六百七十話 俺の腹を舐めに来たハイラの謎の極秘任務様
「先生が全然会いに来てくれないので、ソルートンに来ちゃいました!」
宿ジゼリィ=アゼリィ新商品、愛犬ベスの可愛いイラストがデザインされたパッケージのクッキー詰め合わせを販売したが、これが大人気。
焼き菓子で日持ちもするので、贈答用に買った、という人が多かった印象。
用意した数があっという間に売り切れ寸前、もうすぐ無くなるな、というところで俺の手をがっしり握ってくる女性騎士が現れた。
びっくりして見ると、そこにはペルセフォス王都にいるはずの女性騎士、ハイラが笑顔で立っていた。
「こ、紅茶でよろしいですか?」
「あ、はい、お気になさらずに! うん、美味しい! 王都にあるカフェで飲みなれた味です! そう、これはまさに先生の味、毎日飲みたい私の活力源!」
宿の娘ロゼリィが恐る恐る紅茶を振る舞うと、ハイラが豪快にグビグビと飲み干し、おかわりを要求してくる。
俺の味? 活力源? よく分からんが、ペルセフォス王都からの長旅で喉が渇いているのだろう。ロゼリィに紅茶のおかわりをお願いする。
ちなみにクッキーは全て売り切れたので、また次回入荷をお楽しみに、と簡易露店を撤収。
試験的な販売だったが、すぐに売り切れる勢いの人気だったので、通年で売れるように宿のオーナーであられるローエンさんと、料理人であるイケボ兄さんに相談してみよう。
さて、王都にいるはずの騎士ハイラがソルートンに急に現れ、クッキーを買っても帰る様子もなくニコニコ笑顔で俺の腕にくっついてきたので、話を聞こうと食堂のいつもの席に座ることに。
有休を使っての観光か?
いや、それならペルセフォスの騎士の証である制服は着てこないか。
それを着て王都から来たということは……お仕事、か?
「でも出来たら本物の先生を毎日頂きたいです! だめですか……? いいですよね! だって先生は私の勇者様ですし、ずっとお側で一緒に生きていくって決めたんですから!」
ハイラが二杯目の紅茶もグイっと飲み干し、一体何の用事なんだろうと肘をつき思案をしていた俺のジャージを迷いなくめくり上げ、おへそ辺りをベロベロと舐めてくる。
「フホニャァアッフ! ちょ、ハイラ! ここ食堂なんだゾヒヒャアア……!」
「ベロベロロンン……ああああああああ……先生の悲鳴が乾いていた私の脳に染みわたります……! これです、これこそ私の先生なんです! え、食堂じゃなければ続きをしてもいいんですか! 分かりましたすぐに先生の個室に移動してお互いを舐め合い……いたぁ!」
最近ハイラと会っていなかったので、完全に油断していた。
そういえば以前も躊躇なく俺のジャージをめくってお腹を舐めまわしてきたな、この子……。
ハイラってこういう子だった……。
そして俺、こんな声出せるんだな。
「こらぁ~! 混み合う食堂で私の男の腹を舐めるな~! 私だってしたことないのに~、じゃなくて、まずはここに来た説明をしろって~の!」
押し寄せるお腹への刺激で奇声を上げのたうち回っていたら、水着魔女ラビコがハイラの頭を勢いよく手刀一撃。
ハイラが涙目で頭を抑え、やっと大人しくなった。
た、助かった……結構強めのチョップだったけど、ありがとうラビコ。
「ふぁ……ふぁ……」
「にゃっはははは! すげェなハイラ、そっか、キングって腹舐めるとあンな面白れぇ声出すんだな。今度アタシもやってみよっと」
俺が床にのたうち回りながらお腹を舐められている様子を、宿の娘ロゼリィが顔を真っ赤にさせて眺め、猫耳フードのクロが俺を指して大爆笑。
こういうイレギュラー対応って性格出ると思うが、クロが厄介思考。
「…………」
バニー娘アプティは無表情。
まぁこちらもいつも通りか。
いや、アプティが俺ではなくて、じーっと宿の入口を見ているが……はて。
「ベッス!」
「うっは、違うってベス、みんなで俺のお腹を舐めていい遊びじゃあないって!」
こちらも宿の入口方向を気にしていた愛犬のベスが、我慢出来ない、といった感じで楽しそうに俺の腹に飛び掛かってきた。
ちぃ、ハイラの奇行が俺の可愛い愛犬にまで影響出しているじゃねぇか。だめだぞベス、あれは犯罪一歩手前の、いや一歩超えた行動なんだから。
真似しちゃいけません。
「……おほん、とりあえず、ようこそソルートンへ。忙しい中よく来てくれたね、ハイラ。何の用事かは分からないけど、滞在中はこの宿を使って大丈夫だから」
「もちろん私は先生のお側にいますので、そのつもりの極秘任務です!」
宿一階の食堂で暴れて大注目されてしまったので、慌てて二階にある俺の部屋へ移動。
テーブルを出し、ハイラのお話を聞くことに。
ハイラがニッコニコ笑顔で俺にくっついてくるが、極秘任務?
よく分からんが……やっぱり何かしらのお仕事ではあるのね。
「ったく~、この大魔法使いであるラビコさんがいるってのに、何事か起きるわけがないだろう~? 過剰だって~の~」
「なんのことかさっぱりです! ね、先生!」
水着魔女ラビコが面倒そうに言うと、ハイラが満面笑顔で俺を見てくる。
いや、俺に同意を求められても分からないんだっての。
……とりあえず極秘とか言っているし、何を聞いても答えないって意味なんだろう。
ラビコが何か分かっているっぽいし、俺が知らなくても大丈夫か。
つかハイラの弾けっぷりがすごいのだが、その極秘任務とやらは、あんな混み合う食堂で騒ぎを起こして注目されて大丈夫だったんでしょうかね。
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




