六百四十七話 ルナリアの勇者1 勇者を救え様
星神の国のサリディアという街にある底の見えない大穴。
千年以上前からあるらしいが、人間がいくら調べても、底がどこまであるのか分からないという謎の大穴。
そして大穴には横穴があちこちに開いていて、そこに入ると、まるで別の空間に来たかのようなダンジョンが広がっているそうだ。
猫耳フードのクロ曰く、夜の海、台風のような暴風雨の森林、薄暗いダンジョンの奥深くなど、『そういう空間』に出るらしい。
そして横穴ダンジョンの行先は完全なランダムだそうで、同時に入らないと全然別の空間に飛ばされてしまうとか。
水着魔女ラビコは以前からここにルナリアの勇者がいる、とアタリは付けていたみたいだが、横穴ダンジョンの行先がランダム、さらに入口が現在見つかっているだけでも一万以上。
このとんでもない確率を超えて出会うのは、ほぼ不可能だろうと半分諦めていたらしい。
普通に行っても無理っぽいので、上手く説明は出来ないけれど、入口からランダムの道を辿り空間に入るのではなく、対象の人物が現在いる空間の出口をこっちの入口に繋げてみた。
なるほど、分からん。でもどうやら上手くいったようで、なんとかルナリアの勇者がいる空間に到着。
猫耳フードのクロ曰く、晴れの草原ステージ。
なるほど、ゲームっぽく表現すると分かりやすいか。
少し先の岩山あたりで蒸気モンスターに襲われている人がいたので助けようとしたが、どうやらその人物がラビコが捜し求めていた、ルナリアの勇者らしい。
「あの黒い龍みたいのはなんだ?」
空中に浮いている巨大な黒い龍。
ダッシュしながら上をみて観察してみるが、蒸気を口から吐いているので蒸気モンスターだとは思うが、初めて見るタイプだ。
「あれはネグロドラゴンだね~。見ての通り、空を自在に飛び回るからやっかいこの上ないやつさ~。走って逃げても……まぁ無理だろうね~。あっはは~」
水着魔女ラビコが魔法で飛行しながら答えてくれたが、ドラゴンか。
確かに空飛ぶ系は地上からだと攻撃も当てにくいし、逃げるのも不利だよな。
「……マスター……蹴り落としても……いいです、か?」
バニー娘アプティが無表情でおっそろしいことを言うが、あなたには宿の娘ロゼリィを抱えてもらっているので、危険なことはダメっす。
幸い、龍はこちらに気が付いていない様子。
この距離なら、致命傷は無理だろうが、衝撃を与えることは出来るはず。
「いくぞ……吼えろベス!」
「ベッス!!!」
俺と並走していた愛犬ベスの身体が青く輝き、咆哮。
ゴアアアアッ!
ベスの放った衝撃波が、見事黒い龍の横っ面にヒット。
龍が視線をこちらに向ける。ヘイトコントロール完了。
「クロ、真下から柱一本! アインエッセリオさん、上から叩きつけてやって下さい!」
「あいよぉ、たった一本とか、キングもお優しいことで。にゃっははは!」
「ほっほ、やっとわらわの出番か。そこで指をくわえて見ているがいいキツネの女。こんなの、わらわ一人で消し飛ばせるがのぅ。王なりの演出ってやつかのぅ」
俺の指示を理解してくれた二人が頷き、猫耳フードのクロが龍の真下から光の柱を出現させる。
と、同時にアインエッセリオさんが龍の上空にジャンプしていて、長い鉤爪を構え巨大な龍の背中を真下に向かって強打。
ゴアアアアアアアッ!!!
骨が折れたような鈍い音が響き、龍は真下の光の柱に突き刺さる。
「ラビコ! とどめだ! 派手なの頼むぜ!」
「あっはははは! 見ろよリンデル……これが私たちが腕を千切られ、腹を食い破られ血反吐を吐きながら夢見た力、子供たちが安心して暮らせる世界を作り出せる希望の光だ! そしてそれを叶え、この男はさらなる一歩を踏み出そうとしている! 種族? ……そんなものはこいつには関係ない! 共にこの世界で生きようとする想いは憎しみすら超える! 時間はかかるだろう、でもこいつはやり遂げるさ……なぜならこの大魔法使い、ラビコさんが一生サポートするんだからなぁ!! 記憶に刻め、新たな光を……オロラエド……ベル!!!」
空中に浮いているラビコが紫の光を纏い、キャベツの刺さった杖を空へ掲げる。
今まで見たことがないレベルの魔力を収束させ、ラビコの代名詞とも言える雷の魔法を黒い龍に向かって放つ。
とんでもない大きさの雷が龍に着弾。
断末魔をあげ、龍の身体は靄となり霧散していく。
「…………う、うそだろ、ネグロドラゴンをこうも簡単に……さっきの雷、もしかして……ラビコ、か?」
多量の靄が周囲を包む。
そしてその靄の向こうから、三つの人影がゆっくりと近付いてくる。
先頭にいる剣を持った人影から信じられないといった戸惑いの声が聞こえ、ラビコの名を呼ぶ。
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




