六百三十話 アプティの心配&ご指名とガイドブック配布様
「ずっりぃ、アタシだけ仲間外れでデートとかありえねぇ! おかしいおかしいおかしい!」
朝八時過ぎ、やっと冒険者センターのガイドブック受付カウンターが開き、俺は予約しておいた十冊のガイドブックを受け取る。
かなり分厚い本。十冊はちょっと重いが、表紙の水着魔女ラビコの写真が超エロいので、俺は満面笑顔で担いで帰る。
さすがに女性陣に持ってもらうのも悪いしな。
つかラビコ、なんか知らんが怒ってるし。
なんとか宿ジゼリィ=アゼリィに辿り着き、食堂のいつもの席に座ろうとしたら、冒頭のセリフ叫びながら女性が突撃してくるのが見えた。
猫耳フードをブンブン振り回し、全身を使って抗議しながらの体当たり。
ちょ、おい、これは俺の夢を叶える大事な本なんだぞ……!
「仲間外れっていうか~、起きてこなかったじゃん」
「お部屋まで行ったのですが、ゆすっても何しても起きて下さらなかったので……」
俺の両隣に座った水着魔女ラビコ、宿の娘ロゼリィが抗議してくる女性クロに苦言。
「え? 起こしに来たのか? 知らねぇ……キングに抱きつかれる夢見てた……」
猫耳フードのクロが誘われた事実を知り驚くが、どうやら夢の中から脱出出来なかったらしい。
「…………」
バニー娘アプティが無言無表情で俺の正面に座り、お気に入りの紅茶セットを注文。
そういやロゼリィが言っていたが、アプティが俺が出て行ったと教えてくれたとか。
アプティが俺以外の人に応援を求めるとか珍しいよな。全員呼ぼうとするとか、一体アプティに何があったのか。
「…………私だけではあの番犬を抑えられません……ですが……違いました。申し訳ありません……」
アプティが俺の視線に気付き、ボソっと小さい声で言う。
あー、番犬ってケルベロスのことか。
そういや最近深夜にアイツ呼んで散歩をしているけど……こないだ呼んだ時、アプティが近くで見ていたとかなんとか言っていたような。
そして彼女のお兄さんである銀の妖狐、あいつにスノウバードクイーン討伐の時にケルベロスとはどういう関係なの? 的に問い詰められたっけ。
つまりアプティは俺がケルベロスに何かされていないか心配で、でも一人では戦力的に対処出来ないと踏んで援軍を呼んだ、と。
どうやら緊急事態だと思われたらしいな。
「心配かけて悪かった、アプティ。部屋を出るとき一声かけるべきだったよ。何かあったら必ず呼ぶから、そう不安な顔しないでくれ」
「……はい、マスターがしたくなったら必ず私を呼ぶ……ご指名、入りました……」
俺が謝りながらアプティの頭を撫でると、彼女がぐいっと身体を伸ばし、顔を俺に近付けペロンと俺の頬を無表情で舐める。
わ、ちょ……そういやケルベロスに頬舐められたとき、アプティも舐めていいですか? とか言ってきたが……今みんなが見ている前でやらんくても……。
あと、俺がしたくなったら呼ぶだのご指名入りましただの、俺が言ったセリフちゃんと理解してる?
「ちょ~! なになに~、なんでアプティだけ可愛いがるのさ~! ご指名とか、お店か~!」
俺たちのやり取りをじーっと見ていた水着魔女ラビコが激怒。ほーらご指名に超反応。
「あァ? おいキング、アタシたち放っておいてそういう店行ったってのか? 確かにアタシたちじゃ経験不足、ってかヤったことねぇからキング好みのテクニックは無いけどよ、逆に何も知らないアタシたちに一から好みのテクを教え込むっつー楽しみがあンだろぉ?」
猫耳フードのクロさんも、ザ・ヤンキー口調で責めてくる。セリフ後半の意味は不明。
いや、なんすかそういうお店って……俺いまだにエロ本屋すら突撃出来ていないってのに、何段の階段すっ飛ばすことになるんすか……。
そして俺、未成年だし……。
「わ、私もご指名してくださっていいですよ……! ご、ご期待に応えられるように、が、頑張ります……!」
宿の娘ロゼリィが顔を真っ赤にして鼻息荒くフンフン興奮し始めたが、だからご指名とか俺何も言っていないっす。
「あーもう、とにかく誰にも何も言わずに夜中出かけたのは悪かったよ。目的は見えている通り、これ。以前クラリオさんが来てくれたときに提案した冒険者センターガイドブック正式版、それが今日発売だったから待ちきれずにだいぶ早めに宿を出たんだよ」
荒ぶる女性陣の前に予約して買った十冊の分厚い本、冒険者センターガイドブック正式版をドンと置く。
クラリオさんってのは冒険者センター創設者の子孫、現代表キースレイ=クラットさんの娘さんで、ラビコと同じく元ルナリアの勇者パーティーのお一人。
この間、お休みを使ってわざわざ大陸の端っこにあるこのソルートンまで来てくれ、その時に俺が今の冒険者に足りないのは情報なのではと伝え、お試しで無料の初心者向けガイドブックを作ってみたら、これが大好評。
世界的に知名度のある大魔法使いラビコが表紙なのもあるが、仕入れる度に行列が出来るほど人気で、これを見たクラリオさんが、それでは本格的な物を作ってみるよ、となり今日やっと販売開始、というわけだ。
「一人一冊ありがとうございま~す。さっすが我らがパーティーリーダー、全員分用意してくれるとはね~。あっはは~」
「よろしいのですか? うわー嬉しいです」
「おう、わりぃなキング。今度体でお礼すっからよ、にゃっはは!」
「…………?」
ラビコが本の山から一冊ずつ抜き取りメンバー全員に配る。
あ……俺の語りかけ用、添い寝用、枕下用、嗅ぐ用のガイドブックが……ってまぁいいか。これからも俺のワガママで世界のあちこちに行くだろうし、その時に情報は全員が共有しているほうが良いに決まっている。
バニー娘アプティがガイドブックを受け取り、不思議そうに俺を凝視。
アプティの正体って俺とラビコだけの内緒だけど蒸気モンスター、しかも上位蒸気モンスターとかいう存在で、並大抵のモンスターなんて敵じゃあないからガイドブックなんていらないような。
「おぉ、さっすが情報提供者がラビ姉、さらにクラリオ本人が監修しているだけあって結構どころかかなりの完成度だなァ。世界のほとんどの国の情報が書いてあるし、危険地域、過去の強敵との遭遇頻度マップなンかもあってよぉ、これ中級どころか上級者でも余裕で欲しがる情報量じゃねぇ? にゃっはは」
猫耳フードのクロがさっそくガイドブックを開き読み始める。
クロも生まれ故郷である魔法の国セレスティアを家出、じゃなくて公式には武者修行の旅だっけ、それであっちこち行っているベテラン冒険者なのだが、水着魔女ラビコは十歳でソルートンを出て五年間ルナリアの勇者パーティーで世界を巡り、パーティー解散以降も現在にいたるまで五年間、つまり十年間蒸気モンスター相手に最前線で戦い生き抜いた英雄。
そのラビコと、クラリオさん、彼女も五年間ルナリアの勇者パーティーに同行、解散以降は冒険者センター本部に帰り、世界の冒険者、モンスターのデータを収集していたんだ、この二人が組んで発行したこのガイドブックは、本当に世界を変える一冊になると思う。
ネットなどの通信が無いこの異世界。人から人への伝言ゲームでは、必ずどこかで情報が狂うし不正確すぎる。
冒険者は一歩間違えば命を落とす、とても危険な職業。
だが事前に地域の情報を持っていれば、事前に危険なモンスターの情報を持っていれば、結果は変わる。
そしてこれは冒険者センター公式の物。情報提供もラビコにクラリオさんだし、信頼度は高いだろう。
「いや~大変だったよ~、この本作るの~。ほらほら少年~、アプティばっか可愛がっていないで、頑張ったラビコさんに労いの行動をしてもいいんじゃないかな~? あっはは~」
ラビコがニヤニヤしながらアピールをしてくる。
「うん、まぁ……そうだな。お疲れ、ラビコ」
「おほ~そうそう、少年は素直が一番だよ~。あっはは~」
頑張ってくれたのは事実だしな、とりあえずラビコの頭を撫でるが……つかこの本のほとんどの情報はラビコ提供なんだから、お前はこのガイドブックいらねぇだろ。
返してくれねぇ? 俺の添い寝用ガイドブック。
お読みいただきありがとうございます。
そして本日 11/25 コミカライズ版①巻が発売となりました!
ぜひとも本屋さんにて、表紙のオレンジ色っぷりをご覧ください。
特典付きの物もありますので、欲しい特典が付く本屋さんで
お買い上げいただけると幸いです
帯裏には書籍の最新情報も出ております
コミカライズ版の後書き、プロフィールには自分が描いた
ベス も載っていますよ(?)
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【以下定型文】
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影木とふ




