六百五十二話 ルナリアの勇者6 ラビコの不器用な想いと不思議な言葉の意味様
「いやぁまさか上位蒸気モンスターの女性を裸に剥いて楽しむとか、命を削りあうハイレベルな戦闘中にも関わらず、その余裕……。なんだか桁外れに強いんだけど、別方向に突き抜けるんだね……うん、あ、その、と、とりあえず助かったよ、ありがとう……少年」
「ま、まぁお姉さんとしては、その、偏見を持たずに己の欲を通すってのは、えーと、真っすぐで良い……のかな? でもちょっと、心配かな……? あ、えっと、命を救われたのは確かだし、お礼は言うけど、その、ラビコは……いいの?」
横穴ダンジョンで闇の種族のリーダーという、上位蒸気モンスターと遭遇。
アインエッセリオさんと組み、俺の目の力、千里眼の未来予測を使い、武器破壊&衣装破壊をして戦意を喪失させ、見事追い払うことに成功。
……成功したのだが、なぜか俺は微妙な空気のパーティーメンバーの元へ。
ルナリアの勇者であるリンデルさんや回復魔法を使う女性、サクラさんが苦笑いでフォローをしてくれたが、なんだろうこの針のむしろ感……
「ったく~、どうして社長は近くにいる女には一切手を出さないのに、本だったり、遠くの女に積極的に手を出すのか……妻である私には意味が分からないって~の!」
「あの、私ではご不満ですか……? 色々本で勉強していますし、あなたを満足させられるように頑張りますので、一言声をかけていただければ、その、実践を重ねれば……。あ、妻は私で、ラビコは愛人ですよね? ふふ」
「にゃっははは! 上位蒸気モンスター追い払って説教されるって、この世でキングだけだろうな! しかもさっきの闇の種族のリーダー……だっけ? それあれだろ、銀の妖狐クラスなンだろ? すっげぇよな、やっぱキングって最高だぜぇ! 英雄色を好む、いいじゃねぇか、アタシは抱いてくれるンならそれでいいしよ、キングはそのまま突き進めよ。アタシはずっと付いていくぜ?」
「……マスター、すぐに島で結婚を……島なら黒猫は来ません……」
水着魔女ラビコ、宿の娘ロゼリィ、猫耳フードのクロ、バニー娘アプティにお説教を受ける。
その、裸になったのは不可抗力でして、決してわざとじゃあないっす……。
「はぁ……まぁお説教はこの辺でいいか~。社長がいなかったら、今こうして生きていないんだし~。はい、それじゃあみんなで抱き合って命があることを、喜びを分かち合いましょう~、あっはは~」
「は、はい! とっても素敵でした! やはりあなたが側にいると、安心感が違います。……みんなの英雄、いえ、あなたは私の英雄です!」
「闇の種族のリーダー追い払ったンならよ、しばらく誰にも襲われねぇだろ。ほら、もうここでヤっちまおうぜ! 大体、普段から頻繁にヤってればこンないざこざ起きねぇンだからよ、にゃっははは」
「……近くには誰もいません。マスター、存分に欲を発散させて下さい……」
「ほっほ、さすがに裸にされて泣き帰ったからのぅ。しばらく手を出してこないと思うぞ? おそらく根暗ルリエラは、今ここにいるメンバーは覚えた。そして、このメンバーを見るたびに裸にされたことを思い出し、メソメソ。なにせ根暗だからのぅ、ほっほ。お、こっちのバトルにもわらわは参加するぞ? 人間の女などでは味わえぬ快楽を王に、ほっほ」
「ベッス!」
水着魔女ラビコが溜息をつき、パンと派手な音が鳴るよう手を叩き、一区切り。
全員笑顔になり、四方から俺に抱きついてくる。
おっほ、これこれ、これっすよ、勇者を救った英雄にふさわしい歓迎ってやつ!
「へぇ、うん、いいね、とてもいいパーティーだ。誰であろうと、悪いことをやったら怒り、良いことをしたら褒め、そしてみんなで喜びを分かち合う。全員が同じ目線で、同じ方向を見ている素晴らしいパーティーだ。信頼、そして愛情。この繋がりを持った集団は強くなるよ」
「なんだかおっもしろいパーティーだね。ラビコじゃなくて、少年を中心としたパーティー。最初ビックリしたけど、なるほど、納得。あのラビコが好意を寄せるのも納得。あなたなら、私の可愛い妹、ラビコを任せられるかな。あ、カエデは混ざっちゃダメよ? 子供はダーメ。大人になったら、ね」
「……ぅ、うん……いつかきちんと、私とおとーさんとおかーさんの命を助けてもらったお礼をしたい。勇者はおとうさん、でもこの世界には英雄が必要。お兄さんは優しくてまっすぐ強い、英雄」
「え、一緒に外に出ないんですか? 横穴ダンジョンって、さっきみたく蒸気モンスターが出ますから、出たほうが……」
みんなで喜びを分かち合った後、晴れの草原ステージの出口へ。
ルナリアの勇者さんたちは、街には行かないそうだ。
「うん、分かっているよ。それでも僕らはこのダンジョンにいる。そう決めたんだ。でも君たちには、もっと世界を見て来て欲しい。それは必ず君たちの糧となり、いつかその行動が役に立つ時が来る。僕らも世界を巡り、多くの出会いと経験を得た。そしてそれは、とても大きな宝物になった。人との出会いは大事だよ、ほら、こうしてラビコが仲間を連れて助けに来てくれたりさ、はは」
リンデルさん、サクラさん、カエデちゃん、三人ともこのダンジョンから出る気はないらしく、笑顔で見送りをされた。
「……そしてこれを聞いていいのか迷ったけど、そこの女性、上位蒸気モンスター、だよね?」
ルナリアの勇者であるリンデルさんが、アインエッセリオさんを指し、言う。
ラビコがリンデルさんを見た後、俺を見てくる。
ロゼリィは困り顔で、クロはヤンキー座りで大あくび。
バニー娘アプティは無表情で興味なし、当のアインエッセリオさんも興味無しで向こうをむいている。
……さすがにバレていましたか。まぁアインエッセリオさんと上位蒸気モンスター相手に戦闘しましたしね、何度も蒸気モンスターと戦っていたルナリアの勇者さんたちには気付かれて当然か。
バニー娘アプティのほうは気付かれていないのかな。
アインエッセリオさんのほうは、こちらのパーティーメンバー全員が彼女の正体を知っているし、ルナリアの勇者さんには言っても大丈夫だろう。
「……はい。彼女、アインエッセリオさんは火の種族の上位蒸気モンスターです。そして、僕たちの大切な仲間です」
俺はリンデルさんの目を真っすぐ見て言う。
迷いなどない。
彼女は俺の大切な仲間だ。
「…………そうか。まぁあのラビコが何も言わないから、大丈夫なんだろうとは思っていたけど、さっき、君と彼女の戦闘を見て確信したよ。ああ、彼女は君たちの大事な仲間なんだなって。はは、いやぁすごいね、僕らのときには考えられない出来事だよ。なんというか、五年間ダンジョンに引きこもっていたら、知らぬ間に新時代が訪れていた、って感じかな、ははは」
「なるほどねー。なんかラビコが妙にハイテンションでソワソワしているから、何か私たちに見せたいのかなって。うんうん、そういうことかー。まさか蒸気モンスターとパーティーを組んでいるとはね。それとあとは……君を見せに来たんだろうなって」
リンデルさんとサクラさんが優しい笑顔で俺たちを見てくる。
「……一応言っておくけど~、このことは誰にも言わないでよね~。社長とベスの力も、蒸気モンスターのことも」
ラビコが俺に寄っかかり、二人に言う。
「つまり~、新たな力が生まれつつあるから~、旧時代の二人はもう歳だし~、だ~れも期待しなくなったから~、いつまでも引きこもってないで外に出てこいって~の。ラビコさんは有名だから街に出ようものなら騒ぎになるけど~、ルナリアの勇者なんてもう誰の話題にも出てこないぐらい旧時代の力なんだから~、堂々と外を歩けばいいのさ~。あっはは~」
「お、おいラビコ! なんていう言い草だ、ルナリアの勇者さんたちが切り開いた道があるから、俺たちは道に迷うことなく歩いてこれているんだぞ!」
どうしたんだ、急に妙なことラビコが言い始めたぞ。
「うるさい! あれだけみんなで悩んで、みんなで考えて、みんなで守ろうって決めたのに、急に一人で答え出して一人で守るとか、一人で全部背負いこむとか、意味分かんないだって~の! 私たちがどれだけ心配したか、どれだけ捜したか、どれだけ生きていて欲しいと願ったことか……」
ルナリアの勇者さんに殴りかかる勢いでラビコが暴れだしたので、俺は慌てて止める。
……気持ちは分かるが、彼等だって、大切な仲間を守るための苦渋の決断だった。ルナリアの勇者さんはサクラさんと、ラビコたち、パーティーメンバー全員を守ろうと行動したんだ。
「……ごめんね、ラビコ。分かってた、全部分かってたよ。怒っていることも、心配してくれていることも、捜してくれたことも……でもね、それでもリンデルと二人で決めたの。みんなの元を離れようって。私の回復の能力が世間に広まってしまえば、人間の間に大きな争いが起きるかもしれない。そして、蒸気モンスターにも狙われるようになってしまう。それだと近くにいる多くの人の命が巻き込まれ、それこそ取り返しのつかないことになってしまう」
サクラさんが優しくラビコを抱きしめ、頭を撫でる。
……やはり二人は、巻き込むことを恐れたのか……。
俺も銀の妖狐の島に連れて行かれたとき、ソルートンにはもう帰れない、と思った。街に帰ればみんなを巻き込んでしまう。
もうここで一生暮らそう。
そうすれば、仲間を傷付けなくて済む。
「私たちは多くの仲間を失った。でも彼らの死は無駄じゃない。それは彼らの願いが蒸気モンスターから大切な人を守るためだったから。生き残った私たちは涙を拭い、彼らの想いを引継ぎ、前へ、前へ進んできた」
……もしかして、お亡くなりになったルナリアの勇者メンバーもいたんだろうか。
「でもね、私が原因で、私を守るために、私だけが生き残るために命を落としていく仲間を、友の姿を……見ていられなかった……これ以上見たくなかった。私さえいなければみんな死ななかった、私さえいなければ……!」
「…………あるとき、サクラが命を絶とうとしている場面を見かけてしまってね。それはもう慌てて止めたよ。今思い返しても、あれはすごかったなぁ、二人で本当に殴り合いになって、はは」
リンデルさんがサクラさんを抱きしめる。
「でも私はそれで決意したんだ。サクラ一人に命を背負わせてなるものか。一緒に背負おう。いやぁ、まさか自分の人生で、殴り合いをしている相手に結婚を申し込むとは思わなかったけど、あの時の決断は間違っていなかった。かわいい子宝にも恵まれたしね。結果的にみんなを裏切ることにはなってしまったけど、二人で選んだ未来、後悔はないさ。今、殴られる覚悟だってあるし、ラビコには私を殴る権利がある」
「………………白けた、もういい。子供見てるし……」
ラビコが握りこぶしを下げる。
リンデルさんとサクラさんの娘、カエデちゃんが不安そうにラビコを見ているのに気付いたようだ。
「あとね、カエデを授かれたの。でも、子供を生む期間はどうしても動けないし、魔法が使えない。このままだと、パーティーを組んで無茶な特攻からの回復戦法が出来なくなってしまう。そのタイミングを突かれたら、パーティーが全滅してしまう」
なるほど、ルナリアの勇者さんがパーティーを解散したのって、カエデちゃんが生まれるタイミングに合わせたってことか。
無茶な特攻からの回復……そういえば地下迷宮でケルベロスが『勇者ってやつらが来て、無茶な特攻、ああいうのって死に戻りアタックって言うの?』とか言っていたが、ラビコたちって、マジで死にかけながら回復頼みの戦法だったってこと……?
そ、それは……かなり危険過ぎる戦い方では……。
いや、そこまでしなければ、上位蒸気モンスター相手には戦いにならなかったのだろう。
「……サクラの回復魔法が無ければ、今の私はない。失った命もあるけど、サクラがいたから救われた命も多くある。だから一人で背負うな、二人で背負うな。生き残った者が等しく志半ばで散った者の命を背負い、決して下を向かず、手を繋ぎ心を繋ぎ、愛を繋ぎ、子へ、次代へ想いを託す。……今日という日まで、二人は充分に戦った。そして今、次代の光が育ちつつある。だから背負うな、もう、託せ。ルナリアの勇者パーティーが切り開いた世界はここまで、次は私がその想いを継ぐ」
ラビコが横を向き、低い声でボソボソと呟く。
「にゃははは、つまりよぉ、ラビ姉は二人にもっと笑顔で堂々と生きて欲しいって言ってンのよ。ほら、キングが作ったパーティーを見ろよ、確実に世界は変わりつつある。ラビ姉はそれを見せたかったンだよ」
ヤンキー座りで様子を見ていた猫耳フードのクロが、ニヤニヤ顔で俺を指してくる。
「……そっか……そういえばラビコって恥ずかしがり屋さんだったね。なんか急に冒険者センターのガイドブックとか作ったり、その表紙飾ったり、そっか、ラビコの気持ちはもう決まっていたんだね。ふふ、次代を育てる、かぁ。いいね、なんだか楽しそう! ま、私たちには自慢の娘がいるから、また外の世界を巡って、色んな物を見せてあげたいな。ね、リンデル」
「ああ、そうだね。実は行ってみたい思い出の場所がたくさんあるんだ。いつか娘を連れていけたら、と思っていたけど……いつか、じゃなくて、すぐに行動すべきかもしれないね」
リンデルさんが娘であるカエデちゃんの頭を撫で、優しい目で俺を見てくる。
「ありがとう少年。君は私たちとラビコを救ってくれた恩人だ。もちろん、君たちだけに背負わせることはしない。こちらはこちらで、何かやってみるつもりだ。そして、困ったときは遠慮なく頼ってほしい。力は君には及ばないけど、経験だけは色々あるからさ」
「……いえ、俺なんてラビコに頼って助けられてばかりの子供です。でも、必ず守ります。ラビコと、みんなを」
俺とリンデルさんはがっしりと握手をし、微笑む。
「ここに拠点を構えているからさ、そこを片付けてからにはなるだろうけど、ラビコが言ってくれたように、活動範囲を少しづつ外へ向けていこうと思うよ。ありがとね……って、あれ、どうしたの……? え、もしかして人妻好き……?」
回復魔法を使うという女性、サクラさんとも握手をするが、俺はどうしても聞きたいことがあるので、みんなから少し離れ、距離を取らせてもらう。
ちょ、サクラさん、妙なこと言わないで下さいよ……確かにサクラさん、美人さんですけど、人妻だからとか、そういうのじゃあないですって!
みんな睨んできたし……
「──ええと、ネット、ニホン、テレビ。ラビコから聞いた、あなたがよく言っていたセリフ、それについてお聞きしたいことがあります」
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




