五十九話 空飛ぶ車輪の姫様 6
「はは! 紅鮫ごときに苦戦とか、落ちたものだな。最強の名が泣くぞサーズ姫」
「貴様等のような規格外と比べないで頂きたいな。国を守るには十分な戦力だ」
二人はいまだに睨み合っている。
俺とベスは震えながら抱き合い、女の戦いというものが終わるのを待った。
上空で大きな爆発。
「……はぁっはぁっ……ち。すまないが、まだ我がブランネルジュ隊が作戦行動中でな。力を貸せ、気まぐれ魔女」
遥か上の雲の中ではいまだに戦闘が続いているようだ。
「いいだろう、たまには働かないと小言を言われるみたいだしな」
ラビコは背中のリュックから新しいキャベツを取り出し、杖の先端の小さくなった物と取り替えた。
お姫様がチラと俺を見た。
「君はどうする。力を貸してくれるというのなら助かるが」
え、俺なんも出来ないっすよ。ああ、ベスか。
「すいません、ベスはさすがに限界です」
「ふむ。その犬には本当に助けられた、礼を言う。犬も含めてはいたが、私が言ったのは君の力だ」
俺? 俺は街の人です。一番似合う街の住民のポジションに帰りたいです。
「いや、さっきのでお分かりかと思いますが……俺、無力です」
俺の能力は無敵のベスの飼い主。それだけだ。
「はは、冗談を言うな。あの視界が限定された濃い靄の中、私の攻撃を見切り、ベルメシャークの素早い動きを目で追うなど、無力の人間には出来ないさ。見えていたのだろう? 靄の先のものが。私はその目の力を借りたいと言ったのだ」
目? またか、ラビコもそんなことを言っていたな。
靄の先が見える能力? そんなの女湯覗くときにしか役に立たない……なるほど! 使える!
「おい。こんな状況でどんなエロいことが妄想出来るんだ、逞し過ぎだろ。悪いがこいつは街に帰してくれ」
ちょっとニヤけただけで、なんで分かるんだよ、ラビコ。どんな時でも前向き妄想は俺の利点なんだよ。
「そうか……。すまなかった、では君達は街まで送り届けよう」
俺とベスはお姫様の空飛ぶ車輪で街の入り口まで送ってもらえた。遥か上空の雲の中にはラビコが突っ込んでいったので紫の光が溢れ、ものすごい爆発が連打で起きた。あいつ、やり過ぎだろ。
「あ、よかったです! 無事だったんですね!」
宿屋の前でソワソワしていたロゼリィが俺とベスが帰ってきたのを見つけ、抱きついて来た。
聞くと、街にもあの鮫が現れ結構大変なことになっていたらしい。
ラビコと街に来ていた国の騎士さんがあらかた倒してくれたとか。ほぼ、ラビコがやったらしいが。
その状況で俺とベスが出かけて戻らなかったので、ロゼリィに心配をかけてしまったようだ。
一時間ほどで戻って来たラビコに聞いてみたら、この雪は上空で蒸気モンスターを倒したときに出来る特殊なものだそうだ。
普通のものとは違い、蒸気モンスターの魔力が残った状態で雪になるので、溶けにくいとのこと。
「やっぱ異世界って面白い」
溶けない雪とか、空飛ぶ車輪とか。夢が広がるなぁ。
そういえば俺の妄想イベント報酬の天空のなんたら剣は貰えなかった。




