六百五十一話 ルナリアの勇者5 黒猫のダンスで丸裸様
星神の国、サリディアの街にある星神の門と呼ばれる大穴。
そこの横穴はダンジョンに繋がっていて、地下なのに空が見えたり海があったりするそうだ。
俺たちはルナリアの勇者さんに会うため、空間を捻じ曲げて晴れの草原ステージへ到着。
黒い龍を倒し、見事ルナリアの勇者さんたちに出会えたのだが、今度は上位蒸気モンスターに襲われてしまった。
蒸気モンスターが出る、とは事前に聞いていたのに、少しのんびりしすぎたか。
アインエッセリオさん曰く、闇の種族のリーダー、ルリエラ。全身黒い衣装で素早く動くので、なんとなく日本の忍者を連想させるが、まぁただの偶然だろう。
そういえばアインエッセリオさんが、根暗コソコソだの、影からチクチク攻撃してくる、と言っていたし、実際に動きを見てみると、物陰に隠れながら攻撃を仕掛けるタイプなので、黒い衣装が理に適っているのだろう。
「あんな子供を前に出して、俺たちが黙って見ているとか、ありえないだろう! 銀の妖狐クラスの相手だぞ! あいつは出口まで行けば襲ってこない。俺たちで時間稼ぎをして、彼らを逃がすべきだ!」
「そうだよラビコ! 黒忍者はそんなに仕掛けてこないから、防御に徹すれば私たちでも数分の時間を稼げる! そのあいだにカエデとみんなを逃がして!」
闇の種族のリーダーで銀の妖狐クラス、油断は出来ない。
なんだかビュンビュン居場所を変えていくので、その動きと行動パターンをなんとなく計っていたら、ルナリアの勇者さんであるリンデルさんと回復魔法を使う女性、サクラさんが武器を持ち、構え始める。
「子供たちが安心して暮らせる世界を……! その為に俺たちは何度も死の淵から這い上がってきたんだ! さぁ逃げるんだ、カエデを頼む!」
リンデルさんの剣から青い輝きが漏れ始め、居合のように剣を振る。すると青い斬撃が生まれ、黒忍者に向かってとんでもない速度で飛んでいく。
「あ~! こら余計なことすんなっての~! あいつはこの私が認めた我が夫だって~の!」
ラビコがなんか騒いでいるが……おお、あれがルナリアの勇者さんのルーインズウエポンってやつか。
確かにあれ、当たれば銀の妖狐クラスといえどダメージを与えられるかも。
うん、さすが勇者、蒸気モンスター相手に戦いを挑み、十年生き延びてきただけはある。
ルナリアの勇者と呼ばれる、剣のリンデルさん。
回復魔法を使うサクラさん。
そこに大魔法使いであるラビコ、盾のジゼリィさんに、円盤による遠距離ピンポイントアタッカーのローエンさん。
斧装備の近接パワータンクのガトさん、槍による中距離直線範囲アタッカーで、三千騎士と呼ばれる農園のオーナー。
近接カウンター、爆破剣のクラリオさん。
なるほど、このメンバーが揃っていれば、ルナリアの勇者パーティーはかなりの戦力となる。
ルナリアの勇者パーティーのフルメンバーってのが何人なのか分からないし、他にもいるのかもしれないが、俺がこの目で見たメンバーだけで、通常の蒸気モンスターなら余裕で倒せるレベル。
さすが、世界に名を馳せただけはある。
「出ていかない……? じゃあ、狩るよ」
リンデルさんが放った青い斬撃を余裕で避け、黒忍者と呼ばれる上位蒸気モンスターが爆速移動しながら手を猫みたいなポーズに構える。
「ほっほ、来るぞ、あの根暗女のふざけた攻撃が。わらわでも防ぐのが至難の業、あの程度の人間では、簡単にはじけ飛ぶぞ?」
根暗女? あの上位蒸気モンスターは女性なのか。つか何、あの可愛い猫みたいなポーズ。
「黒猫のダンス」
闇の種族の女性が静かにそう言うと、目の前に黒いナイフが次々と出現し、連射のようにルナリアの勇者さんに向けて放たれる。
魔力で作られた、数百から数千近い黒いナイフ。あれ、可愛い技の名前に反して、えげつない威力あるぞ。
うん、あの女性、確実に銀の妖狐クラスで、うちのバニー娘アプティやアインエッセリオさんより格上。
「ベス、吹き飛ばすぞ」
「ベッス!」
俺は足元で構えていた愛犬に指示。
ベスが吼え、衝撃波が発生。
ルナリアの勇者さんの目の前まで迫っていた黒いナイフ群、その全てを吹き飛ばず。
「こ、これは……どういう……」
ルナリアの勇者さんが驚きの顔。
「だ~から~、下がれってんの~! うちの社長なら~、あの程度余裕なの~。あっはは~」
「あの程度って……ラビコ、あれ銀の妖狐クラスの強敵だよ! 国が総動員で当たらないといけない奴!」
「大丈夫だって~。あんなのより遥か格上、神様レベルのやつ相手にも社長とベスは余裕で勝っちゃったから~。あっはは~」
水着魔女ラビコの言葉にサクラさんも驚いているが、神様レベルって、地下迷宮のケルベロスのことか?
あれは勝ったっていうか、躾で一発殴っただけだぞ。
つか、なんかさっきからラビコがニッコニコ笑顔のドヤ顔なんだけど、なんなの。
「ほっほ、さすがわらわの王。あの根暗攻撃、それをいとも簡単に弾くとはのぅ。ほっほ、やはり王と一緒に見る景色は最高だのぅ」
なんだかアインエッセリオさんも眠そうな目ではあるが、すっごい楽しそう。
「……アインエッセリオさん、俺の背後、二秒後、ナイフを叩き落として下さい」
「お前、何者だ」
闇の種族の女性が瞬時に俺の背後に現れ、ナイフを首に当てようとしてくる。
「ほっほ、わらわの王だ。根暗ルリエラよ、頭が高いぞ?」
アインエッセリオさんが俺の指示通り、女性のナイフを長い鉤爪で叩き落とす。
「!?」
女性がその行動に驚き、数十メートル一気に後方にジャンプし、距離を取る。
「火のアインエッセリオ。お前では私の動きは捉えられないはず。そして人間を守るとはどういうことだ。気でも狂ったのか」
女性が背中に背負っていた、巨大なブーメラン的な物に手をかけ睨んでくる。
「ほっほ、根暗なルリエラでは分からないだろうのぅ、わらわの王の輝きが。この地に来て数百年、肉体的、精神的に疲弊した我らに、王は優しく手を差し伸べてくれたのだ。微笑み、わらわに生きる術を与えてくれ、そして強さも見せてくれた。自分より強い者に従うのは当たり前だろう? ほっほ……そう、わらわの王は……強いぞ?」
「王……? ……それより水と火、手でも組んだのか。厄介な……あの銀狐、苦手」
闇の種族の女性が、ロゼリィの横に無表情で立っているバニー娘アプティをチラリと見て、心底面倒そうに舌打ちをする。
あ、それって銀の妖狐のことっすかね? 分かります、俺もその気持ち、すっげぇ分かりますよ。厄介で面倒でキモいんすよ、アレ。
妹であるアプティはすっげぇ可愛いんですけどね。
「まさか、誰があの気持ちが悪いキツネなんかと組むものか。わらわもそうだが、あのキツネの女も王に従っているだけかのぅ」
「人間が水と火を従えた……? 理解が追いつかない。強そうにも見えない……」
女性が会話の途中で俺の真上にジャンプし、巨大なブーメランを叩きつけてくる。
「ほい、ベス、真上に咆哮。弱めな、続いてアインエッセリオさん、ヒビが入ったブーメランの真横から突撃」
俺はすでにその動きが見えていたので、愛犬に指示。
「ベッス!」
「ほっほ、わらわの王には逆らわないほうが良い。一撃で消し去らなかった王の慈悲、よく考えてみるとよいかのぅ……!」
愛犬ベスが真上に咆哮、女性の巨大なブーメランにヒビを入れる。
続いてアインエッセリオさんが、得意の鉤爪を前に突き出し回転しながらの突撃。武器破壊をしてもらう。
これで帰ってくれませんかね。
そちらも最初から殺しに来るのではなく、出ていけ、と警告してくれたじゃないですか。無駄な争いは好まない。
そしてここで戦いを拡大すると、銀の妖狐一派である水の種族、アインエッセリオさんの火の種族、二種族を相手にすることになる、と勘違いして引いてくれないですかね……。
「さっきの犬の衝撃波……! ちっ……なんという収束された魔力……! ぐぅぅ! まさか火のアインエッセリオに武器を壊されるとは……! 油断した……でも……!」
あれ、まだ来る気ですか。
じゃあこっちも手加減しませんよ……ほい、足払い。
「人間を取る……あ……ふにゃん!」
千里眼の力で動きを予測、彼女の着地地点で待ち構え、足が着く寸前に足払い。
女性が見事にコロンと地面に転がり、猫のようなポーズを取る。全裸で。
え、あれれ? なんで全裸?
あ、もしかしてベスの咆哮で着ている服が消し飛んだってやつですか? あらら、それはそれは……ふ、不可抗力っすよ! わざとじゃないですって!
ただの偶発的な事故、そう事故なので、じっくりと観察を……うん、お胸様は……でかい。
そしてこの女性、なんで猫のようなポーズなの。可愛いんですけど。
「ぶっ……ほっほ、ほっほ! 王に転ばされて、ふにゃん、とは、随分とかわいい鳴き声だのぅ。ほっほ!」
アインエッセリオさんが腹を抱えて大爆笑。
女性は全く予想できないことが起きたと、目を見開き、猫のポーズのまま、ポカンと口を開けている。全裸で。
素晴らしい……俺無課金なのに、まさかこんなところで、このような特典映像があるとは。
「ぐぐぅ……! 貴様、最初から私を辱めるつもりだったのか! 覚えたぞ人間……覚えたからな! その顔、絶対に覚えた……誰にも見せたことないのに……責任は取ってもらうからな人間……! ば、ばーか、アホまぬけ! 次に会ったらお前を丸裸にしてやるからな! 覚えてろ……ひん」
女性が真っ赤な顔になり、裸を隠すこともなく俺を指さし、子供のような罵倒の言葉を吐きながら涙目になり、ビュンと草原の向こうに消えていった。
あれ、俺、なんか女性を泣かせてしまったけど……なんか悪いことしましたかね……。
「ほっほ、だっさいのぅ。根暗の上に子供みたいな性格だからモテないんだと、分からないのかのぅ。ま、王にはアダルティなわらわがいるから関係ないかのぅ。ほっほ」
……とりあえず危機は去った。
助けてくれたアインエッセリオさんの頭を撫で、労をねぎらう。
そして俺、ルナリアの勇者さんたちの危機を格好良く救った英雄ってやつなのでは?
これはみんなが笑顔で感謝の言葉を延べ、ロゼリィとかが抱きついてくれるやつ。もちろん大きなお胸様の感触を味わいつつ……
「……社長、どういうこと~? この状況を利用して女を裸に剥いて泣かせるとか~。つか女なら私がいるだろ~? なんでわざわざ初対面の蒸気モンスターの女に欲情してんだよ! おかしいだろ!」
「ははは……いやぁ、君、すごいね。誰だろうと、どんな状況だろうと欲のまま来るもの拒まず……うん、その精神をずっと持ち続けたら、君は世界を取れるすごい男になれるんじゃないかな……」
あれれ、ラビコが呆れた顔で怒っている……ルナリアの勇者さんも、ちょっと困った顔で無理矢理フォローの言葉をひねり出している……あれれ?
おかしいな、俺ってみんなを守ったヒーローなはずなんだけど、すっごい白い目で見られている……?
あれれ?
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




