六百五十六話 銀の妖狐と裸のお付き合いで着物の理由様
「でもよくあの引きこもり臆病種族の彼女に出会えたね。僕でも滅多に会えないレアキャラだよ? ふふ」
星神の国の王都観光を終え、温泉施設へ。
ペット同伴可の温泉で、ウッキウキと愛犬との入浴を楽しんでいたら、真横に銀髪ロングイケメンが接近してきた。
なんだか妙に親し気で、肩が触れる距離近めのコミュニケーションを計ってこられてビビったが、まぁこういう人もいるか。
「それにしても君の千里眼の能力はすごいね、もう空間操作ぐらいお手の物なんだね。ふふ、頼もしいなぁ」
いや、距離感どうのレベルじゃあなくて、俺のことを知り過ぎている。
なんだ、もしかしてアインエッセリオさんのように、どこかの上位蒸気モンスターが接触を計ってきたのか?
どうする、ここは公共の温泉施設。
下手に動けば多くの人を巻き込むことになる。
どうにかして場所を変え……
「いやぁさすがの僕も、我が妹の報告を受けた時は少し驚いたよ。ふふ、面白いなぁ、やはり君は最高に面白い存在だよ」
ん? 我が妹……?
銀髪イケメンで妹って……こいつ……銀の妖狐か!?
「あれ? どうしたんだい? ああ、そうか、ここは人間の施設だからね、自慢の狐耳と尻尾は隠しているんだ。ほら、どうだい? いつもの君が愛した僕だろう? ふふ」
……間違いない、この背筋に悪寒が走る喋り方、動き……銀の妖狐だ。
証拠とばかりに、頭には長い狐耳、そしてお尻には九本の狐の尻尾を出して見せてきた。
そういえば、バニー娘アプティも狐耳に尻尾は出し入れ自由とか言っていたな。
「どうやってここに……あと早く耳とか隠せって」
「おっと、これでいいかな? どうやって? 普通にお金を払って入ってきたよ? ふふ、愛する君と一緒の料金ってなんだか嬉しいよ」
銀の妖狐が出していた耳と尻尾をしまい、優しく微笑み俺に肩をぶつけてくる。
んんんん……なんでこいつはこう、全ての言動が気持ち悪いのか……
「はぁ、まぁでもお前で安心したよ。てっきりまた他の種族が接触してきたのかと焦ったし」
「ぼ、僕が側にいてくれて安心……! そ、そうだよね、僕と君はそういう関係だものね! 一緒にいるのが当たり前、二人は……!」
俺の言葉を聞いた銀の妖狐が急に興奮し始め大きな声を出したので、俺は慌ててその口を塞ぐ。
「しーっ! 静かにしろ、ここは公共の施設で、他の人に迷惑をかけてはいけないってルールがあるんだよ」
「あ、ああごめんね、興奮してしまって、つい。ふふ、それにしても君の手は大きくて暖かいね……」
銀の妖狐が俺の手に頬ずりをしてくる。
ほぉぉ……だからなんでコイツ、俺に対してこんなに距離感がバグっているのか……
「ふふ、冗談はこの辺にしておかないと、また君に怒られそうだね」
え、冗談……? こいつのこれ系の言動って全部冗談でやっていたの? 分からねぇ……銀の妖狐とは結構会話をしているが、いまだにこいつの本性が見えねぇ……
存在全てが気持ち悪い、ってのは不動だけど。
「いやぁ、各地で人間が作った温泉施設に入ってみたけど、それぞれに特徴があって面白いね。ああ、ここいいな、君に気に入ってもらえるかもしれない。あ、こっちもいいなぁって、我が島の施設の参考にさせてもらっているよ」
髪とかを洗って、再度温泉へ。
うむ、やはり一日の最後は風呂に限るぜ。
「へぇ、各地の温泉を巡っているのか。それは楽しそうだなぁって、そうじゃなくて、一体何しに来たんだよ」
なんか普通に銀の妖狐と温泉談義が始まったが、こいつの用件は何なんだ。用事も無しに来るわけないし。
「え、それは最初に話したよ? ほら、闇の種族、引きこもり臆病種族のルリエラに何かされなかったかいって。ふふ」
銀の妖狐が俺の頬を、このおっちょこいさん、といった感じに優しく突いてくる。
ふぉおお……ゾクっとするぅぅ……! これ本当にこいつの『冗談』の行動なの? マジ?
くそ……そういや、最初にそれっぽいこと言っていたな。
「へぇ、妹からは何となく報告を受けていたけど、なんとも面白いことが起きていたんだねぇ。いいなぁ、僕も現場で見たかったなぁ、あの引きこもり臆病種族ルリエラが裸で転ぶ所を……ふふ、あはは!」
ルナリアの勇者の話はしないで、大まかに銀の妖狐に伝えてみたが、案の定爆笑された。
「彼女はしつこくて執念深くて、子供っぽいよ? その様子だと、絶対に君に同じことをやり返そうと、虎視眈々と機会をうかがってくるんじゃないかな。ふにゃん、だっけ? もしかしたら、そのセリフも君に言わせようとしてくるかもね。あはははは!」
ふにゃん、も言わせようとしてくる?
裸で転ぶ、はあるかもしれないが、ふにゃんは、言うぞって意識しないと出てこない言葉だぞ。
「ふふ……まぁそれぐらいなら、いいかな。ああ、もしそれ以上、本当に君を傷付けようとしてきたら、すぐに呼んでくれ。その時は……一族全て消し去ってやるさ」
銀の妖狐が急に真顔になり、怖いセリフを吐く。
そう、俺には友好的だから忘れがちだが、銀の妖狐は本来こういうやつなんだよな……。
「そ、そういえば聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
こういうときは話題を変えるに限る。
星神の国に来たのは、この国で行われているという、着物を着るお祭りの写真を冒険者センター公式ガイドブックで見かけたから。
あまりに日本のそれに似ていたから気になって来てみたが、回復魔法を使う女性、サクラさん曰く、それは千年前にこの国に来た勇者、ミヨサキさんが日本人だったから、だそう。
なるほど、それは納得が出来る。
ではコイツの、色鮮やかな十二単みたいは着物は?
銀の妖狐も異世界から来たそうだが、もしや向こうでこういう文化があった、ってことなのだろうか。
「え、なんだい? 君が僕に聞きたいこと、つまり僕に興味があるってことだよね? ふふ、いいよ、スリーサイズは……」
「えっと、お前が普段着ている服、あれってこの国の着物に似ているんだけど、偶然?」
なんで俺が銀の妖狐のスリーサイズを聞き出さなくてはならないのか。
「ああ、いつも着ているやつかい? そうだね、あれは今から千年ほど前、僕らがこの世界に来たばかりのころかな」
銀の妖狐が温泉施設の天井を見上げ、言う。
「この世界のことがよく分からなくて、情報を集めているときだったかな。たまたまこの星神の国に来て、ふと見かけた人物がとても魅力的な格好をしていたんだ。あれだ、あれこそ僕に相応しい、と、着物ってやつを真似をしたんだ」
ニコニコ顔で銀の妖狐が言うが、千年前に見かけた着物の人物、つまり星神の国の勇者と言われる日本人、ミヨサキさんか。
着物を見て魅力的に感じた、と。
……そういえば、サクラさん曰く、ミヨサキさんの能力が『魅了』だったような。
まさかこいつ、ミヨサキさんに魅了されたのでは……?
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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書籍①巻では、今回出てきた銀の妖狐さんの
初登場回が載っています。(イラストも
少し初々しい(?)銀の妖狐さんが見れますよ~
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影木とふ




