六百四十一話 星神の国レディアホロウ5 ロゼリィの謎の未来計画と夜中の外出者様
「星神の門、サリディアにある大穴は千年以上昔からあるらしいが、いまだに分かっていない部分が多く、底がどこまであるかすら計測不能、と」
酒場から宿までの帰り道、商店があったので果物を色々購入。それを部屋でつまみながらエロい表紙の本を読みふける。
あ、エロいのは水着魔女ラビコが表紙の部分だけで、中身は冒険者が生き残る知恵が書いてある真面目な本、冒険者センターガイドブックな。
しかし見つかってから千年以上経過、街として発展するぐらい賑わい多くの人が集まっているのに、底がどこまであるか現在も計測不能って、すごいな。
「ああ、生き返ります……」
宿の娘ロゼリィがリンゴを頬張りご満悦。
さっき夕食として食べた酒場の料理は油に濃い味でロゼリィがげんなりしていたからな。いやまぁ不味くはないんだけど、濃い。体を動かすのがお仕事である屈強な冒険者たちには人気なのだろうが、普段野菜中心の食生活であるロゼリィには厳しかった模様。
まぁ俺もだけど。
「ベッスベッス!」
「あ、ちょっと待ってくださいねベスちゃん。はい、どうぞ。ふふ」
愛犬ベスが自分の好物であるリンゴをロゼリィが食べていたので、大興奮で飛びついていく。
「ああ、ごめんロゼリィ。ほらベス、こっちに美味いリンゴがあるぞー」
「ベッスベッス!」
自分の分から分けてくれたロゼリィに謝りつつ、ベスの分のリンゴを食べさせる。
「……私もリンゴ食べてたけど~、ベスってロゼリィのとこには行くけど私のところに来ないのなんで~? ね~ね~、もしかして少年さ~、そういうふうにしつけてる~?」
「してねぇよ。ベスにだって選ぶ権利はあるだろ」
水着魔女ラビコが一連の様子をじーっと見ていて、なんだか不満気に俺に体当たりをしてくる。いてーな。
そういやベスって、俺以外ではロゼリィを認めている感じなんだよな。理由は不明だけど。
ラビコには……たぶんなんか得体のしれない殺気とか感じ取って近付かないんだろ。
「はぁ~? それどういう意味~? パーティーのなかで一番露出が多いの私なんですけど~? ほ~ら、こうしたら童貞くんなんてすぐに私のそばにきちゃうじゃ~ん。あっはは~」
よく分からないが、怒ったラビコが俺の目の前で水着に包まれた大きなお胸様を寄せて上げてのエロポーズ。
ふわぁ……エロ本が……冒険者センターガイドブックの表紙が動いた……!
えっろ……。
そしてベスは露出度順で近付くかどうか決めてねぇって。多分自分に好意的かどうか、だろ。
「まぁたラビ姉、キングで遊びだした。ほンと、酒に酔ってるとすぐにキングに抱きつきにいくよな、ラビ姉。ああそうか、アタシも酔ったふりして抱きつきゃいいのか、名案にゃっはは!」
意味不明に絡んでくるラビコに溜息ついた猫耳フードのクロだったが、後半何か閃いたらしく、雑な作戦を口に出し俺に抱きついてくる。
別にラビコって酒に酔ったからって俺に近付いてくるわけじゃあねぇよな。普段から暇さえあれば俺を小突いてゲラゲラ笑っているぞ?
「この……お前お酒飲める年齢じゃねぇし、そもそも飲んでねぇだろ! あ、やめろ、この本はとっても大事な本なんだぞ!」
クロの突撃で読んでいた本を落としそうになる。
くそ、確かにこれは『読む用』のやつだから多少のキズは覚悟しているけど、それでもラビコのエロい表紙に傷一つ付けてなるもんか……!
「大事な本って~……だからそんなに私の体が見たいならそう言えばいいじゃないか~! なんで社長ってエロい本ばっか欲しがって実際の女には手を出さないのさ~! 意味分かんな~い!」
俺が落としそうになった冒険者センターガイドブックをラビコが空中でキャッチ。
そして今まで以上に激怒。ラビコの大きなお胸様が揺れに揺れ、もはやこれはエロアニメーション。ありがとう日本の先駆者たちよ。
「あ、あああああ……! わ、私も参加しないと……! あ、あの手を出すのなら私に、そ、そぉぉれ!」
前には水着魔女ラビコが絡みつき、後ろからは猫耳フードのクロがニャハニャハ笑いながら羽交い絞めしてきて経験値の低い純粋な少年は落ちる寸前だったのだが、ラビコの後ろのほうで困った顔をしていた宿の娘ロゼリィが突如決意の顔に変わり、ポケットから二つの箱を投擲。
ちょ、おいそれやめて、絶対マズイやつ!
「アプティ、回収! 回収だ!」
「……はい、マスター」
「ほっほ、わらわもいるぞ? 王よ」
あれは連絡船の中で見たぞ……! ロゼリィのお父様であられるローエンさん特製、光と煙の二段階で周囲を強力に眠らせる罠魔法が詰まった箱……!
俺が慌てて罠起動前にバニー娘アプティに回収を指示。
アプティが華麗に空中の箱を回収、そしてもう一個を長い鉤爪を装備した女性、アインエッセリオさんがキャッチし眠そうな目でドヤ顔をしてくる。
二個目もアプティが回収しようとしていたが、背後から現れたアインエッセリオさんに横取りされ、アプティさん無表情ながらちょっと不満そう。
「あ、あああああ……子だくさんで宿の未来安定化計画が……」
罠投擲者ロゼリィがわなわなと崩れ落ち、謎の作戦名を小声でつぶやく。
いや、何しようとしたか知りませんが、ここで使ったら前回みたく、計画の実行者であるロゼリィも一緒に寝ておしまいじゃないですか。
せめて使う直前に宿の廊下に出て、部屋に向かって箱を放り込んでドアを閉めましょうよ。マジでそれやられたらまずいから、計画の改良案は教えませんけど。
君は今のままで美しい(ロゼリィさんはドジっ子のままでいて)。
しかしアプティに加え、今回はアインエッセリオさんも旅に同行してもらっているが、この二人マジで優秀。
俺の言うこと聞いてくれるし、余計なトラブル巻き起こさないし。
もしかして俺のパーティー安定化計画に本当に必要なのは、蒸気モンスターであるこの二人なのでは……。
「……マスター、今度これをマスターに使ってもいいです……か? そして島で結婚……」
「王よ、この結果を踏まえ、わらわにも指輪をねじ込んできて良いのだぞ? そうすればすぐにでも仲間の元に帰り山で結婚とやらを……」
ロゼリィの謎の計画を防いでくれた二人が罠魔法の詰まった箱を俺に押しつけ、新たな危険な計画を口にする。
……ああ、違った、二人もあっちと同族だった──
なんとか荒ぶる女性陣をなだめ温泉施設に行き、就寝。
……しかし千年前、サリディアの大穴、星神の門から光と共に現れた女性、か。
状況を聞くと、マジで異世界転生転移なんだけど、じゃあ俺もそうやってこの異世界に来たんだろうか。
俺はいきなり港街ソルートンの真ん中にある橋に立っていたんだけど、大穴から現れたような記憶は無いな。そしてサリディアの大穴からソルートンってすっげぇ遠いんだが。
さらに俺の場合、愛犬であるベスも一緒なんだよな。
うーん、分からん……おや?
「………………」
宿は大きな部屋を一つ取り、全員同部屋。部屋の端っこで寝れずに唸っていると、誰かが物音を立てずに部屋を出ていく。
……はて。
トイレ、というワケではなさそう。なんだかいつもとは違う雰囲気と顔だった。
あの顔はさっき夕食をいただいた酒場で、近くの冒険者たちの謎の会話を聞いたときと同じ顔。
そう、彼女が一番反応していた単語は、『月』だったか──
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




