六百五十八話 エロステージへGОとラビコの本気の想い様
王都レディアホロウ。
位置的には水の国オーズレイクの西にある、芸術が主に発展している国。
歌劇という、歌と演劇を組み合わせた物などが盛んに行われていて、有名な役者なんかもいるそうだ。
俺は異世界の有名人はあまり知らないので、残念ながら推し活動は出来なそうだが。
「さて、深夜の個人散策といきますか」
皆が寝静まった深夜、俺はこっそりと宿の部屋を出る。
今日、王都レディアホロウを観光で見て回っている最中、俺はさりげなくサーチし、それ系のお店の場所を脳裏に叩き込んだのだ。
営業時間が夜のお店の看板を主にロックオン。
ごく自然に、急に靴ひもが解けた少年などを演じ、看板を凝視。それをあちこちで繰り返し、夜に個人で巡ってみようルートを構築。
驚いたのは、さすが芸術の国の王都、なんと夜の演目、つまりちょっと肌面積多めの美しい女性が出てきて、くねったポーズなどを見せてくれるお店が結構たくさんあって、それはもう俺の少ない脳では覚えきれないほどの数が点在していた。
自分の記憶力の低さを嘆きつつ、それでも俺好みの見た目の女性が出るっぽい演目の時間と場所を中心に覚えた。
なんというか、自分の脳を限界まで使い、心地のいいオーバーヒート状態であることに満足感を覚えたりしていた。
「エロい思考で満たされた脳というのは最高だな。さあ行くぞ、金ならある、俺の推し活が唸るぜ」
「どこ行くの~。もうお子様は寝る時間だよ~? あっはは~」
時刻は深夜一時。女性陣はみんな寝ていた。
宿の部屋を細心の注意を払い、忍者でも気付かないんじゃないかレベルの動きでこっそり部屋を出てきたのだが、一階の大きなロビーでお酒を飲んでいた女性に自慢のオレンジジャージをつかまれた。
「ひぃっ……! って、ラビコかよ……!」
「そうだよ~? な~にをそんなに驚いているの~? あれあれ~、もしかして何かやましい心をお持ちなのかな~?」
いきなりジャージを掴まれ、心臓が飛び出る勢いで驚いて振り返ったら、そこにいたのは水着魔女ラビコ。
くそっ……こいつ、部屋にいなかったのか……いくら部屋を出るのに気を付けようが、外にいられたんじゃ意味がねぇ……。
さすがに寝ている女性の顔を覗き込むのはマナー違反。なんとなくラビコの布団が膨らんでいたので寝ていると思ったが、あれ、抜け殻だったのか。
「な~んか昼間、観光しているときに不自然に夜に営業しているお店の看板に近付いては凝視していたよね~? 目星をつけたお店にでも行こうとしていたのかな~? あっはは~」
水着魔女ラビコがお酒を傾けながら爆笑。
……おいマジかよこいつ。
俺の行動全部筒抜けかよ。
……エスパーか? 前から思っていたけど、こいつ『さとり』とか、そういう類の妖怪なんじゃねぇのか?
「ね~ね~、社長が行こうとしていたとこってどこ~? どんな女のエロいステージ見ようとしてたの~?」
「………………み、水着の女性がくねる奴……」
もうだめだ。俺の異世界生活はここまでのようだ。
あとは頼んだぞ、紳士諸君……
「ぶっ……あっはははは! 素直、社長って妙なところで素直だよね~。ってか何度も言うけど、未成年は入れないっての~」
ラビコが飲んでいたお酒を吹き出し爆笑。
くっそ……そこまで笑わなくてもいいじゃないか。未成年だって、エロには興味あるんだ。
つか、未成年だからこそ興味が強いんだってーの。
「……入れなくても、お店の近くに行ってみたいなと……」
雰囲気、俺は少しでもエロい雰囲気を感じたいのだ。
「あっはははは! かっっっわいい~、やっぱ社長って素直で可愛いよね~。私、社長のそういうところ大好き~。あっはは~」
ラビコが腹を抱えて笑うが、エロいお店の近くに行こうとしている俺が大好きって言われても、意味が分かんねぇんすよ。
「ねぇねぇ社長~、私は~? 私、その水着の女だよ~? 私に頼み込めば、無料でエロ~い体験が出来るかもしれないよ~? あ、やっぱり有料! 社長のおごりでお酒飲みた~い」
ラビコが自分が着ている水着をドヤ顔で指し、大きなお胸様を寄せて上げてのエロポーズをしたところで、俺のジャージのズボンのポケットに手を突っ込んでくる。
ふぉおお……! ラビコのお胸様に完全に目を奪われ油断した……って、あんまりポケットまさぐらないで……その、至近距離に刺激に弱い彼がそこにいるんで。
「まったく~、ま~た遠くの女にアクション起こして~。近くにいる女をなんだと思っているの~?」
椅子に座っているラビコの前に正座をさせられ、お説教を受ける。
まぁ俺が悪い。諦めよう。
近くにいる女? それはパーティーメンバーのみんなのことか?
それはもちろん、俺が絶対に守るべき大事な存在だ。
「あのさ~、私たちが指輪を左手薬指につけている理由が分からないのかな~、この童貞少年は~。誘われたら応じるっての~」
応じる? 何に?
「じ、じゃあラビコが俺の保護者としてエロステージをやってるお店に連れてって……」
「違うだろ~! 言ったらエロいお店に連れてってやるって意味じゃねぇよ! あ~もう! いざってときはとんでもなく格好よくてグイグイ周りを引っ張っていって頼りになるのに、どうしてこういう方面になると鈍感奥手童貞になるのさ~!」
ラビコが俺の頭をポンポン叩きながら激怒。
え、ラビコが俺の親戚のおじさんの役目を果たしてくれるって意味じゃないの? 大人になって来い、的に。
「あ~もうっ! ほら、今回のお礼。お店じゃ無理なやつ~」
ラビコが俺の頭を抱え、自分の大きなお胸様に優しく誘導してくる。
え、ちょ……深夜とはいえ、周囲にお酒を飲んでいる人が数人いる……。
「……ずっとタイミングうかがっていたんだけどさ、な~んかアプティとかいつも以上に社長の側離れないし、火の女とかも邪魔でさ……。その、あ、ありがとうね、リンデルとかサクラを助けてくれて……」
おっほ……すっげぇあったかくてやわらけぇ……! すごい、これが推し活課金無しで味わえるとか、マジで異世界に来てよかった……。
え、お礼?
「生きているかも分からなかった……二度と会えないかもしれなかった……私一人じゃあ、絶対に無理だった……社長がいたから、また二人に会えた。ありがとう、社長は私の願いを全部叶えてくれる……だから……大好き」
大きくて柔らかくて甘い香りの山が二つ顔に……え、二人……? あ、ルナリアの勇者、リンデルさんとサクラさんのことか。
「ホテル行こ……ここじゃ無理だけど、そこでなら何でもしてあげる」
ラビコが恍惚の顔になり、俺を外へ誘う。
え、あの、宿出たら、アプティに追跡されると思うけど?
しかも今回は、追加でアインエッセリオさんも来ると思う。
「……私は本気。アプティとか、付いてこないように言って」
ラビコが赤い顔でじーっと俺を見てくる。
な、なんでも……だと? あ、いや、ラビコはお酒に酔っているしな……いつもの面白優先の冗談だろう。
「はぁ……俺がエロいお店に行こうとしたお説教&イジりはこのへんでいいだろ。お礼とか、別に俺は賛美が欲しくてやったわけじゃあないよ。ラビコは本当に、本気で二人のことを心配していたし、会いたがっていた。その想いに心打たれた、だから俺は本気で応えた。俺だけじゃない、みんな同じ想いだったし、ロゼリィにクロ、ベスにアプティにアインエッセリオさんがいてくれたから出来たんだ。俺一人がラビコの願いを叶えたわけじゃあないよ。みんなで、パーティー全員でルナリアの勇者さんたちを救ったんだ」
今回のは、アインエッセリオさんがいてくれたのもでかいかな。
闇の種族の情報をくれたし。
「……それは分かってる。みんなが頑張ってくれた。でも私はずっと社長にお礼がしたかった。こんなワガママな私を笑顔で受け入れてくれて、悪いことをしたら怒ってくれて、良いことしたら褒めてくれた。周囲の人は一歩引いて近付いてこようとしないのに、どんなときでも私の横に来てくれて、ずっと同じ方向を見てくれた。そして、未来を諦めていた私に光を見せてくれた。生きていける、そう、社長と一緒なら、生きていける。ううん、違う、願い……これは私がそう強く想った、願い。私は社長と一緒に生きていきたい。本気の、願い。だから、応えて」
ラビコが俺の手を握り、真っすぐ俺の目を見て言ってくる。
「本気の願い、か。分かった。俺もラビコのことは好きだよ。だから動いたんだし。でも……今は無理だ。みんな来ちゃったし……」
俺が後ろを指すと、通路の影から五人の目が光っているのを伝える。
「あの、そのセリフ、私にも欲しいです……私も本気ですし、ラビコだけなんてずるいです!」
「あーわりぃなラビ姉。アプティに起こされてよ。それにホテル行かなくても、この宿で全員でヤりゃあいいだろ。私だって本気だ。じゃなきゃあ、家出なんて出来ねぇっての、にゃはっは」
「……マスター、さっき私と一緒に島に行くと……」
「ほっほ、人間とは色々面倒だのぅ。生きていられる時間が少ないのだから、欲のままに動いてもいいと思うがのぅ」
「ベッス」
ロゼリィ、クロ、アプティにアインエッセリオさんに……愛犬ベスも来たのかよ。
「ちっ……あ~もう! 社長がウジウジしてるから悪いんだ~! エロい劇見ようとしてないで、さっさと私を抱けばよかったのに~!」
「え? エロい……劇? なんですか、それ」
水着魔女ラビコが怒り、ついでに余計な一言を漏らす。
言うなよ……! あ、ヤバイ、宿の娘ロゼリィさんから黒いオーラが……
「ああ、そういや日中、キングってば、エッロい劇の看板ばっか見てたよな。そんなに見てぇなら、私たちでそれを再現してやろうか? にゃっはは!」
猫耳フードのクロ様から素敵な提案が。
つか、クロにもバレてたのかよ、俺の行動。
え、パーティーメンバーの女性陣でエロステージをやってくれるの……?
マジかよ、やった! 待ってくれ、すぐにエロ脚本書くから、五日ほど待ってくれ。
シナリオの完成度を高めるのに五日は短いが、余計な冒頭のインタビューパート、プロローグは無しで、終電を逃した男女がお金を節約するためにラブホテルを一室借りーの、からスタートで……
全く興味がないであろう後日談──俺のエロシナリオは一週間後に完成し、とりあえずバニー娘アプティに役をお願いしてみたが『島で結婚……』としか喋らず、シナリオはお蔵入りとなった──
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




