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六十一話 いつか伝えるロゼリィの大切な言葉様


「はぁ……」



 ロゼリィはお昼のランチセットを食べに来る、同年代の女性を見ながら深い溜息をついた。


 以前はごつい男の人しか来なかったのであまり気にしていなかったのだが、最近は女性客が一気に増え、どうしてもその光景が目に入ってしまう。



「はい、あーん。おいしい?」

「うん、おいしいよ。あはは」



 それぞれ違うデザートを頼み、それを二人で楽しそうに分け合って食べあう若い男女。


 それも一組や二組ではない。そんな光景を朝から晩まで、何組ものカップルの幸せそうな姿を見る毎日。



「この街にはこんなにもカップルの方がいたなんて……不勉強でした」


 今までこの街にはごつい鎧や、個性的なモヒカンみたいな髪型の男の人しかいないのかと思っていた。


 それがあの人がメニューを改善した途端、若い男女のお客さんが一気に増えた。


 そしてお店に来る女性の着ている服がなんと煌びやかで、肌の露出の多いことか。



「ほとんど裸みたいです……ああ、あれってスカートの意味あるんですか? もう無いも同然……」


 股下数センチの下着が見えることが前提のミニスカートを履いた女性。


 周囲の男性の視線が一気に集まり、その女性がしゃがむたびに、モヒカンの方々が歓声を上げる。


 すごい……見られているのに、それを楽しむような振る舞い。同じ女性なのに私とは真逆、見せて楽しむ、あんな考え方があるのですか……。


「私は……無理です無理です! あんな格好」




 そんな私でも過去に際どい服を着たことはある。


 最初はミニスカート。膝上ぐらいの普通の物だが、私にはとてつもない冒険だった。


 普段変えることの無い髪形も変えてみた。



 二回目は水着。水着なんて子供のとき以来だった。ほとんど裸みたいな水着を着た。最初は顔から火が出るくらい恥ずかしかったが、だんだん慣れ、大丈夫になった。


「そう、肌をさらしていても怖くはなかった。私の横には……あの人がいたから」




 あの人はある日突然宿に現れた。



 犬を引き連れ、すごく目立つオレンジの変わった服。普段のごつくて怖い見た目の男性ではなく、とても犬を大事に扱う優しい笑顔の男性。


 いつもならこちらから話しかけるなんて出来ない私が、普通に話しかけていた。


 その人も笑顔で応じてくれ、嬉しかった。いきなり手を握られたのはびっくりしたが、初対面なのに嫌ではなかった。


 悪意や下心ではなく、連れて来た犬の料金がかからないことに喜んだ故の行動だとすぐに分かりましたし。


 あの人はこの宿が気に入ってくれたらしく、それからずっと泊まってくれている。


 買い出しのメロンを運んでいて倒れそうになった私をさっと助けてくれたり、一緒に行ったお風呂で新しい香りのシャンプーを褒めてくれたり、頑張って作った朝食セットやシチューをおいしそうに食べてくれたり。


 いつも私は厨房の端っこで一人でご飯を食べていたのに、混雑する食堂に出てあの人の横で食べるようになった。


 ご飯とかいつも仕事の合間に無表情で食べるもので、おいしいとか考えたことが無かったが、あの人の横で食べるとご飯はとてもおいしく、自然と笑顔で食べていた。


 あの人が来てから私の毎日は変わった。


 世界とはこんなにも明るく、楽しいものだったのか。



 毎日のように怖い人にからかわれ、絡まれ、下ばかり見ていた私の世界。


 死ぬまでこんな毎日を繰り返すのかといつも泣いていた。

 



「あー腹減ったー」



 あの人が食堂に来た。


 もう準備はしてある、セットメニューに紅茶。最初の一杯はぬるめにしてある。ぐいっと飲んで、二杯目から香りを楽しむように飲むのが好きみたい。



「ロゼリィー紅茶くれー」


 来ました。


 ティーカップにあらかじめ紅茶を入れておき、蓋をして少し冷ましておきました。


「ふふ、ぬるいですよ?」


「おお、それそれ。最初はぬるいのでいいんだ」


 あの人は紅茶を受け取り、ぐいっと飲み干す。私はポットを用意し、二杯目の準備です。


「おかわり……お、ありがとう、ロゼリィ。昼食べた? まだなら一緒に食おうぜ」



 待っていました、その言葉。


 毎日当たり前のように誘ってくれる。


 一緒に食べよう、それは私にとって魔法の言葉。


 私の泣いてばかりいた毎日を笑顔に変えてくれる言葉。


 キャンプ場では上手く言えなくてはぐらかされてしまったけど、いつか言うんだ。


 この気持ちをきちんと伝えるんだ。



 感謝と……私の想い。



 

 いつもありがとう、私はあなたが大好きです。














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