六百三十一話 戦慄のモヒカンとアインエッセリオさん登場で大抽選会様
「兄貴ー! 早く……早く来てくださいよ兄貴ー!」
そう悲痛な叫び声を発し、一人の男が宿ジゼリィ=アゼリィに駆け込んでくる。
肩で息をし、額からは滝のような汗を流し叫び、その男は一人の少年の前で力尽き倒れる。
「兄貴……早く……」
「どうしたモヒカンー!」
突如現れた瀕死の男に、宿の食堂が戦慄に包まれる。
俺は叫び、お前どこの荒廃した世界の漫画から飛び出して来たんだよ、というトゲ付き肩アーマーやら防御力にはまったく影響していない飾りの鎖やらを装備しているゴツイ男、世紀末覇者軍団の一人、通称モヒカンを抱え起こす。
ざっと確認するが、ケガはしていない。メッチャもち肌。
足の筋肉がプルプルと震え、相当無理をしてここまで走って来たことが分かる。
どうしたんだ一体、普段から運動不足マンであるお前をここまで追い詰めた奴は誰なんだ……!
「兄貴……ちゅ、ちゅう……」
モヒカンは俺の耳元で熱い吐息を漏らし相手の名前を……ちゅう? 何キモいこと言ってんだこいつ。
自慢のモヒカン引き千切っぞ。
「兄貴早く……抽選会がァー!」
……抽選会? 抽選会……はて。
「もうすぐ冒険者センターでガイドブック発売記念の公式グッズ大抽選会が開かれるッス!」
な……なん、だ、と……!
「……もう話に加わっていい~?」
モヒカンの鬼気迫る様子に杖を持ち身構えていた水着魔女ラビコだったが、どうやら事件性が無さそうだと判断し、肩の力を抜き杖を置き、面倒そうに俺を見てくる。
「兄貴、このあと十時からサプライズイベント開始ッス……。買った本の数が抽選会の参加回数になるんで、早く本担いで冒険者センターでエントリーを……。ラビコ姉さんのエロいポスターとかあったッス……!」
「マジかよ! 聞いてねぇぞそんな極旨イベント! くそ……アプティ! 緊急事態だ、ガイドブック十冊を回収、速やかに冒険者センターに運搬……」
「──ほっほ、王よ、物を運ぶのはプロに任せるべきだと思うぞ?」
パーティーメンバーに配った本を回収して積み重ねていたら、結構重い十冊の本の塊がひょいっと持ち上げられる。
長い三本の鉤爪を器用に使い本を持ち上げた一人の女性、眠そうな目で俺をじーっと見てくるが……ってこの女性は……。
「アインエッセリオさん……?」
「そう、王の覇道を共に歩むのは、このわらわ。そうであろう?」
彼女はアインエッセリオさん。見た目はベテラン冒険者っぽいが、その正体は上位蒸気モンスター。
敵意は無く、以前人間との共存の道を望み俺に近付いてきた。
その後色々あってその身体能力の高さを利用し『宅配便』をやってもらい、稼いだお金で魔晶石を購入。それを届けるために、一度仲間の元に帰っていたはずだが……。
「……マスターのご指名は私、です……」
自分が任されたはずの仕事を横取りされ怒ったのか、バニー娘アプティが無表情ながらもムスっとした感じで本を奪い取る。
「兄貴……早く……!」
モヒカンが食堂内の時計を指し悲痛の叫び。
くそ、ちょっと登場人物が多すぎだろ!
突然現れたアインエッセリオさんにラビコたちも驚いているが……いや、今の優先度はガイドブック公式グッズ……!
多分表紙に使われているエロい感じのラビコの写真を使ったエログッズが、たんまりとあるはず。それは絶対に逃がせない……!
「行くぞモヒカン! 死ぬ気で走れ!」
「えええええ、兄貴俺もう限界ッスよぉ……!」
なんだかざわつく食堂を収めるには時間がかかりそうだったので、俺はそれを放棄し、本の束をアプティから受け取り全力ダッシュ開始。
運動不足モヒカンがマジで嫌そうに抗議してくるが、そういうのは後で聞く。今は走れ!
「ちょ~っ! なんなのこれ~、その女どっから呼んだのさ~! 公式グッズとか……それって私の写真使ったやつでしょ~? だから本人がここにいるってのに、どうして写真のほうばっか欲しがるのさ~!」
水着魔女ラビコが何やら怒って叫んでいるが、アインエッセリオさんに関しては俺は一切関与していない。
一回みんなの元に帰って、余裕が出来たらまた来てくれとは言ったと思うが、今日だとは指定していないっての。
「王よ、どうしてこんな狐の女に頼るのだ? わらわの方が強さも美しさも上、テクニックだって……」
「……マスターとは島で結婚とご指名が入っています……」
「はぁ、はぁ……ま、待ってくださいー」
「おぅ何だよこの状況、やっぱキングと一緒にいると予想もつかないことが起きて毎日最高だぜぇ。にゃっはは!」
アインエッセリオさんとアプティが睨み合いながら走り、宿の娘ロゼリィと猫耳フードのクロも走って追いかけて来る。
あの皆さん、付いてこなくていいっすよ。
これは俺がモヒカンとの熱い友情を確かめる突発イベントなんで……。
──冒険者センターで午前十時から行われたイベントには、多くの人が集まった。
景品には宿ジゼリィ=アゼリィのお食事券や入浴券、水着魔女ラビコが印刷されたポスターやタオル、さらにクッションカバーなどがあり、後半のラビコグッズに反応した男たちの熱気は最高潮。
俺は十回のチャンスに命を燃やし、クッションカバーに全ての権利をブッ込んだ。
だってあれ、どう見ても抱き枕カバーになるんだもん。
渡さねぇ……絶対に渡さねぇぞ……エロいラビコは俺の物なんだよぉぉぉぉ!
「……残念だったッスね、兄貴……」
お昼過ぎ、ラビコグッズ大抽選会はトラブルなく終わった。
俺は暗い顔でうつむき、フラフラとした足取りで帰路へつく。
そんな俺を心配そうに世紀末覇者軍団のモヒカンが寄り添ってくれるが、その口元はだらしなく緩み、嬉しさを隠せないでいる。
──そう、こいつの手には、ラビコのエロい写真が使われた特大サイズ抱き枕カバーが握られているのだ──
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影木とふ




