六百二十九話 冒険者センターガイドブック正式版発売様
「おはようベス、散歩に行こう」
「……ベッス……ベスゥ……」
朝三時過ぎ、ベッドで丸くなり寝ていた愛犬を優しく起こす。
お散歩が大好きな我が愛犬ベスなのだが、窓の外を一瞥し、まだ夜なのを理解したようでちょっと不機嫌そうにむっくり起き上がる。
「…………」
俺の横にはなぜかバニー娘アプティも寝ているが、起こさないように静かにベッドを離れる。
いや別に朝チュンじゃあないぞ。
誤解のないように一応弁明するが、俺は愛犬と一緒に部屋に入り鍵をしっかり閉めてから寝ている。
なのに夜中の間、いつの間にかアプティがその鍵を突破し、なぜか俺のベッドに潜り込んでくるのだ。理由は不明。
まぁ別に、良い香りがするからいいんだけども。
もちろん手は出していない。
俺はヘタレ……いや、紳士だからな。
「さすがにまだ暗いか」
物音を立てないように宿ジゼリィ=アゼリィを出る。
愛犬ベスが大きなあくびをし、なんでこんな夜中に散歩なのかと疑問の目を俺に向けてくるが、おいおい今日が何の日かお忘れか、と。
──ソルートン冒険者センター。
港街ソルートンの中心部にある大きな建物。冒険者がお仕事と情報を得るために通う場所で、基本二十四時間開いている。
さすがに朝四時過ぎ、受付は閉じていて、開いているのは中央ホールと食堂ぐらいか。
何人かの冒険者が床に横になり寝ていたり、食堂のほうでは安酒宴会の途中で寝たであろう男たちが何人か机に突っ伏している。
いくつもの屍……熟睡している冒険者たちを乗り越え、俺はお目当ての席へと急ぐ。
「これこれ。この日をどれだけ待ち望んだことか……」
食堂の壁には近くのお店の新商品だったり、今後開かれるイベントの宣伝ポスター等が多く貼られていて、これを見ているだけでも結構時間をつぶせる。
そのうちの一枚、他のとは違い頑丈そうな額に入れられた大きいポスターの前の席にベスを抱え座り、ポケットに入っているチケットを握りしめる。
「冒険者センターガイドブック正式版、ついに俺の手元に来るのか……」
でかいポスターにはとても魅力的な女性が採用され、その水着からこぼれおちそうな大きなお胸様が大変美しい角度で写っている。
まぁモデルは俺のパーティーメンバーである大魔法使い、水着魔女ラビコなのだが、これがまぁ最高にエロい感じで少年の心にぐっと刺さる表紙なのだ。
正直中身はどうでもいい。表紙だけくれ。
先週ぐらいから予約が始まり宣伝のポスターが貼られたのだが、かなりの頻度で盗難にあうぐらいの人気っぷり。だめだぞ、犯罪はいかん。でも気持ちは少し、いやすっっげぇ分かる。
「ああああエッッッロー……! 早く……早くラビコのエロい写真が表紙の本が欲し……」
「……ったく、こんな朝からコソコソとどこに行ったかと思えば~……なにがエッロ~、だ」
しまった、あまりの興奮で心の声が口から出てしまった……と思ったら、エロいポスターの横にポスターと同じようなエロい格好をした女性が立っている。
「げぇラビコ……! なぜここに……お前いつも昼まで起きてこないじゃねぇか……」
ムスーっとした顔で俺の目の前に現れたのは、水着にロングコートとかいう奇抜なファッションをした女性、ラビコ。
「夜中に社長がこそこそ出かけたからさ~、ま~た懲りずにエロ本屋にでも行ったのかと思って~。でもエロ本屋スルーして冒険者センターに向かったから、あれもしかして早朝の現地集合系クエストでも真面目に受けるの~と褒めてやろうとしたらポスターに向かって突如興奮し始めるとかどういうこと~?」
ラビコが俺の頭をポンポン叩きながらお説教モード。
くそ、なんで出かけたのがバレたんだ。あんなにこっそり行動したってのに。
「ね~、ここにその本人がいるんだよ~? どうして私には興奮しないの~? ほら~、さっきみたくエッロ~とか言いながら抱きついてくればいいじゃ~ん。あっはは~」
お説教モードから俺で遊ぼうモードに移行。ラビコがニヤニヤと笑い、至近距離でちょっとエロいポーズをしてくる。
っの野郎……本当に抱きついてやろうか……。
とりあえずうちの最強の愛犬がいれば、ラビコの怒りの雷連打も弾けるだろ、ってベスさん調理場から流れてくる魚系のダシの香りに夢中じゃないすか。これはだめだ。
「ちぇっ、好みの女性で興奮して何が悪い。いや、声に出すのはダメか……ってそうじゃなくて、これだよこれ、今日はこれを受け取りに来たんだよ」
俺はジャージのポケットから予約のチケットを出す。
「冒険者センターガイドブック十冊支払い済み……って一人で何冊買ってんのさ~! そんなお金があるなら、そのエロいと思っている好みの女性……とやらをデートにでも誘えばいいじゃないか~!」
予約の時、前払いだと複数冊買えますとか言われたから、俺は迷わずお一人様で買える最大数の十冊を注文。その場で千G、日本感覚十万円を支払った。
保存用、観賞用、撫でる用、頬ずり用、吸う用、嗅ぐ用、枕下用、添い寝用、語りかけ用、そして読む用、これだけで十万円は安い。
「デート? あのなラビコ、俺の目的はこの世界の全てを見ることなんだよ。そしてこれはその世界のことが詳しく書かれたガイドブック。どうしても欲しい、夢を叶えるための投資に、金額の大小は関係ない」
「はぁ~? さっき間抜けな顔でエッロ~とか興奮してただろ~? 完全に表紙の私目当てじゃんか~! だったら本人にアタックして来いっつってんの~!」
ち、真面目なトーンで言えば誤魔化せるかと思ったが、ラビコには通用しないか。こいつ、記憶力あるし、とんでもなく頭の回転早いんだよな。
つか俺、なんでラビコに怒られてんの?
「……マスター、遅くなりました……」
「はぁ、はぁ……よかった、見つかったのですね」
よく分からんけど怒っているラビコが俺の横に座り、ご機嫌取りに冒険者センター名物薄い紅茶を頼んでいたら、バニー娘アプティと宿の娘ロゼリィが現れた。
え、朝方の四時過ぎですよ。どうしたんですか、みなさん。
アプティはいつものバニー姿だが、ロゼリィは水色のパーカーにゆったり系の七分丈パンツ。寝巻かな……なんかエロい。
「アプティが、あなたが思いつめた顔で出て行ったと教えてくれまして、みんなで探していたんです」
ロゼリィが安心した顔で俺の横に座り、ジャージの裾をつかんでくる。
ってアプティか、やっぱあのとき起きていたのか。
ん? あれれ? うわぁ……パーカーの胸元がちょっと開いていて、ロゼリィのとてもとても大きなお胸様の谷間が見え隠れ。
そうか、ロゼリィ……ノーブラ……!
「だからなんで水着で半分以上見えている私の胸じゃなくてポスターだったり、そっちのちらっとしか見えないロゼリィのほうに大興奮するのさ~! おかしいだろ~!」
「え、大興奮……ですか? す、少しなら……いいですよ……」
「……マスター、私のも半分以上見えています……」
え、俺ポーカーフェイスで紳士のポーズでこっそりロゼリィの胸元を一点凝視していたのに、なんで速攻バレんの。
あ、くそ……向こうで安酒で酔って潰れていた男たちが騒ぎに気付いてヌラァと起き上がり、俺たちの揉め事を肴に爆笑しながら飲み始めやがった。ゾンビか何かなのか、アイツ等。
そして朝の四時過ぎに、なんで俺は冒険者センターの食堂で女性陣に攻められているのか。
「どっちもそっちもあっちも無ぇ、俺はここにエロ本を買いに……!」
あ、本心言っちゃった。
「……社長~? いま何て~?」
「冒険者センターでその……え、エッチな本って売っているんですか?」
「……マスター、買えるまでまだ四時間近くあります、よ」
三人の視線に耐え、俺は無言でうつむき、寝たふりを決め込む。
──この世界の全てのことが書かれた初めてのガイドブック、さぁ異世界冒険譚の始まりだ──
俺は冷や汗うつぶせ状態で四時間をやりすごした。
皆さまお久しぶりでございます!
なんとコミカライズ版 一巻が明日 11 / 25 発売!
どうぞよろしくお願いいたします。
帯ウラには犬の最新情報も載っています!
そしてコミカライズ版には、自分(原作者
が描いた ベス も載っていたりします・・・(?)
どうぞお買い上げを・・・!
そして、犬、17章 開幕 となります!
色々個人的事情がありまして、少しスローペース更新に
なることと思われます
ですが、いつも通り17章完結まではしっかり書きますので
ご安心くだされ
(スケジュール的に、2月後半ぐらいに17章 完結予定
書籍 一巻 発売中!
買ってね (ハート (?
++++++++++++++
【以下定型文】
作品を読んで興味を持ってくれた読者様! よろしければ下にある
『☆☆☆☆☆』のポイントをよろしくお願いいたします。
応援する意味でブックマーク登録やご感想、レビュー等いただけたらとても嬉しいです!
影木とふ




