六百四十六話 星神の門3 引き当てた晴れの草原ステージ様
「…………スター……」
う……
「…………マスター」
……なんか甘い香りが……
「あれ……アプティか……」
「……はい、おはようございます。マスター」
「なんだ、もう朝か……ふぁ……」
ぼーっとする頭、まだ目を開けたくないが、眩しい太陽の光に勝てるわけもなく薄目を開けると、そこには毎日の光景、バニー娘アプティが無表情で俺を覗き込んでくる。
アプティの長く綺麗な髪から甘い香りが。
「……マスターの睡眠を邪魔していた物は向こうにどけておきました」
俺の睡眠の邪魔? アプティが無表情ながら、ドヤ顔っぽく俺に報告してくる。
はてなんだろう。まぁいい、ここは褒めるところだ。
「ありがとう。やっぱりアプティはかわいいな」
あれ、俺アプティに膝枕されているな。
とりあえず手を伸ばし、アプティの頭を撫でる。
「……マスター、このまま島で結婚……」
優しくアプティの頭を撫でると、アプティが無表情ながらも満足気。
だからいつも言う、島で結婚って何?
「ベッス」
おっと、愛犬ベスが俺の胸の上に乗ってきて、ナデナデを求めてきたぞ。
可愛いなぁ、俺の愛犬は。
「ほっほ、王よ、あまりイチャイチャしている時間はないぞ?」
バニー娘アプティと愛犬ベスを撫でるという、いつもの朝のルーティンをやっていたら、眠そうな目の女性が長い鉤爪を使い、とある方向を指す。
あれ、アインエッセリオさん……って太陽に青空、足元には草原……ここ、どこだ!
俺はガバっと起き上がり、周囲を確認。
見晴らしの良い草原……? なんだここ。
ちょっと離れたところに、女性三人が綺麗に並べられている。って、みんな!
「ラビコ! ロゼリィ! クロ! 起きるんだ!」
やっと頭が回転し始めたぞ。
そう、俺たちは夜中、星神の門と呼ばれる大穴に来て、一万以上あるという横穴ダンジョンの『1』と書かれたところに入ったんだった。
「さすが我が王よのぅ。この世界の創造主が作ったルールをその場で組み替えるとはのぅ。しかも空間のねじれからくる衝撃波、生き物なんて簡単に消し飛ぶレベルのものから、これだけの人数を守り突破するとはのぅ……ほっほ、さすがのわらわも道中恐怖だったぞ」
アインエッセリオさんが俺たちの後ろを指すので見てみると、なにやら黒い物が空中に浮いている。
これ、さっき入った横穴ダンジョン『1』の出入口か?
そうか、帰り道はここになるってことか。
「も~びっくりした~。なんか色んな音が一気に耳に入ってきて~、ってここどこ~?」
水着魔女ラビコが周囲を見てから全員を見渡し、無事を確認する。
「草原……ですね……ここ、ダンジョンの中ですよね? 太陽もありますし……」
宿の娘ロゼリィが不安そうに俺の左腕に絡んでくる。
俺たちは夜中、サリディアの街にある大穴の横穴ダンジョンに入った。
なのに、真上に燦燦と輝く太陽に雲一つない青空。
なんだ……? ここの空間には時間の流れとか無いのか? いや、こういう、『晴れの草原という空間』ってことか。
「ここは晴れてる草原ステージってとこかぁ? 確か他には夜の海とか、台風のような暴風雨の森林とか、それこそ薄暗いダンジョンの奥深くとか、いっぱいあるらしいぞ。天気に関してはラッキーだったのかもなぁ。にゃっはは」
猫耳フードのクロがゴーグルを付け、周囲を確認している。
そういえば、クロのゴーグルには遠視の機能があるんだっけ。
草原ステージ、なるほど。ゲームのダンジョンのように考えると、実にしっくりくる。
「王よ、対象の人間が根暗コソコソに追われているぞ? 生きている状態で用事があるのではないのか? ほっほ」
アインエッセリオさんが一番最初に指していた方向、遠くの岩山のような場所をじっと見ている。
対象の人間? 根暗コソコソ?
ゴアアアアアアアアアアア!
次の瞬間、耳が痛いぐらいの咆哮が聞こえてきて、上空に浮いている巨大な黒い龍が真下、岩山に向かって衝撃波を放つ。
直撃した巨大な岩が爆発。靄が周囲を覆いだす。
靄……? もしかしてあの龍、蒸気モンスターか?
口から大量の靄を出し、龍は地上に向かってさらなる追撃。
だが、地上から青く光る斬撃が放たれ、龍の衝撃波を切り裂く。
「誰かが蒸気モンスターに襲われている! 助けに行くぞ!」
俺が愛犬を呼び寄せ、走り出そうとすると、水着魔女ラビコが口をポカンと開け動かない。
ど、どうしたんだ? 早く襲われている人を助けに行かないと。
「うっは~……これはこれは懐かしい~……まさかルナリアソードの青い斬撃を生きているうちに見られるとはね~。さっすが社長~、急に性欲湧いてパーティーメンバーを押し倒しただけはあるね~。数百回の試行は考えていたけど~、まさか一発で引き当てるとか予想外さ~、あっはは~」
ラビコが俺の肩をバンバン叩きながら笑うが、え、さっきのって俺が襲ったことになってんの?
もしかして無理矢理空間いじったせいで、みんなの記憶も改竄された……?
いやいや、俺は何もしていないぞ!
「にゃっはは、ラビ姉が嬉しすぎてキングをイジってるだけだって。さぁ行こうぜキング。勇者を救いによ!」
猫耳フードのクロがゴーグルを外し、ニヤニヤと俺を小突いてくる。
引き当てた? 勇者?
──もしかして、今黒い龍に襲われているのって、ルナリアの勇者?
影木とふ です
さて、17章を開始するとき、2月末に17章を完結、と
書きましたが・・・あれは嘘だw
ええと、書いているうちに当初よりボリュームが増えまして
一か月ほど伸びまして、現在の「17章の完結」は3月末、となりそうです・・・
もう少々お付き合いくださると幸いです
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




