六百六十二話 帰還ソルートンと行ってらっしゃいアインエッセリオさん様
「みんな、ソルートンが見えたぞ! やはり見慣れた景色は安心するな」
翌朝九時過ぎ、俺たちを乗せた船は、ホームである港街ソルートンに帰って来た。
星神の国からの帰り道、特にトラブルもなく順調な帰路……
「……なんか~、私たちが寝ているあいだに~、欲に当てられた童貞の少年が露出度の高い女性に船から落とす勢いで迫ったとか聞いたけど~」
やはりソルートンの風景は良い。
この潮風、そして活気のある港に街並み。全てが俺に癒しを与えてくれる。
水着魔女ラビコの見当違いの報告とか、どうでもいいと思わせてくれる美しい景色。
「ぅう……私夜中起きていて、静かに近付いて来られたので、これは夜に抱いてもらえるあれだと思って期待して見つめていましたら、逃げられてしまって……ああ……寝たふりをしていれば迫られるのは私だったのに……ぅぅぅ」
宿の娘ロゼリィがなんだか後悔して泣いているが、なんすかその物語。
「ちぇっ、やっぱキングはロゼリィを一番に狙ってンのか。まぁいいけどよ、アタシは抱いてさえもらえれば、何番でも構わねぇし。で、そのロゼリィに夜這い仕掛けて気付かれて日和って逃げて、アプティに迫ったってか? たくまし過ぎだろ、にゃっははは!」
え、いや猫耳フードのクロさん、俺誰にも夜這いを仕掛けていないし、迫ってもいないです。
「……迫られました……」
バニー娘アプティがボソっと呟き、なぜか無表情ピースサイン。
ちょ、アプティさんは否定して下さいよ、船から落ちようとした当事者でしょうが!
「ほっほ、わらわの王の欲は海より深いからのぅ。人間の女がダメだと分かったら、すぐにわらわたち二人を呼び出す手の速さ。王に指輪をもらうというのは、こういうことなのだのぅ……激しかったのぅ……」
アインエッセリオさんが眠そうな目でのぅのぅ語るが、あなたのノリの良さは理解しましたので、そろそろ否定をね……。
しかし夜中にケルベロスを呼んで散歩したとか、言ってもいいものなのか。
「ベッス」
おお、さすが俺の愛犬。そうだよな、お前だけは俺の味方だよなぁ、ベス。
愛犬ベスの頭を撫でようとすると、俺の右手首に巻きついているケルベロスの首輪をグイグイ引っ張り、噛み千切ろうとする。
ちょ、やめてベスさん。確かに昨日の夜はベスじゃなくてケルベロスと散歩をしましたけど、浮気とかじゃあないですから。
とりあえず、俺が全裸で女性陣に抱きつくとかいうご褒美……いや、ゲームを乗り越え、俺はソルートンに帰って来たぞ!
「やぁやぁみなさんお久しぶり~、大魔法使いであるラビコさんが帰ってきましたよ~。と、いうわけで今夜はうちの社長のおごりで宴会やるから~。お酒一杯と料理一品がなんと無料~! 飢えた野獣ども、奮って参加せよ~。あっはは~」
港で船を降り、我が家同然である宿ジゼリィ=アゼリィに帰還。
水着魔女ラビコがテンション高く宴会宣言をするが、ちょ、俺のおごりかよ!
「おおおおお! ラビコ様!」
「アニキ最高! やったぜ今日は飲むぞぉ!」
「今から並んでおかないとやばいな、よし俺が一番だぜ!」
モヒカンやらトゲ付きアーマーやら、どこの世界違いの漫画から飛び出して来たんだっていう見た目の世紀末覇者軍団が大盛り上がり。
くそ、まぁ……いいか。
色々あったし、ラビコが騒ぎたい気分なんだろう。
「帰ってきましたお父さんお母さん! 星神の国のお土産もあるんです」
宿の娘ロゼリィが、この宿のオーナー夫妻、両親であられるローエンさんとジゼリィさんに抱きついていく。
「おお、帰って来たか。ケガはないね? 良かった良かった」
「おかえりロゼリィ。それで、成果はどうなんだい? ヤったんだろうね、ちゃんと」
ローエンさんとジゼリィさんも娘であるロゼリィを抱きしめ、ああ、なんと美しい姿なのか。
ジゼリィさんのセリフは、各自スルーなり消去しといてくれ。
「帰ってきたぜぇソルートン。さて、夜は久しぶりに人間の食い物が食えるってわけだ! 星神の国とかちょっと酷かったしな! にゃっははは!」
猫耳フードのクロが宿に入るなり厨房に突撃し、この宿の神の料理人イケメンボイス兄さんに何やら夜に食いたいものを注文している。
いや、星神の国はヨウカンとか美味かったぞ。
他は……ちょっと……濃い系が、ね……
「……美味しい紅茶を……」
クロの横にバニー娘アプティもついていって、こちらもイケボ兄さんに紅茶をお願いしている。
「ほっほ、王の料理人よ、いつものカリカリふわふわのパンを頼むぞ。箱一杯に欲しいのぅ」
アインエッセリオさんもイケボ兄さんにアタック。
兄さんモテモテじゃないか。
つか、上位蒸気モンスターであるアプティとアインエッセリオさんを虜にするとか、兄さんの料理スキル半端ねぇ。
「あ、隊長おかえりなさい! やった、やっと甘えられる!」
「おかえりなのです隊長、みんな待っていたのです!」
「隊長、無事……良かった」
「お、兄貴! もー最近混雑すげぇんだ。マッサージしてくれないかなー」
「今日もモテる私たちの隊長。そして隊員の私たちはお行儀よくご褒美を待つ」
夜は宴会か、と思っていたら、この宿の正社員五人娘が四方から突撃してきた。
「おっと、忙しいのにお店離れて悪かったな。全員にお土産買って来たぞ。ほら、星神の国のヨウカンってやつだ」
俺はセレサ、オリーブ、アランス、ヘルブラ、フランカルの頭を撫で、星神の国で買ったヨウカンを一人ずつ渡していく。
「星神の国……! すごい! ヨウカンって聞いたことはあったけど、これがそうなんだ……! ありがとうございます隊長!」
ポニーテールが大変似合うセレサが嬉しそうに包みを開け、ヨウカンに頬ずりをする。
ちゃんと宿のみんなの分も買って来たので、あとで休憩室に置いときますね。
「王よ、わらわは一度火の国に戻ろうと思う。仲間たちの石の補充も必要だしのぅ」
俺たち用に取っておいてもらっているいつもの席に座り、紅茶を注文。
帰って来たなぁとほっとしていたら、アインエッセリオさんが箱に山と詰められたパン片手に話しかけてきた。
「そうですか……分かりました。宴会にも参加して欲しかったですが、お仲間の皆さんが待っていますしね。僕からも魔晶石をお渡ししますので、お土産にして下さい」
宴会に参加せず、もう帰ってしまうのか。残念だが、アインエッセリオさんには火の国で待っているお仲間がいるしな。
「ほっほ、それは嬉しいのぅ。この世界一美味しいパンに王の魔晶石、これは最高のお土産になるのぅ」
アインエッセリオさんは本当にこの宿のパンが好きなんだな。まぁ俺もこの宿のパンが一番美味いと思うけど。
あ、ペルセフォス王都のカフェジゼリィ=アゼリィのパン。あれも美味いぞ。
なんせイケボ兄さんの弟である、シュレドが作っているやつだからな。
そういや彼等は大丈夫かな。またペルセフォス王都に行って、様子を見てこないとなぁ。
「いつか仲間たちも王のもとに集結させたいのだが……まだだめかのぅ」
アインエッセリオさんが俺のジャージを爪で掴み、上目遣いで言ってくるが……そのお仲間さんってのは何人ぐらいなんですかね。
あまり多いと、その、上位蒸気モンスターが一気にこの宿に来ることになるので、銀の妖狐さんが反応しそうで怖いんですよね……。
「そ、それはもう少し待ってください……。あ、こちらから火の国に行くこともあるでしょうし、その時に顔合わせなど……」
火の国でなら、大丈夫な気がする。あそこは火の種族であるアインエッセリオさんたちのテリトリーだし。
「おお、王自ら足を運んでくれると……! それは楽しみだのぅ、さっそく迎え入れる準備をしないとならんのぅ。ではすぐにでも火の国に帰って……」
「アインエッセリオさん、今回は星神の国に一緒に来てくれてありがとうございました。おかげで、とても大事な人たちを救うことが出来ました。あと、この宿もアインエッセリオさん、あなたの家です。なので、ここはこう言いますね。いってらっしゃい。帰ってくるのを僕らは待っていますから」
俺はアインエッセリオさんの頭を撫で、改めて今回のお礼を言う。
今回はアインエッセリオさんがいてくれてから、ルナリアの勇者さんを助けることが出来た。本当に助かりました。
「……ほっほ、本当に王は不思議な男よのぅ。そう、ここは行ってくる、が正解だったのぅ。このように、わらわの身体を求める指輪も貰えたし、必ず帰ってくる。次こそは抱いてほしいのぅ、ほっほ──」
あ、いや、その指輪は感謝の……って、アインエッセリオさんが一瞬で俺の目の前から消えてしまった。
……まぁ帰ってくると言っていたし、また彼女には会えるだろう。
さて、久しぶりにジゼリィ=アゼリィの温泉に入ったら、宴会のスタートだぜ!
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




