五百七十九話 花の国の花づくしカフェ3 到着王都フルフローラと足りない光量様
「……」
「…………」
「………………」
ハッ……! え、ここどこ、あれ俺何してたっけ……
えーと、ああそうだ花の国。
思い出したぞ、花の国フルフローラにカフェが出来るからそれの完成に立ち会おうと船に乗って港街ビスブーケに来て魔晶列車に乗ろうとしていたっけ。
なんか二年ほど時間が経ったような気がするし、急に七夕になった気もするが、異世界では時空がネジ曲がるなんてことは日常茶飯事。いちいち気にしていたら異世界でなんて生きていけないのだ、うん。
紳士諸君が各自上手いこと記憶をサルベージしていただき、時空の溝をミッチリ埋めて欲しい。
クエスト進行度としては強敵、爬虫類アンリーナを倒しなんとか魔晶列車に乗り込んだところ。
夜十九時半ごろ出発し二時間の列車移動。
まぁ、つまらない細かな前置きの説明はここまでにして、とりあえず今は夜で暗いんだ、と認識してくれたらそれで良いと思う。
さぁ記憶をドッキングさせよう──
「皆様お疲れ様でした、花の国フルフローラの王都に到着となります! トラブルもなくスムーズな移動でしたね」
夜二十一時半過ぎ、俺たちは二時間の魔晶列車移動で目的地である王都フルフローラに到着。
商売人アンリーナが元気に先導し駅を歩くが、トラブルが何もなかった……?
ま、まぁ船が動かなくなったり、列車が遅れたりなどの大きなトラブルがなかったのは確かだけども。
王都フルフローラ駅の北側に出るとそこは大きめな公園になっていて、花壇に美しい花がたくさん植えられている。
夜でもほんのりライトアップされているからとても綺麗。
「……なんか暗ぇな。駅前なンだからもうちょっと明るくしても……なぁ?」
猫耳フードのクロが随分思い切ったことを言うが、なぁ、とか俺に振られてもな……。
多分……予算がないんだろ。
ローベルト様がお城の修理費用も無いとかなんとか嘆いていたし、フルフローラは色々大変なんだから無茶言うな。
「駅前とはいえここは公園なんだし、あんまりビカビカに明るくしても雰囲気が台無しだろ。じんわり綺麗な花が見える、それでいいんだよ。多分わざとロゼオフルールガーデンの光る桜の光量に合わせたんじゃないのかな、統一感だよ統一感。夜といえばあっちのがメインだし」
前回は午前中の明るいときに来たから気付かなかったけど、王都フルフローラ駅前の大きな公園内には魔晶石を利用したライトが街灯のように設置されているのだが……ちょっと少ない。
花が綺麗に見える要所は抑えているのだが、メインの周回コースの道が真っ暗。
女性の一人歩きはやめたほうが……クラス。
「そ、そうですよ! 明るい花は日中見ればいいのですし、夜はこうぼんやり明るい感じが素敵なんですよ!」
俺が言った適当なフォローに宿の娘ロゼリィが乗っかってくる。
ロゼリィは元から花の国フルフローラに憧れていたみたいだし、王族であられるローベルト様と友達になったみたいだからな……。
「いえ予算があまりないみた……ああ、さすが師匠、そう統一感ですわよね。夜に列車でフルフローラに来られるかたは、ロゼオフルールガーデンの光る桜を楽しみにしているのです。最初に降り立った駅前公園でじんわりとした暗めの光に目を慣らしてもらい、メインのちょっと明るめの光る桜の美しさに感動してもらう。そう、ここ駅前からロゼオフルールガーデン観光は始まっているのです!」
商売人アンリーナが素で何か言いかけるが、すぐに正気に戻り得意のプレゼンを始める。
メモ帳に『統一感と言いねじ伏せる』と慌てて書き込んでいるのを俺は見逃さなかった。
「うっは~真っ暗じゃん、さすが予算不足フルフローラ。もしかしてさっきまでいた港街ビスブーケより暗い~? あっはは~」
たった二時間の列車移動なのにしこたまお酒を飲んでいた水着魔女ラビコが、俺とロゼリィとアンリーナの必死のフォローを笑顔で破壊。
俺たちのホームであるソルートンだって田舎といえば田舎なのだが、最近ソルートン駅が出来、しかも直結のシャレオツな大型商業施設なんかが出来たからな……比較はしてしまう。
正直ソルートンのが活気があり明るい……。
ラビコもお酒に酔って言っているだけだし悪気はないと思う、思いたい。多分。
「……暗いですが、あちこちから紅茶たちの気配がします……いい……マスター、この地はとてもいいです……」
バニー娘アプティが鼻をスンスンさせ、無表情ながらも嬉しそうに俺に近寄りケツをつかんでくる。
うん、ケツをつかんでくる行為は相変わらず謎だけど、アプティさんは俺たちの味方ってことだよね。
周囲にお店や民家があるにはあるが、点在して固まっている。間には畑に野っぱら、街灯無し、真っ暗。
そして街中に点々と置かれ不気味にそびえ立つ『凸』型の巨大な石。
大きいもので高さ十メートルはありそうな無機質な構造物。
これは数百年以上前、花の国フルフローラが蒸気モンスターに襲われたときの名残りで、お城防衛用の盾として使われたとか。
「……星空が綺麗だな」
確かこの構造物はテトラシルトとか言ったっけ。
見上げる高さの石を見ていたら、その先の星空が大変綺麗なことに気が付いた。
そうか、夜のライトアップが弱めだから星が見つけやすいのか。
「……アンリーナ、メモ帳に『夜の星空と花が織りなすファンタジー』とか付け加えといてくれ」
「なるほど、そういえば街灯が暗いからこそ星空が綺麗ですわね。これは盲点でした、さすが師匠です!」
俺の言葉にハッとした顔になったアンリーナがガリガリとメモ帳に書き込む。
アンリーナには内緒だけど、本当は『都会で見られる奇跡の星空』とかを思いついたのだが、それはいろんな理由で却下になった。
主に『都会』という誇張表現で。
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お久しぶりでございます影木とふです。
本日から「犬」再開でございます。
しっかりと15章完結まで書くつもりなので、またゆるりとお付き合いいただけたら幸いでございます。
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