六百七十六話 冷静ハイラとバニーでメイドな襲撃者様
「わはー、また一緒にごはん食べようねリーダー」
「今度またクエストやろうよ、クエスト! あれから私たちもちょっとは成長したからさ、それを見せたいんだ」
「……美しい……」
初心者パーティーのみんなとの朝ごはんも終わり、宿に帰ることに。
「分かった、宿ジゼリィ=アゼリィに来てくれればごはん奢るし、今度クエストもやろうな。クロスは早く正気に戻れよ」
魔法使いのエリミナル、盗賊ルスレイ、剣士クロスがパーティーの拠点であるお店の前で見送ってくれる。
クロス君は、ハイラを見てからブツブツと呪文を呟くようになってしまったな。
別れ際、冒険者センターでもらったペルセフォス王都までの往復チケットを渡したら、すごい喜んでもらえた。
まぁペルセフォス王都出身の盗賊ルスレイにとっては、ただの里帰り、なんだろうけど。
「一目ぼれかぁ……青春だねぇ」
隣を歩く、どうやらクロスに一目ぼれされたっぽいハイラを見る。
まぁハイラって、結構な美人さんだしなぁ。
「え? 私は一目ぼれじゃあないですよ? 私は先生の見た目も声も動きも考え方も喋り方も、そしてたまに見せてくれる優しい笑顔が好きで、一生見ていたいからお側にいようとしているんですよ? 一目ぼれとか、見た目特化の一方的な理想の押しつけじゃあないですか。そんなの、長続きしません」
なんか恋愛ドラマみたいでいいなぁと、日本で見たことがある有名な作品を思い返していたら、ハイラから痛烈な意見が飛んでくる。
おおう……ハイラさん意外と冷静女子。
でも一目ぼれからスタートして上手くいった例も見たことあるし、一概に悪いことじゃあないと思うんだがなぁ。
とりあえず付き合ってみる、そうじゃないと見えてこない部分も……って、どんだけイケメンのセリフなんだ、これ。
成功例すら持っていない童貞の俺が言って良いセリフじゃあなかった、すまない。
「ところで先生、彼等はどこの組織に属した人なんですか? 一体何の目的で先生に近付いて来たのか、二十四時間監視して後をつけて尋問して吐かせるとかして、キチンと調べないとだめですから!」
散歩をしてリンゴも食べれて愛犬ベスもご機嫌だし、さぁ宿に帰るかと思っていたら、ハイラが真面目な顔で迫ってきた。
そ、組織? 尋問……? こわっ。
「え? いや、彼等は冒険者だから、冒険者センター所属のパーティー……なんじゃないかな……」
そういえばさっきから、初心者の彼等を悪の組織呼ばわりしたり、今もどこの組織とか聞いて来たり……一体なんなんだ?
彼等は冒険者で、仲良くしてもらっている初心者パーティーの人たちだぞ。
「これは極秘ですが、先生はあっちこちから狙われているんです。今はラビコ様がわざと大げさに振る舞って自分に注目を集めさせていますが、いつどこで情報が漏れるか分からない……」
「私のご主人様から離れろ、人間」
なんだか怖いことを言うハイラに迫られて困っていたら、突然ハイラの後ろに残像が現れて手刀を……
「ハイラこっちだ!」
「え……?」
俺はハイラにがっしり抱きつき、思いっきり引き寄せる。
「あ、そんな先生、朝早くで誰もいないからって商店街の路地でするなんて……」
ハイラが顔を真っ赤にして俺を見てきたが、そうじゃねぇよ!
誰かに急に襲われたんだっての!
さっきハイラが言っていた、俺が狙われてってやつか?
くそ、誰だか知らないが、俺の仲間に手を出すとか……許さねぇぞ。
「ベス! 真上に吼えろ! 弱めでいい!」
「ベッス!」
誰かは分からない。
でもベスは反応しなかった。
……ってことはベスが知っている人物?
私のご主人様から離れろ……?
なんかこの声とご主人様ってワード、どこかで聞いたような……
「うわっふぅ! アーデルニが陽動で、本命の私が上から襲うのバレてるー! さっすがご主人様! どけ人間、その抱擁は私が受けるべき」
俺の目に反応があったのは二つ。
一つは正面、そしてもう一つは、真上。
さすがに俺は上空の攻撃手段は持っていない。愛犬に弱めに吼えてもらって、衝撃波で威嚇させてもらう。
ベスの咆哮を受けた人物が着地し、俺に張り付いているハイラをはがし、体を押し付けてくる。
女性? 敵意無し、と。
「え、ちょ、なんですか先生、このバニーメイドの女性たちは!」
俺からはがされたハイラが怒っているが、バニーメイドの女性に知り合いなんていないのだが。
えっと、服は無事、よし。
またベスの咆哮で女性の服を吹き飛ばしたら、何を言われるか分からないからな……。
見ると、頭には確かにバニー耳を付けている。そして服装は、メイド服。
頭にバニー耳……なんかうちのバニー娘アプティみたいだな。
「失礼いたしました。こちらの方はご主人様のお知り合いでしたか。遠目にはご主人様が襲われているように見えましたので、つい。ドロシー、少し横にずれなさい。私もその、抱擁を……」
音もなく俺の目の前に現れたのは、これまた頭にバニー耳をつけたメイド服の女性。
ドロシーにアーデルニ?
あれれ? この女性二人、どこかで見覚えがあるぞ。
「…………マスターから離れて……」
「はっ、失礼いたしました」
「はぁーい。ご主人様久しぶりー、全然来てくれないから、会いに来ちゃった」
俺の背後からとても聞きなれた声が聞こえ、女性二人が俺から離れる。
この声……
「アプティ! 良かった、急にいなくなったから心配したんだぞ」
振り返ると、俺の少し後ろ、いつものポジションにバニー娘アプティが無表情で立っていた。
……いや、ちょっと不機嫌そう?
でも良かった、帰ってきてくれて。
やっぱりアプティがいてくれると安心するな。
「うわ、いいなぁ。私もご主人様にその笑顔向けて欲しいー。ねー、アーデルニ」
「仕方ありませんよドロシー、積み上げた信頼が違いますから。これから私たちは、あれを目指すのです」
「うう……やっぱり先生の信頼が大きいのはアプティさん……まだ精進が足りないぃ」
ハイラが唇をかみしめて悔しがっている……ってアプティの後ろに移動したこの女性二人……。
「アーデルニさんにドロシーさん……ああ、島で俺のお世話をしてくれた……」
思い出したぞ。
以前俺は銀の妖狐の島に連れて行かれたことがあるが、そこで俺の身の回りのお世話をしてくれたメイド軍団。そのリーダー格のアーデルニさんと、俺にガラスの指輪をくれたドロシーさんだ。
危うく蒸気モンスターの、と言うところだった。
ハイラの前では正体をバラさないほうがいいだろう。
多分とっても面倒なことになるし。
昨日の夜、バニー娘アプティが急に消え、朝に帰って来たと思ったらお仲間のメイドバニー連れ。
これは……一体何が起きているんだ……?
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




