六百十五話 冒険者センターからの依頼 3 山キャンプ気分で大怪鳥様
「うわぁ天気が良いですねー。あ、あそこの宿場でよくご飯食べましたよね」
次の日早朝、俺たちはソルートンに新しく出来た魔晶列車の駅から列車に乗り出発。
一駅先で降り、現在は馬車に乗り換え北にある山の中へと向かっている。
宿の娘ロゼリィが笑顔で見覚えのある宿場を指しているが、おお、あれは馬車でソルートンからフォレステイに行くとき、お昼に俺たちが立ち寄る定番のお店じゃないか。
懐かしいなぁ。以前は馬車で数時間かけて来ていたが、今じゃ魔晶列車で数十分か。
「どうする~? いつもの豆のスープでも食べていく~? あっはは~」
水着魔女ラビコがニヤニヤと俺を見てくるが、悪いが今回の目的は薄いお湯みたいな豆のスープじゃあないんだ。
「宿から持ってきた弁当とか保存食もあるしよ、わざわざ薄いスープ飲まなくてもいいンじゃね?」
猫耳フードのクロが自分のリュックにパンパンに入っている中身を指す。
そう、ソルートンを出る時、宿の神の料理人であるイケメンボイス兄さんに頼み、お弁当やら保存が効く食材を作ってもらったのだ。
俺たちの目的地は、港街ソルートンから北側に位置する山の中。
ラビコがルナリアの勇者パーティー時代、例のスノウバードクイーンを目撃したという場所に向かっている。
魔晶列車が出来たお陰で、ソルートンの隣の駅で降りてそこから馬車で数時間で行ける範囲らしい。
「……マスター、紅茶葉もたくさん持ってきました……言っていただければいつでもお作りします……」
バニー娘アプティが紅茶葉とティーセットにアップルパイが詰まった自分のリュックに無表情に頬ずりをし、中から漏れる紅茶葉の香りに鼻をスンスンさせている。
紅茶好きのアプティからしたら、夢の詰まったリュックなんだろうな。無表情ながらも幸せそうな顔しているし。
「ベッス!」
「おお、大丈夫だぞベス。お前の好物のリンゴもちゃんと持ってきてるって」
我が愛犬も元気に俺のリュックに鼻をスンスンさせてきた。今はだめだぞ、あとであげるからな。
まぁ食材は分散してかなりの量を持ってきたし、お水は愛犬に安全な湧水を探してもらえば大丈夫。
現地で野営して何日も粘るってわけではなく、とりあえず調査に来てみた、ぐらいだし、夜にはこの宿場に戻ってくればいいだろう。
モンスターとかいるだろうが、うちのパーティーメンバーを突破出来るような強敵はいないだろうし。
「お昼にしよ~」
馬車で山道を登ること数時間、いい感じの広場と愛犬ベス公認の湧水ポイントを見つけたのでお昼ごはんタイム。
太陽の高さ的にもちょうどお昼十二時ぐらいと思われる。
「しかし、こんな山奥に馬車が通れるだけの道があるとはな」
てっきり麓まで馬車で、あとは徒歩でガチ山登りかと思っていたぞ。
「この山の向こうに小さな村もあるし~大きめの採石場なんかもあるから~馬車が通れる道が無いと大変~あっはは~」
水着魔女ラビコが笑いながら馬を撫で労をねぎらう。
ほう、採石場。そりゃあ馬車が通れないとキツイわな。
ちなみに馬車はレンタルで、御者はラビコとクロが交代でやってくれている。さすがに二人共高レベル冒険者だけあって馬の扱いもお手の物。
何も言わず、ささっとこなすその姿がちょっと格好いい。
「宿でカット済のお野菜とベーコンを鍋で炒めちゃいます。アプティは紅茶の準備をお願いしますね」
宿の娘ロゼリィがリュックから食材を出し、テキパキと準備を進めていく。
猫耳フードのクロが湧水ポイントから水を汲んできてくれ、バニー娘アプティが無言で火をおこし、深鍋で紅茶用のお湯を沸かし始める。
俺は小石や枝などを取り除いた場所にシートを敷き、四方に重りの石を置く。木のお皿やパンなどを人数分配置、そこにロゼリィが作ってくれたベーコン野菜炒めを乗せると、アプティが残像を残しながら高速で紅茶を配ってくれる。
アプティさん、そんなに早く動かなくても……。
「いただきま~す」
全員で食材に感謝をし、お昼ごはんをいただく。
「うん、美味しいな。そういえば最近、ロゼリィは兄さんに料理習っているもんなぁ」
野菜炒めを一口、うむ、いい感じの味付け。野菜の下ごしらえもロゼリィがやってくれたのだが、食べやすいサイズにカットされていたりと手間がかかっている。
最近、厨房で宿の神の料理人であるイケメンボイス兄さんに指導を受けているロゼリィの姿をよく見る。ロゼリィは元から料理が出来るから、そこにイケボ兄さんのスキルが足されたらすごいことになりそう。
「ふふ、将来を見据えて色々覚えている最中です! あなたにはずっと宿にいて欲しいですし」
ロゼリィが鼻息荒く腰に手を当てポーズを取る。
「え、俺他のところに行くつもりないし、ずっとあの宿に住む予定だけど」
「……! そ、それは、その、あの……つまり今の発言は私への告白ということです……よね?」
つか、宿ジゼリィ=アゼリィにお金出して俺の部屋作ったし。ずっと住むつもりでそうしたんだが……え、告白? 何が?
ロゼリィが頬を赤らめジリジリと俺に近付いてくる。
「……マスター、紅茶をどうぞ……私が入れました……飲んだら結婚……」
それを見たバニー娘アプティが瞬時に俺の横に来て紅茶を勧めてくるが、飲んだら結婚って何?
そしてアプティがいい感じの石を拾い、もの凄い勢いでビュンと後方の森の中に投げつける。
ビ、ビックリした……てっきり飲まないと石で殴られるかと……。
「ニャハハ、アタシもジゼリィ=アゼリィにずっといるって決まっているンだぜぇ。五匹発見っと、残りはラビ姉の分っと」
猫耳フードのクロもすっくと立ち上がり腰から二丁の魔晶銃をセット。空に狙いを定め五発の魔法弾を放つ。
な、銃で脅すのは……って何だ? 空に何かいるのか?
「ほい、いい匂いに誘われた獣たち~まとめてド~ン! あっはは~」
ラビコも上空にお得意の雷魔法を放つ。
見ると、森のほうには倒れた巨大熊、空には大きな鳥系のモンスターが多数近寄ってきていたようだ。
さすが、みなさん初心者パーティーとはレベルが違いますな……。
「ご飯時は注意しないと~私たちがご飯にされちゃう~、あっはは~」
ラビコに言われ気付くが、そうだよな、ここは異世界の山の中。キャンプ気分だとダメだな、命の危険があるし。
「……しかし……熊も巨大鳥も同じ方向から来たな」
「おっと追加の……って超でっけぇのきたぞ? って……ラビ姉、もしかしてあれじゃあねぇのか?」
巨大熊、数十匹近い大きな鳥、両方とも同じ方向から来たが、ただの偶然か? と考えていたら、猫耳フードのクロが空を見上げ驚きの声を上げる。
「うっは~……数年に一度レベルの遭遇率なのに一発で引き当てるとか、うちの社長ってどうなってるの~? おっそろし~あっはは~」
水着魔女ラビコが苦笑いしながら杖を構える。
引き当てた? もしかして……
「はい皆さんお待ちかね~、あれが数年に一度しかお見かけしないという、青く輝く羽自体に冷気を纏い、その気品ある姿が冷気の女王のようと噂される幻の大怪鳥~スノウバードクイーンさ~あっはは~」
……マジか。
翼を広げると二十メートルを超え、空を舞うその姿はまさに怪鳥。怪しく青く光る羽は確かに美しい……が、それより先に単純にでかいから恐怖が来るぞ。ロックベアキングですら五メートルだったのに、二十って……
「ベッス」
愛犬が吼える。これは警戒音。
確かスノウバードクイーンはうちのパーティーメンバーなら余裕のはず。一応『目』で魔力を測るが、ロックベアキングより少し上ぐらい。それなのに愛犬が吼えた……?
いや、ベスはスノウバードクイーンを見ていない。
ベスの視線は、スノウバードクイーンの後方──
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影木とふ




