六百五十話 ルナリアの勇者4 パートナーアインエッセリオさんと黒忍者様
「やっば……黒忍者が来たよ! みんな出口まで全力疾走開始!」
星神の国、サリディアの街の大穴にある横穴ダンジョン。
彼らがいる空間に無理矢理繋げ、黒い龍を倒し、俺たちはついにかの有名なルナリアの勇者さんに出会えた。
ルナリアの勇者さんと回復魔法を使う女性は結婚していて、可愛い子供までいる状況。
ラビコとの久しぶりの再会の時間を楽しんでいたら、黒い人影に襲われた。
しまった、蒸気モンスターが出るダンジョンで、油断し過ぎたか。
「黒忍者……?」
回復魔法を使う女性、サクラさんが人影を見て叫ぶが、忍者?
「うん、ほら、見た目が忍者っぽいでしょ? って分かんないか、ごめん、私ってたまに変な言葉使うけど気にしないで。それより走る! あいつはこの空間から出ればそれ以上追ってこないから!」
俺の言葉にサクラさんが反応してくれたが、忍者……いえ、変な言葉ではないですよ。
俺にはその言葉、分かります。
やはりこの女性、転生か転移してきた日本人では。
そのあたりを詳しく聞いてみたいが、今はそれどころではないか。
「カエデ、全力で走るんだ! 振り返らなくていい、走れ! 君たちも早く!」
ルナリアの勇者、リンデルさんがキッと覚悟を決めた顔になり、最後尾で剣を構える。
リンデルさんが何事か呟くと剣が青く輝きだし、周囲を照らす。なんだろう、まるで三日月がそこにあるかのような光景。
「逃げてみんな! ラビコ、娘を……頼むね」
サクラさんも覚悟の顔。ラビコの手を握り、ニッコリ微笑む。
「良かった……今日あなたたちと出会えて。私たちだけだったら、娘を助けられなかったよ……」
「はぁ~? 何を今生の別れみたいなセリフ言ってんの~?」
サクラさんに娘であるカエデちゃんを託されたラビコだが、一歩も動くことなく、カエデちゃんの頭を優しく撫でる。
「ラビコ! まさか五年で戦闘の勘が狂ったのか? 相手は上位蒸気モンスター、銀の妖狐クラスの相手だぞ! 俺たちがあいつにどれほど苦戦し、血を流したか忘れたのか! ……あれ、そういえばソルートンが銀の妖狐に襲われたと聞いたが、ラビコが追い払ったと冒険者センターに記録があったな……あれはどういう……。もしかして何か秘策でもあるのか?」
「そう、すっごい心配したんだよ! ソルートンが銀の妖狐に襲われたって……みんなは無事なんだよね? ローエンとかジゼリィとかガトとかノレッジとか……」
余裕をかます水着魔女ラビコに対し、ルナリアの勇者であるリンデルさん、そして回復魔法を使う女性、サクラさんが余裕無い表情で言ってくる。
「だ~から~、冒険者センターの記録を読んだのなら分かるだろ~? ソルートンの住人に被害は無し。この世界に名を馳せる大魔法使い、ラビコさんが銀の妖狐を追い払ったって~。あっはは~」
ラビコが爆笑しポーズを取る。
何を遊んでいるのやら……まぁいい、ええっと……なんだか俺たちをどこかへ追い込もうと威嚇しながら走り回っている感じ。
最初に聞こえた声「出ていけ」、さらにはサクラさんが言っていたが、出口まで行けばそれ以上追ってこない、と。
まぁ言葉通り、この空間から出ていけって言っているのだろう。
あまり積極的に攻撃もしてこないし、ってああ、向こうはアインエッセリオさんとアプティを警戒しているのか。
向こうからしたら、同族、同格が二人そこにいる状況。下手に手も出せない、と。
「……って言いたいところだけど~、この世にはおっそろしい奴がいてさ~、私なんかより遥かに強い男がいるのさ~。冒険者センターの記録は私がお願いした、嘘。二人なら分かってもらえると思うけど~、これから見る光景は他言無用~ってね~。あっはは~」
「え……? ラビコより強い……?」
サクラさんが不思議そうな顔、そして水着魔女ラビコが楽しそうな笑顔で俺を見てくる。
この状況で何が楽しいのか……。
「ったく、ええと……アインエッセリオさん。あなたのお力を借りてもいいでしょうか」
カエデちゃんはラビコに、ルナリアの勇者さんたちにはクロにサポートに付いてもらって、バニー娘アプティにはロゼリィをお願いする、が正解だろう。
相手は銀の妖狐クラスの上位蒸気モンスター、油断は出来ない。
どうにもアインエッセリオさんがさっきから、根暗コソコソと黒いやつのことを呼んでいるし何か知っているのだろう。そこを頼らせていただきます。
「ほっほ……来たか、ついに王がキツネの女ではなく、わらわをパートナーとして選んだか。よいぞ、王の覇道を共に歩むのはわらわなんだと思い知らせてやろう」
アインエッセリオさんに声をかけると、長い鉤爪をワキワキ動かし、眠そうな目のまま鼻息荒くムフンムフン言い出し、やる気満々のご様子。
パートナー? 適材適所ってやつです。
「今回、アインエッセリオさんがいてくれて良かった。やはり信頼できる人が側にいてくれるのは、心強いです」
「……ほっほ、ほっほ……! そうか、そうかそうか、やはり王はわらわの身体を求めているのだな? よいぞ、身体が繋がることで、より二人の関係は深いものとなる……それを求めているということかのぅ……!」
ん? アインエッセリオさんが変な方向に興奮し始めたぞ?
俺なんか変なこと言ったか? まぁやる気になってくれたのなら、いいか。
「……マスター」
あれ? なんかバニー娘アプティさんが無表情に怒っている……?
どうしたの。
「ええと、アインエッセリオさん。あの黒いやつの情報をお願いできますか」
愛犬ベスの頭を撫で、待機モード。
銀の妖狐クラスを相手にするのなら、少しでも情報が欲しい。
「ほっほ、良いぞ、なんせわらわは王が信頼するただ一人のパートナーだからのぅ。やつは闇の種族のリーダー、ルリエラ。とにかく人前に出ることを嫌う種族で、影からコソコソチクチク攻撃してくるという、わらわが一番嫌いなタイプかのぅ」
闇の種族……?
おっと、新たな蒸気モンスターの種族が出てきたぞ。
へぇ、闇、ね。
大きな岩の裏など、次々と居場所を変えビュンビュン移動しているが……まぁケルベロスほどではないな。
ふむ、確かに頭から足先まで、全身黒い格好。背中には大きなブーメラン的な物を背負っている。
サクラさん曰く、黒忍者……うん、元日本人からしたら、パッと見忍者だ、あれ。
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




