六百六十九話 愛犬ベスのクッキー販売と手を握ってきた女性騎士様
しばらくして、宿ジゼリィ=アゼリィの贈答用クッキーセットのパッケージが完成。
宿のオーナーであられるローエンさんに許可も取ったが、とりあえずお試しで限定販売、評判が良ければ通年商品として考えよう。
「うわぁ……可愛いですね!」
「あれ~? これベスじゃん。職権乱用~? ついに社長の犬が宿ジゼリィ=アゼリィの看板キャラになったのか~」
「ベッス!」
出上がった新商品『ジゼリィ=アゼリィクッキーアソート』を見た宿の娘ロゼリィが笑顔になり、水着魔女ラビコが的外れなことを言う。
ラビコ、ちゃんとオーナーであるローエンさんに許可を取ったって言ってんだろ。
ほら見ろ、名前を呼ばれて反応した我が愛犬のベスを。
超可愛いだろう? この可愛さをクッキーと共にお持ち帰り出来るんだぞ。この世で一番満足度の高いお金の使い方が出来る最高の商品だぞ。
「……クッキー……紅茶ととても合う……でもアップルパイのほうが、合う……」
バニー娘アプティが俺の後ろから覗き込み、無表情で自分が一番好きな組み合わせを主張してくる。
いやアプティさん、パッケージを見てね。
ほら、異世界でも世界一可愛い俺の愛犬ベスがキャラクターとして描かれているだろう?
「お? これベスじゃん、超可愛いじゃねぇか。贈答用? あー、これはアタシも欲しくなるわ。つかよ、この宿充分稼いでないか? まだ稼ぐ気なのかよキング、エッグいなぁ。にゃっはは」
猫耳フードのクロがひょいっと商品を持ち上げ、マジマジと眺めながら感想を言う。
お、クロにも褒められたぞ。な、俺のベスは世界一可愛いだろう?
ああ、これで稼ぐつもりはないぞ。
贈答用、これを贈られた人が食べて美味しいと思う、そうしたらお店まで足を運んでもらえるのでは、という新規のお客さん開拓商品だ。
お店にさえ来てもらえれば、クッキー以外にも美味しいモーニングにランチにディナー、日替わりのデザートにお風呂施設から宿まであって、アンリーナの会社、ローズ=ハイドランジェとコラボしたシャンプーとかもあるからな。
絶対にお金を支払う価値のあるものを宿ジゼリィ=アゼリィではご提供しているし、サービス、値段、質、全てに自信がある。
宣伝含む、ってやつなので、パッケージにはベスの他にも宿ジゼリィ=アゼリィのロゴがバッチリとプリントされているし、裏には宿の場所を地図ありで表記している。
色んな種類のクッキーがランダム封入で、十五枚入りセットが20G、日本感覚二千円。五十枚入りが50Gで五千円感覚。後者のほうが断然お得だぞ。
日持ちもするので、ぜひ女子会などのお茶受けにどうぞ。
もちろん、宿ジゼリィ=アゼリィでは神の料理人、イケボ兄さん厳選紅茶も販売しているので、一緒のご購入も……ってそうだな、紅茶葉とのセットもいいな、よし、すぐローエンさんに交渉だ。
「茶葉とのセットも作ろう。ロゼリィ来てくれ、ローエンさんに交渉しよう」
「は、はい! ふふ、本当にあなたと一緒だと、宿が次々と進化していきます。これからも二人でずっと、一緒に頑張りましょうね」
ローエンさんの許可を取らねばと、娘さんであるロゼリィを連れて行こうとしたら、ロゼリィが満面の笑みで左腕にくっついてきた。
え? 二人でずっと?
あ、まぁ、宿ジゼリィ=アゼリィにはお世話になっていますし、俺の家もあるし、もちろんご協力しますよ。
「この夢見る乙女は何を急に告白してんだか~。つか私もずっといるから二人ではないよ~。この大魔法使いであるラビコさんを出し抜くとか不可能なのさ~! あっはは~」
水着魔女ラビコが腰に手を当てて爆笑し始めたが、お前は本来ソルートンとかいう港街じゃなくて、ペルセフォス王都にいないとマズイんじゃなかったか?
確かお前、国に雇われている状態なんだろ? その条件もペルセフォス王都に常駐すること、みたいな感じだったような。
サーズ姫様が以前そんなことをグチっていたろ。
「……朝起きれないマスターには、私がずっと必要かと……夜も……」
え、あ、まぁその、バニー娘アプティさんは毎朝起こしてくれるし、ありがたいんだけど、別に俺一人で起きれるぞ。
……夜も、ってのは、何?
「アタシもずっとキングといるぞ。だってそうじゃねぇとヤれねぇし。あとアタシすぐ下着でうろついちゃうからよ、注意してくれる存在が必要なンだよなぁ。にゃっはは!」
猫耳フードのクロさんがまたセンシティブな発言を……。
つか俺に注意されなくても、毎日服を着ろ。
クロはまず人間に進化しような。
「本日発売! ジゼリィ=アゼリィクッキーアソート! 可愛いベスちゃんがパッケージに描かれた、とっても美味しいクッキーセットです!」
お昼、ローエンさんの許可も取れたので、クッキー単品と、クッキーと紅茶葉とのセット販売のラインナップで販売スタート。
ポニーテールが良く似合う正社員五人娘のセレサが、元気よく宣伝をしてくれる。
「お、ジゼリィ=アゼリィの新商品か。パッケージにいるのベスちゃんかい? 見た目も良いし、これなら日持ちもするし、地方の親戚に送ろうかな」
「入れ物が可愛いわねぇ、あら、ここの美味しい紅茶葉とのセットもあるの? 五十個入りのセットをちょうだい。今度ティーパーティーを開こうかしら」
お店の外に机を置き、街道を歩いている人にアピール。
気付いてくれたお客さんが次々と並んでくれ、販売開始数十分でクッキーの単品販売が売り切れ状態。
おっふ、予想以上の売れ行きだ。
これは今日だけで在庫なくなりそう……
「へぇ、ベスちゃんをパッケージにしたんですかぁ。これは可愛いですね、さすが先生です! 五十枚の紅茶のセットを下さい! 先生と個室で抱き合ったあとに、これで幸せ余韻時間を楽しもうかと!」
「あ、はいありがとうございます。セットのは60Gになりま……」
セットのももうすぐ無くなるな、と思いながら販売をしていたら、俺の手をがっしり握ってくる女性が。
あ、従業員の女性にお触りはやめ……って男の俺の手を握ってくる女性、だと……?
びっくりして見ると、お美人さんが微笑んでいる。
服装は白と青のペルセフォスカラーの、ってこれ、ペルセフォス王国の騎士が着る制服だよな?
ああ、街を警備してくれている女性騎士が、休憩時間に買いに来てくれたのかな?
「そんなにじっくり私の体を見るということは、溜まっているんですか? あれれ、これだからソルートン組はダメなんですよ。分かりました、私が先生の強めの欲をバッチリ受け止めましょう! さぁ、先生の個室に! 先生の立派な愛人であるハイライン=ベクトールが先生の欲を解放して差し上げます!」
女性が元気に名乗り、俺を宿の中に引きずっていく。
ち、ちょ、力つよ……!
って、ハ、ハイラ……?
うわ、よく見たらマジでハイラじゃないか!
え……? な、なんで王都にいるはずの騎士、ハイラがソルートンにいるんだ……?
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




