六百三十三話 新たな国レディアホロウと旅の新メンバー様
異世界にもお祭りはある。
俺が今いるペルセフォス王国には『ウェントスリッター』という飛車輪レース、魔法の国セレスティアには魔力で打ち上げる光の美しさを競う『マリアテアトロ』、水の国オーズレイクの持てる技術力の高さを見せつける巨大噴水&花火イベント『ナイアシュート』等。
どれも国を挙げてのイベントのせいか、他国に自国の力を示すような物が多かった印象。
「これは星神の国レディアホロウで行われているお祭り、星神祭だね~」
水着魔女ラビコが聞いたことのない国名を言い、世界地図でこのあいだ行った水の国オーズレイクの左側を指す。
星神祭……なんと日本チックなネーミングか。
そして紹介ページに載っている写真、どう見ても日本の『着物』をイメージして作られた服が写っている。
何なんだ、この国。
「……この服は何という名前なんだ?」
よく見るとかなり大雑把な作りで、なんとなく似せて作りました、的な物ではあるか。
「確か『キモノ』、だったかな~。千年ぐらい前にその国に光が落ちて~、そこから神様が現れて~、人間の姿を成して、勇者として国を救ったんだってさ~。それ以来、その国では毎年その勇者が着ていた服、『着物』を真似た服を着て街をねり歩き、国を救ってくれた感謝を示したんだとか~」
ビンゴ。
見た目といい名前といい、日本の着物そのものだ。
しかし神だの勇者だの、話がデカすぎる。
まぁ千年前のお話とか言っているし、後の世に都合よく書き加えられた伝承かもしれんが。
でも着物……こっちの、異世界の人が想像で作れるシロモノだろうか。
「お、行くのかレディアホロウ。あの国すっげぇ楽しいンだよなぁ。歌とか演劇とかよ、確かよくファッションショーとかもやってるよな。有名な歌手とかゴロゴロいるとこでよぉ、王都のお城前にあるデケェ野外ステージに上がることを夢見てあの国に行くやついるよなぁ。キングも歌手とか目指してみたらどうだ? にゃっはは」
猫耳フードのクロが話に乗ってきたが、歌に演劇? ファッションショー? なんだ、レディアホロウって国は随分楽しそうなところだな。
あと残念ながら俺は異世界で歌手を目指していない。
「ま~、芸術の国~とか呼ばれているからね~。歌に演劇に絵画とか、それ系の文化がずば抜けて発展しているところかな~。あれ~、社長って歌えるの~? ならラビコさんと一緒にステージチャレンジしてみる~? あっはは~」
だから俺は歌わないっての。なんだよステージチャレンジって。
「知っています! よく雑誌に載っていますから! ファッションの流行発信地として有名で、世界に名を馳せるデザイナーさんとかがいて、オシャレな人がたくさんいる国です!」
宿の娘ロゼリィが興奮気味に立ち上がり、雑誌を俺の前に広げてくる。
なるほど……ロゼリィがよく読んでいる雑誌はオシャレ系の物が多いが、この国のことがよく特集されているのか。
「アタシ、歌得意だぜ。魔法の国セレスティアでは天女の歌声とか言われて褒められてよぉ、ガキのころチヤホヤされたもンだぜ。よっしゃ、アタシとキングで夫婦歌手でも目指すか、にゃっはは!」
え、ウソだろおい、クロさん歌得意なんすか。見た目の超ヤンキーとは印象が真逆。
「わ、私は歌はその……歌える、ぐらいでそれほどでは……ご、ごめんなさい! あなたのお役には立ちたいのですが、歌は、その……でも夫婦にだけはなりたいというか……」
ロゼリィが申し訳なさそうに小声になっていく。
いったい何の話だ。誰もその国に行って歌で一発当てようぜ、なんて言っていないっての。
あと夫婦とか、どっから出てきた。
「……島に行けばマスターと結婚で夫婦……」
バニー娘アプティが無表情でつぶやく。
俺たちの会話に興味無さそうにしていたが、聞こえてきた『夫婦』という単語だけ拾って強引に自分のフィールドに話を持って行ったぞ。もはや才能レベル。
つかアプティがよく言う、島で結婚って、何。
「自分が参加する気はないけど、歌とか演劇とかはちょっと見てみたいかな。ラビコ、行くとしたらどういうルートになるんだろうか」
「お、行くのかい~? 場所的には水の国オーズレイクの西になるから、オーズレイクに行ったときのルートまんまかな~。じゃあみんなで芸術観賞といきましょうかね~、あっはは~」
ラビコはルナリアの勇者パーティーとして世界を巡った経験があるからな、こういうときは頼りになるぜ。
芸術観賞、には正直それほど興味はない。
俺が気にしているのは『着物』という文化がある、ということ。
日本と何か関係しているんだろうか。
「わらわも行くぞ」
ラビコがクロと旅程の細かなルート検討を始め、宿の娘ロゼリィが嬉しそうに持っていくものを紙にリストアップ、バニー娘アプティが「結婚……」と俺のジャージの裾を無表情に握ってきたところで、一人の女性がユラっと立ち上がった。
「わらわも行く。ほっほ、だってそうだろう? わらわは王と共に覇道を歩む者。それにこの力無き者たちの群れ、わらわが行かず、誰が王を守るというのか」
俺の左隣に行儀よく座り、もっしもしパンを食べていたアインエッセリオさんが最後の一個と思われるパンを、手に付けている武器、鉄の鉤爪を器用に使い口に放り込む。
「え、その、アインエッセリオさん、もしかして芸術に興味あり、ですか?」
「無い。だが共存を目指す者として、人間の文化は理解していきたい」
立ち上がったアインエッセリオさんに俺がちょっと驚きながら聞いてみる。
そうか、共存の為の努力、か。
「……分かりました、それなら一緒に行きましょうアインエッセリオさん。楽しい物が見れるそうですよ」
俺はにっこり笑い立ち上がり、彼女の頭を撫でる。
ラビコがちょっと驚き、多少不満そうな顔をしているが、上位蒸気モンスターであるアインエッセリオさん側からの歩み寄りは大事だろ。
向こうが歩み寄ってくれたんだ、それならこちらは笑顔で応えるのみ。
何も問題はない。
──問題があるとすれば、食堂の向こうの席に座って盛り上がっている世紀末覇者軍団たちだろう。
冒険者センターガイドブック発売記念で得たラビコグッズ、ラビコの写真を使った大きなクッションカバー、それにモヒカンが入り、周りの世紀末覇者軍団が楽しそうに抱きつく、という阿鼻叫喚の漢の世界を繰り広げている。
あれは……アウトだ。
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影木とふ




