないかな!」
「え、あ、せ、先生……! 今日は強引な感じでしたいんですね……分かりました、私は先生に身を委ね……」
俺は慌ててハイラを抱き寄せ、顔を俺の胸に埋める。
今俺が見ている光景を、絶対に視界に入れてはいけない……!
……そういえばアプティって、海の上を走れたな。
思い返すと、銀の妖狐も海の上に立つとかやっていたし、もしかして蒸気モンスターの皆さんって、普通に海の上に立てる種族なんですかね……。
『赤い貴婦人』というお魚は、見つけるのも取るのも大変なお魚さんらしいのだが、なぜか海に出て数分で五匹も捕獲完了。
アーデルニが手刀を振るうと海が割れ、そこにアプティとドロシーが瞬時に飛び込むという、人間では出来ない漁法なのだが……まぁ一応三人で連携取っていたし、結果オーライか……。
「ああああああああ……! 先生の香りに包まれています……! もう我慢出来ません、ベロベロロロr……」
「ベッスベッス!」
「ほわっひゃああぁああああ……! や、やめ、ハイラ、腹を舐めるのはやめ……ちょ、ベスぅぅイヒギィィホハァ!」
その間、俺はハイラの視界を奪う努力をしていたのだが、大興奮のハイラが俺のジャージをめくり腹をベロベロ舐めてくるという状態に。ついでにベスも舐めてきた。
俺は耐えた──
アプティとアーデルニとドロシーの正体を守るために……ってか三人ともボート使ってよ!
言いたかないけど、手漕ぎボートを借りるの、結構なお値段したんすよ……
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




