六百三十七話 星神の国レディアホロウ1 到着星神と芸術の国レディアホロウ様
「そのとき光が天まで登り、光をまとった星神様が降臨されたのです。長く綺麗な黒髪、そして着物を纏い我らに手を差し伸べて……」
「私のこの愛は例え世界が闇に覆われようとも必ずあなたに向かって輝く……」
「好き嫌い好き嫌いすきすきー、うーん、ラブラブキューン!」
俺たちの乗った魔晶列車は水の国オーズレイク王都、運河の街カナリスポートを通過、そしてついに目的地である星神の国の王都、レディアホロウに到着。
オーズレイクからレディアホロウに近付くにつれ建物の雰囲気が変わっていき、古く歴史を感じる建物が増えていった。
柱一本にしても豪華な彫刻が施されていて、なんだかとっても荘厳でオシャレ。
駅の中のあちこちで個人だったりグループでちょっとした演劇をやっていたり、歌を披露したりと、さすが芸術の国といったところだろうか。
三人目の可愛らし気な女性の歌、ちょっと周りとは異質な世界だったが、なんだか日本のアイドルっぽくて気になるところ。
「は~い、これが星神の国レディアホロウさ~。駅の中のあれはもう名物だね~。練習のためだったり~、売り出し中の人だったり~、色んな人が持てる技術をアピールしているのさ~。はい、良いもの見せてくれた対価~、あっはは~」
水着魔女ラビコが説明をしてくれ、それぞれの前に設置されている箱にお金を投げ込んでいく。
なるほど、お気に入りの人にはお金をあげていいのか。
つまりこれは推し活、推しに投げ銭ってやつか。歴史は古いらしいけど新しいな、星神の国。
「え……もしかしてラビコ様……? うわ私、ラビコ様に推されてるぅ!」
アイドルっぽい女性がラビコに気が付いたらしく、ぴょんぴょん跳ねながら喜んでいる。
どこの国に行ってもラビコって知名度半端ねぇよな。
ラビコは十歳にしてルナリアの勇者パーティーに入り、人間では倒せないと言われていた蒸気モンスター相手に世界各地で戦いを挑み撃破し続け十年、その名は世界を馳せ尊敬され、見た目のインパクトの強さもあり超有名人らしいぞ。
見た目。そう、意味が分からないが、こいつ常に水着なんだよ。
まぁ単純にかなりの美人さんってのも、人気の理由だが。
その後、世界的に有名な大魔法使いラビコ様がいるぞーと騒ぎになり、俺たちは慌てて駅を出ることに。
「もう暗いな、ラビコ、泊まるところを……」
「っは~参った参った~。やっぱ~、ラビコさんってあれだけの数の芸を披露している演者がいても輝いちゃうんだね~。あ~有名人って大変~。ね~、少年~。あっはは~」
時刻は夜十九時半過ぎ、宿泊施設を探さないとだめか、と水着魔女ラビコに聞くが、自分と列車内で飲んでいたお酒に酔って俺にウザ絡みをしてくる面倒な人になっている。
くそ、ここの地理知っているのお前ぐらいなんだぞ、情報聞き出せなくてこっちが参る~、だ。
「なンだよラビ姉酔ってンのかよ。ったく、酔うとすぐにキングに甘えたがりやがって……おら、アタシの知ってるとこでいいなら近くに宿あンぞ」
くねくねと俺に絡みつくラビコを見て溜息をついた猫耳フードのクロが、駅から南のほうを指して歩き出す。
おお、さすが魔法の国セレスティアを家出して冒険者としてあちこち行っていたクロ様! 見た目はどうやってもドのつくヤンキーだけど、こういうとき頼りになる!
「ありがとう、さすがクロだ! お前言動はヤンチャだけど、芯はしっかりしているよな! こういうのギャップ萌えっていうの? クロのそういうところ、俺好きだ」
「ァアン? おまっ……こんな夜に宿行く直前に告白とか……あれだろ、体目当てだろ! いいぜぇ、アタシは受けて立つぜぇ……ラビ姉の胸揉みながら告白したことを体で満足させて後悔させてやンぜェェェェ!」
クネる水着魔女ラビコを支えながらクロにお礼を言うと、真っ赤な顔で振り返り、ビュンビュンと拳で空を切り、シャドーボクシングみたいなスタイルで俺を威嚇してくる。
いや、なんでお礼言っただけで大興奮フィーバー状態なんだよ。
体で満足させて後悔……意味が分からん。
ラビコの胸?
……ハッ……俺、酔っぱらったラビコの体を支える為の右手がラビコの水着に包まれた大きな胸に少し……触れている……?
うおおおお! 役得! 役得! そして俺は無罪!
「……あの、ラビコは私が支えますね」
……ハッ……凄まじい黒いオーラを発した鬼が俺の右手をとんでもない握力でつかんで……って、ろ、ロゼリィさんじゃないっすか……ハハ……。
「……マスター、私も突然歩けなくなりました」
「ほっほ、欲はあるのに絶対に手を出さない王にしては珍しく直接的に行動したのぅ。よいぞ、その欲、わらわが受け止めよう」
バニー娘アプティがわざとらしく無表情に俺にぶつかってきて、アインエッセリオさんが両手を広げて俺を迎え入れようとアピールしてくる。
やめて、駅前で衆目の中、これ以上はとっても面倒なことになるので。
「ベッス」
愛犬が呆れた感じで吠える。
と、とりあえず長旅でみなさんお疲れでしょうし、平和的に宿に荷物置いて、トラブル無しで温泉施設に行きましょうよ……。
「王よ、わらわも指輪が欲しい」
「え?」
猫耳フードのクロが知っていた大きめの宿にチェックインし、近くにあった温泉施設で長旅の疲れを癒す。
ペット可の温泉だったので、専用風呂で愛犬の体も丁寧に洗い、誰でもくつろげる大きなロビーのフカフカ絨毯でぐったりと横になっていたら、お風呂上がりのアインエッセリオさんが俺のお腹あたりにいきなり跨ってきた。
ちょ、おい……うっへ、アインエッセリオさん薄着でエロくてすっげぇ良い香り……。
人間の温泉施設のルールが分からない感じだったので、よし俺が責任を持って教えてやると一緒に女湯に入ろうとしたが、宿の娘ロゼリィに満面笑顔で止められたのは良い思い出。
はは、冗談っすよ。
「王の女は全員同じ指輪をしていた。わらわも王の女、人間の文化に習い、わらわも指輪が欲しい」
湯上り美人のアインエッセリオさんが必死に左手を指し、輪っかをはめる仕草をする。
さすがにいつも手に付けている長い鉤爪は外しているぞ。
そして俺に跨りながらあまり動かないで……お尻の感触がモロにその、お腹にね……。
指輪? って、ああ……みんなが付けている銀の指輪っすか……気が付いてしまいましたか、そこに。
「うう、あまり動かないで……み、みんなが付けている指輪に大きな意味はないですよ。多分おしゃれで付けているんだと……」
「……これはマスターと島で結婚の証……」
この話、超面倒なので適当に誤魔化そうとしたら、いつのまにかバニー娘アプティが側にいて、俺の頭を持ち上げ膝枕をしてきた。
おっほ、アプティさんも良い香り……。あと意味不明で余計な事言わないで。
「おかしい、おかしいぞ王よ。狐の女にはあってわらわには無い。わらわも王と山で結婚とやらがしたい」
アプティの発言に余計ヒートアップしたアインエッセリオさんがフルフル体を揺らし、謎の言葉を発し出す。
山で結婚……? え、マジでどういう意味……。
あとアインエッセリオさん、あまり薄着で上半身を揺らさないで……その、大きなお胸様がすげぇ目の前で揺れ揺れ……。
アプティは島で結婚とか言うし、アインエッセリオさんは山で結婚とか、なんの対抗意識なのか。
「うは、ね~ね~ロゼリィ、なんかヤってるよあの三人~。公共の場であそこまで激しく動くとかありえないよね~。あっはは~」
「……! ど、どういうことですか! 私のそれとないお誘いには乗ってくださらないのに……!」
「すっげ、もう完全にヤってンじゃんあの体勢。アタシも混ざろぅっと、にゃっはは!」
アインエッセリオさんの言っている意味が分からず、それでも目の前にある二つの大きな山の揺れ揺れっぷりから目が離せず血涙が出るぐらい凝視していたら、向こうから聞き慣れた女性三人の声が。
お一人すっげぇ怒っていらっしゃる……ってすっごい黒オーラが見え……
ってロゼリィさん、あなたのそれとないお誘いって、もしかして船の中での超強力睡眠魔法トラップ無差別散布、のことじゃあないっすよね?
あのお誘いに乗るのって、通常の人間には無理っすよ。
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




