六百七十三話 アプティのいない早朝愛犬散歩と初心者パーティーに突如襲い来る謎の女性騎士様
「ベッスベッス!」
「ふぁぁねむ……あれベス、今日はそっちに行くのか?」
ハイラ歓迎会の翌朝六時過ぎ、俺は愛犬ベスといつものお散歩へ。
ベスの散歩は、基本愛犬任せ。
気分で行きたいルートも違うだろうし、俺はそれについていくだけ。
宿ジゼリィ=アゼリィをスタートして南方向に行けば砂浜ルート、北側に行けば冒険者センタールート、そして東に行けば商店街と港ルート。
今日は東、商店街方向か。
ちなみに宿ジゼリィ=アゼリィから西は山と森コースなので、あまり行かない。なんというか、獣道に山道なので、日本の都会育ちの俺の体力がもたない、という理由で。
昨日のハイラ歓迎会、後半は女性陣が妙な方向に暴れて大変だった……。
なんとかなだめて、そのあとハイラに長旅の疲れを取ってもらおうとお風呂に誘導。
ロゼリィにラビコ、クロと一緒に薔薇が浮いているお風呂に入ってもらう方向でまとめて何とか逃げ切った。
何となく……ハイラって商売人アンリーナに近いパワーを持っているんだよな……。
「ベッス、ベッス」
海が見たかったのか、愛犬ベスが港に向かい、朝日に照らされた水面を眺めている。
「朝から良い天気だな、ベス。熱心に見ているけど、海の向こうに何か見えるのか?」
海の向こう、か。
俺がこちら、日本から異世界に来たばかりのころ、海の向こうに大きな動く島が現れ、銀の妖狐率いる蒸気モンスターの軍勢にこの街、ソルートンが襲われたことがあった。
街の冒険者のみんなや、ルナリアの勇者メンバー、サーズ姫様率いるブランネルジュ隊の皆さんが協力をしてくれたおかげで、なんとか銀の妖狐は追い返したけど、あれはマジできつかったなぁ。
日本にいるとき、ネット小説やアニメで知った異世界に単純に憧れていたけど、剣や魔法がある世界って、つまりそうやって自衛をしないと生きていけない世界ってことなんだよね。
普通のモンスターなら、うちには水着魔女ラビコとかいう世界に名を馳せる系の大魔法使い様がいるので何とかなる。
でも先ほど名前を出した蒸気モンスター、それが相手だとそうはいかない。
普通の武器なんてまず当たらず、魔法を使った遠距離攻撃や火力高めの魔法的な技が使えないと勝ち目はゼロ。
そして銀の妖狐とかいう上位蒸気モンスターは、水着魔女ラビコですら足元にも及ばない強さをほこる。
うちの愛犬がチート能力持ちだったから無事で済んだけど、本当に生きた心地がしなかった。
「ああああ、もう俺の愛犬って可愛いうえに最強とか最高すぎる!」
「ベッスベッス!」
自慢の愛犬をじーっと眺め、あまりの可愛さに我慢できず抱きつくと、ベスも嬉しそうに俺の頬を舐めてくる。
「……アプティ、いないなぁ」
昨日のハイラ歓迎会の途中でバニー娘アプティが突然消え、いまだに戻って来ていない。
朝はアプティが起こしてくれるのだが、今日は愛犬の『腹減ったダイブ』だけだった。
いつも側にいてくれる無表情な女性、バニー娘アプティ。
俺と水着魔女ラビコだけの秘密だが、彼女の正体は人間ではなく、蒸気モンスター。
蒸気モンスターとはいえ、人間を襲ったりしないし、むしろ俺を守るために来たという。
そして彼女の元いた場所は海の上、そう銀の妖狐の動く島。
「何か用事があって、一回帰ったのかな……」
「ベッス」
ベスも心配で、散歩コースに海が見える港を選んだのだろうか。
「なんにせよ、アプティが側にいないのは……寂しいなぁ」
「あれ? わはー、リーダーだー!」
「本当だ、一人でいるとか珍しいこともあるもんだね」
ぼーっと海の向こうを眺め感傷にひたっていたら、背後から元気な声が聞こえた。
「おっと、エリミナルにルスレイじゃないか。どうしたんだ、こんな朝早くに」
振り返ると、女性二人が笑顔で駆け寄って来ていた。
ああ、以前初心者パーティーを組んだ魔法使いのエリミナルと盗賊のルスレイじゃないか。今は朝六時過ぎ、何か用事だろうか。
「リーダーおはようー! 一人? 一人? バニーさんとかいないの?」
「え、あ、ああ、アプティならちょっと用事で今いないんだ」
エリミナルが周りをキョロキョロしながら、元気に抱きついてくる。
「ベッスベッス」
「おっと、ごめんごめん、ベスちゃんが一緒だったね。いっつも側でリーダーを守っているもんね。偉い偉い」
愛犬ベスが挨拶返事をすると、ルスレイが謝りつつベスを撫でる。
「ね、リーダー、一緒に朝ごはん食べない? 今から港のお店で新鮮なお魚さんを買って、焼き魚にしようと思ってるのー」
エリミナルが俺にぐいぐい体を押しつけながら、漁港にある商店を指す。
「ここで買うと安いのさ。しかも美味いしね。エリミナルも言ったけどさ、朝ごはん一緒にどう? そりゃああんたのとこの宿には敵わないけどさ、たまにはパーティー全員でご飯とか食べたいしさ。ね、いいだろ?」
「え、パーティーで朝ごはん? あー、確かに俺、こっちのパーティーのリーダーもやっていたな……」
魔法使いであるエリミナルはよく抱きついてくるが、盗賊のルスレイはどっちかっていうと冷静系女子だったのに、珍しくグイグイ来るな。
漁港でお魚買って焼き魚か……うん、いいなそれ。
別に宿に帰ればイケボ兄さんのウマウマごはんがあるのだが、初心者パーティーのみんなと一緒に作る朝ごはんも心惹かれる。
「よし分かった、漁港で良いお魚買って朝ごはんと行こうか……」
「ぁぁああああああああ! 私の先生に対する無断抱きつき&強制勧誘行為……ついに尻尾を出したな極悪敵対組織ぃ! 悪、即、斬! 滅ぶべし滅ぶべし……! 喰らえぇ全ての間接が逆に折れ曲がるという、必殺……連打連撃追い打ち無双ですぅ!」
エリミナルとルスレイと共に漁港のお店に行こうとしたら、背後からとても聞きなれた叫び声が聞こえ、木刀装備の女性がとんでもない速度で突っ込んできた。
「わはっ……! ぼ、暴漢、武器を持った暴漢ですー! リーダーを守らないとー……!」
「な、なんだいあれ……! は、速い……!」
ぼ、暴漢……?
ってどう見ても今ソルートンに滞在している女性騎士、ハイラじゃあないか。
なんで風の魔法全開で、マジで突っ込んできてんだよ!
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




