六百六十話 移動中の遊戯といえば脱衣カードゲームと海水に濡れた者様
朝七時半発の魔晶列車に乗り、王都レディアホロウ駅を出発。
「まずは水の国オーズレイク、そこから花の国フルフローラ、からのビスブーケで船でソルートン~って感じかな~。あっはは~」
水着魔女ラビコが列車内のベッドに地図を広げ、簡単に帰りの旅程を説明してくれる。
さすが十年間世界を旅していただけあって、経験と知識があるラビコは頼りになる。
もちろん毎度のごとく、列車最後尾にある広いロイヤル部屋を確保したぞ。
お金はかかるが、広い部屋タイプに人数分のベッドがあり、とても快適。直角の固い椅子に何十時間、は身体がもたないしな……。
旅費は全て俺が出しているが、これだけの美人さんたちに囲まれた同室とか、お金以上の価値がある。……冗談だが。
あと、愛犬の為でもある。小さい籠に入れての身動き取れない移動は、ストレスすごいだろうしな。
「えーと、降りる駅、ビスブーケにつくのは結構な夜になンのか。どうするキング、一人二時間ずつヤっても余裕だぞ。つか移動中なんて、これっきゃヤることねぇだろ? にゃっはは!」
ラビコほどではないが、こちらも旅慣れている猫耳フードのクロ。
彼女が地図をなぞり何事か計算。これはラビコが言わなかった細かい時間割でも教えてくれるのかと思ったら、全くいらん情報でした。
お前は魔法の国セレスティアを勝手に家出していて、でも公式にはそう言えないから、ペルセフォス王国にいる大魔法使いラビコに魔法を習っているっていう設定なんだから、勉学をしろ。
まぁ実際、列車での長時間の移動って何をすればいいんですかね。
異世界であるこっちには携帯端末もないし、音楽すら聞けない。
「あのなクロ、本を読むとかあるだろ。こういう時間を人生のスキルアップに使うことで、今後の未来を左右する……」
「じゃあ脱衣カードゲームしよ~。負けた人は最初に勝ち抜いた勝者に裸で抱きつく~ってやつ~。あっはは~」
俺が浅はかな思考のクロに苦言を言っていると、水着魔女ラビコが爆笑しながら遊戯用のカードをベッドにばら撒く。
「…………俺はやらんぞ。だってラビコ強すぎるし」
脱衣、という単語に心が強力磁石のように引き付けられたが、よく考えたら俺、全部負けている気がする。
というか、水着魔女ラビコが強運の持ち主で強すぎなんだって。
「あれあれ~、どうしたのかな少年~? あれだけ毎日エロ本を求めているんだから、私たちの裸が見たいんだよね~? ほら、ラビコさん優しいから~、チャンスをあげるって言ってんの~。そうだな~、じゃあ私、一回でも負けたら全部脱いで社長に抱きついてあげる~。どう? やる気になった~? あっはは~」
俺が過去に何度も裸にされた記憶を思い返し、苦い顔で冒険者センター公式ガイドブックを握り読書に逃げようとしたら、水着魔女ラビコがニヤニヤ顔で俺を煽ってきた。
クソが……! ハンデをあげる、とか……舐められたもんだぜ!
やってやる……やってやるよ俺は!
待ってろ紳士諸君、文字のみとはいえ、俺が全員を脱がすっていう、とんでもなくエロい空間を見せてやるからな!
つか負けた人は勝者に裸で抱きつくとか、誰が得をするルールなんだ、これ。
まぁいい、勝てば俺ハーレムの完成だ。
水着魔女ラビコ、猫耳フードのクロ、バニー娘アプティ、そして今回はアインエッセリオさんもいるし、当然見れるのなら、見たい。みんなスタイル最高だし。
そして何より俺は宿の娘ロゼリィさんの裸が見たい……! だってそうだろう、普段肌を見せない格好のロゼリィだが、その中身はこの中で一番のグラマラスボディの持ち主なんだぞ。
俺はロゼリィの裸を見る!
「うっは~、密室で裸の少年に無理矢理抱きつかれちゃう~、あっはは~!」
「ど、どどどどどどうぞ……! 準備はすでに出来ていますので……!」
「すっげ、キングに裸で抱きつかれるとか、最高だぜぇぇ! もっと来いって、え、五秒? 短けぇって、二時間ぐらい楽しみてぇって!」
「ほっほ、まさか王に裸で抱きつかれるとはのぅ。これが王の指輪の持ち主の権利というやつか。いいのぅ、毎日やってほしいのぅ」
「…………マスター……このまま島に、行きましょう……」
──どうだろう紳士諸君、俺の貧弱ボディをご堪能いただけただろうか。
え、女性陣の裸……? そんなの見せられるわけがねぇだろ。
勝率? そんなの全敗に決まってんだろ。
わざと負けた……? バカ言え、俺はロゼリィの裸を見ようと全力で挑んだよ!
大富豪的なルールなのだが、まず水着魔女ラビコが強すぎ。あいつ無傷。
猫耳フードのクロやバニー娘アプティ、アインエッセリオさんを一枚ぐらい脱がせ、なんとかロゼリィを下着姿までにはしたのだが、俺の運命はそこまでだった……。
……というか開始前にも思ったが、裸の俺が女性陣に抱きつくとか、向こうにとっての罰ゲームなんじゃねぇの?
女性陣全員、なんだか満足気な顔をしているけど……良かったのか?
いやぁ……それにしても下着姿のロゼリィさんに抱きついたけど、最高だったなぁ……。こういうの、文字だからいいけど、絵面はヤベェだろうな。
主に俺のケツが最前面に出ている絵になるし。
最後、バニー娘アプティに抱きついたのだが、とんでもねぇ力で腕を背中に回してきて、既定の五秒が来ても離さず、そのまま俺を持ち上げて外に出ようとされて焦ったぞ。
バニー姿の女性に裸で抱きついた男が列車からとんでもない速度で飛び出していったとか、列車関係者に長く語られる、伝説の事故になってしまうだろ。
「いやぁ、酷い目にあった……いや、最高の思いをした」
その後、魔晶列車は花の国フルフローラのビスブーケに着き、港でソルートン行きの船に乗り換え。
時刻は夜の二十一時過ぎ、さすがの長距離移動で女性陣と愛犬は疲れたらしく、船の客室で寝ている。
これはチャンス、女性陣の寝姿を至近距離で観察しようと思ったが、宿の娘ロゼリィが起きていて真っ赤な顔でじーっと見てきたので、誤魔化し笑いをして部屋を出てきた。
真っ暗な連絡船のデッキ部分、少し風がひんやりする。
他のお客さんも寝ているらしく、誰もいない。
「そうだ、そういやあいつを散歩させないと」
申し訳程度にある船の明かりだけで、ほぼ真っ暗。周りに誰もいない、となると喜ぶ奴が一人いたな。
「ええっと……グークヴェル・ケルベロース、だっけ?」
俺は右の手首に巻きつけている首輪に向かって呪文を唱える。
ああ、俺は魔法とか一切使えないぞ。これはあれだ、あいつを呼び出す合図ってやつだ。
『きゃはーー! ボスの呼び出しキターーーー!!!』
よく分からないが、空間外から陽気な声が聞こえ、黒いドレスを纏ったスタイルの良い女性が上空に出来た黒い空間の裂け目から登場。
そして華麗に着地……をしようとしたが、おいそっち、海……
『きゃはーボスー! 初めて間違えずにキチンと呼んでくれ……って、ここ海ーーーー!』
頭に犬耳、お尻には三本の犬の尻尾を生やした女性、ケルベロスが満面笑顔から驚きの顔に変わり、船の向こうの海へと落下。
やべぇ……!
俺は慌てて救命道具を手にするが、背後からべっちゃり濡れた物に抱きつかれる。
「ヒギュアアアア……ゆ、幽霊ぃぃぃふぉああああああああ……! ってケルベロスかよ、無事か!」
あれか、船に漂う幽霊的なやつか、と奇声を出してしまったが、よく見たら海水に濡れたケルベロスだった。
「ひどいボスー! 海なら海って言ってよー! 自慢のドレスが濡れちゃったー! ベローン」
海に落ちたのに、どうやってこっちに来たんだ?
ま、まぁこいつ、よく分からん空間外から来たりするし、大丈夫だったのか。
ケルベロスが濡れたまま俺に抱きつき、プンスカ怒りながら俺の頬を舐めてくる。
ちょ、なんで舐めるの……あとお前、海水で冷たいんだって……いや、俺のせいだけども……ひいいぃ!
くそ……裸で女性陣に抱きついた余韻を楽しんでいたのに、海水で濡れたケルベロスの感触で全部吹っ飛んだじゃねぇか!
……こんな海の真ん中の、船の上で呼んだ俺が悪いんだけども。
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




