六百四十話 星神の国レディアホロウ4 大穴の街サリディアと冒険者たちの噂様
星神の国の王都レディアホロウから南にある街、サリディア。
魔晶列車の特急に乗り三十分ほど。
そこそこ栄えている内陸の街なのだが、異様な雰囲気を放つ観光スポットが街の中心部にある。
そう、星神の門と呼ばれる地面に開いた大穴だ。
「これが星神の国の聖地、地面に開いた大穴『星神の門』さ~。あっはは~」
サリディア駅から馬車に乗り換え、西に向かうこと二十分、俺たちは地面に大きく開いた大穴の近くにある観光スポット「星神の見晴らし塔」に到着。
大穴の全体が見渡せる塔で、高さは五階建ての学校の屋上ぐらいだろうか。
水着魔女ラビコが笑いながらパンフレットを渡してくる。無料のやつで、ちょっとした歴史やらが書いてある。
「お、大きいですね……少し……怖いです」
宿の娘ロゼリィが眼下に広がる底の見えない大穴に顔を青ざめさせる。
まぁ……正直俺もこの光景には恐怖が先行する。
「ラビコ、この大穴って外周歩いたらどのぐらいなんだ?」
パンフレットには大きさが書いていなかったので、ラビコに聞いてみる。
「確か~、ゆっくり歩いて一時間ぐらいだったかな~? 朝とかによく外周を走っている人がいるらしいよ~。ちょうどいい距離だとかで~」
歩いて一時間……大体だが、東京にある皇居がイメージとして該当するか。
分かるだろうか、皇居と同じ大きさの底の見えない大穴が地面に開いているんだ。初めてこの光景を見て美しいとは思えないし、やはりちょっと怖さがくる。
「王都にも冒険者はいたが、こっちのサリディアの街のほうがさらに冒険者の数が多いような」
高いところから地上の様子を見ていると、冒険者の格好をした人がかなりの数いる。みんな大穴方面から出てきたり、逆に街から大穴を目指して歩いている冒険者も多くいる。
中には白衣……? 的な服を着た、どうみても細身の冒険者ではない人も見られる。
「おぅ、この大穴って千年以上前から存在してるらしくてよ、世界中から研究者が集まってくるンだよ。大穴の中はあちこちに横穴が開いていて、そこに入るとダンジョンが広がっているンだ。で、そこを調べようとすると……出るンだよ、アレが……にゃっはは!」
猫耳フードのクロが俺を驚かせようと雰囲気たっぷりで近付いてきたが、途中で耐えきれずに笑い始めてしまった。
そうか、白衣っぽい格好の人は研究者か。確かに手には武器ではなく紙の束や本などを持っているな。
アレが出る? え、何々、お化け的な……?
つか異世界でのお化けってゴーストとかいう、いわゆるエネミーになるのかな。倒せるお化けなら無敵の愛犬がいれば大丈夫かもだが、倒せない系のゴーストはご勘弁。ただただ恐怖。
「そう! 出るんだよ~、とぉっっっても怖~い、出会ったが最後、生きては帰れないというアレが~。あっははは~」
水着魔女ラビコがバチーンと目を見開き、クロの話に怯えている俺に追い打ちをかけてくる。
あ、これあれか。新しい土地に行くとラビコがよく俺に仕掛けてくるいつもの脅し文句。
ニヤニヤ笑っているし、十中八九それだろう。
ラビコとの付き合いも長い。いい加減俺も学んだぞ。
「大穴の中にダンジョン? もしかしてモンスターが出るとか?」
「あ~……つまんな~い。もっと慌てふためいて泣き崩れて漏らすまで煽ろうとしたのに~」
俺が普通に返すと、水着魔女ラビコが心底つまらなそうに溜息。
慌てふためいて泣き崩れて漏らすってどういう状況だよ。そこまでトークのみで怖がらせられたら、もはや天才話術士だろ。それこそレディアホロウ王都駅で披露すれば、かなりの投げ銭をいただけるのでは。
「そう、出るンだよモンスターが。ここに冒険者が多くいる理由はそれ、研究者の護衛役だな。アタシは行ったことないンだけどよ、聞いた話では、ダンジョンの中なのに海が広がっていたり、青空に太陽みたいな光源があったりするんだってよ。そして不思議なのが、同じ穴にもう一回入っても、前回とは違うダンジョンだったりするから、同じタイミングで同時に入らないとパーティーが分散しちまって危険な状況になるンだよ」
クロが説明をしてくれたが、やはりモンスターが出るのか。
なるほど、研究をしようと中に入るとモンスターがいて危険。だから研究者は冒険者を雇う。冒険者はお仕事があるから集まるってわけか。
しかしクロの話を聞く限り、不思議なダンジョンだな。
同じところに入っても次は違うダンジョンに繋がる? 一体どういう仕組みなんだ。
研究者が調べたくなるのも分かる現象だな。
「ま~帰りは入った穴に出るからいいんだけど~。そして~もっと危険なのが~、このダンジョンにはアレが出るのさ~。そう、黒い蒸気モンスター、さらには危険度マックス、黒い上位蒸気モンスターも運が悪いとエンカウント~。そうなったら走って逃げろ~だね~。あっはは~」
水着魔女ラビコが俺の肩をバンバン叩きながら爆笑。
じ、蒸気モンスター? いやそれ笑いごとじゃあないだろ。そんな危険なところに自ら足を踏み入れるとか、ここの研究者と冒険者って命知らず過ぎだろ……。
「黒い……? いや大丈夫なのかこの街、そんな危険な場所に住むとか……」
黒い蒸気モンスターってどういう意味だろう。
「あ~、それが不思議と黒い蒸気モンスターって横穴から出てこないんだって~。たまには出てくるらしいけど~、パっと消えるようにどこかに行っちゃうみたい~。なんでなのかね~、さぁ研究者諸君、頑張って穴のランダム性と黒い蒸気モンスターの行動を調べてくれ~。あっはは~」
滅多に出てこない? そういえば冒険者の国のケルベロス地下迷宮にも蒸気モンスターがいるが、滅多に出てこないんだっけ。
なにか共通性があるんだろうか。
「…………」
「わらわは根暗コソコソは嫌いだのぅ」
一応同じ蒸気モンスターであるバニー娘アプティとアインエッセリオさんを見るが、アプティ無言、アインエッセリオさんは謎の発言。
根暗? 意味が分からん。
とりあえず大穴の近くの宿を取り、夕方。
街で有名だという酒場兼食堂に行ってみることに。
「肉に油に濃い味料理……」
よく分からないので、一番人気だという本日のディナーセットを注文。
出てきたのは、何かの肉の塊をたっぷりの油で焼いたものと、とっても濃いぃ味の油が浮いたスープ。
「ま~、ここは冒険者が集まるところだからね~、パワーメシが大人気ってところかね~。あっはは~」
水着魔女ラビコがお酒をゴプゴプ飲み笑う。
「や、野菜が欲しいです……」
宿の娘ロゼリィが肉にはあまり手を付けず、メニューを熟読し野菜を探す。
「諦めろってロゼリィ。ソルートンのジゼリィ=アゼリィみてぇな美味い料理はそうそう無いってことだってぇの。肉が硬ってぇええ! にゃっはは!」
猫耳フードのクロが豪快に肉に噛みつき引きちぎる。
うーん、商店で野菜を買って宿の部屋で食べたほうが健康的かも……。
「おい聞いたか、夜になると現れる謎の冒険者の噂……」
「……ああ、こないだ五番横穴で見かけたぜ」
近くの冒険者たちの会話が聞こえてくる。
「……剣が光って……月みたい……」
「……とんでもなく強ぇし、何者なん……」
「…………」
よく聞こえないが、ラビコがお酒を飲みながらもじっと聞き耳を立てる。
月、という言葉を聞いた途端、ラビコの顔から笑顔が消え去ったのが印象的だった。
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




