五十八話 空飛ぶ車輪の姫様 5
周囲がカッと明るくなり、ビームのような光の束が目の前の鮫達の列に突き刺さる。
光は次々と鮫達の列を貫通し、蒸発していく蒸気が真っ直ぐ綺麗な雲のようになっていく。
た、助かった。ラビコが助けに来てくれたようだ。
「ベル? ラビィコールか!? あの気まぐれ魔法使い、こんな所にいたのか!」
女性が軽く舌打ちをした。
どうにもラビコを知っている雰囲気。気まぐれ魔法使いか、うん、それ合っていると思うぞ。
「あっはははは! あ~気持ち~一撃粉砕! 数千匹を一発で蒸発させるのって漏れちゃいそう……」
紫の光を体から発し、俺達の背後に現れたラビコはうっとりとした顔をしていた。
ラビコってキャベツ状態だと自在に空を飛べるんだっけか。
「よ~、これはこれはお姫様、こんな田舎まで直々においでとは。こないだから空の様子がおかしいと思ったら、鮫退治か。しかも苦戦したあげくお姫様が打ち落とされるとは、情けないですなぁ」
ちょっ……この人お姫様なの?
確かに服はいい物着てるし、上品な顔立ちか。
「ふん、王都に戻ってこないと思ったらこんな所にいたのか。国管理の第一級魔晶装備を勝手に持ち出すわ、うちのアーリーガルを私用で使ったあげく剣を砕くわ、どういうつもりか。お前はうちで雇っていることを忘れたわけではないのだろうなラビィコール」
リーガルの……剣。やばい、それうちの愛犬の仕業です。
あとその持ち出したなんたら装備、俺の背中にあります……。
なんかこの二人、仲悪そうだぞ。
俺は車輪の端っこに肩身狭く、体育座りでベスを抱える。
「忘れてはいないさ~。その証拠にホラ、ちゃんと国内にいるだろ? あっははは! 装備だってあれは元々私達の物だ。一時の間お前等に貸していただけさ、そうだろう? 打ち落とされたお姫様? あっはははは」
煽るなぁ、ラビコ。お互いよく知った仲だから言えるんだろうけど。
「ちっ……!」
お姫様が怒りの舌打ち。
お姫様ってぐらいなんだから、普段はおしとやかで優しい表情なんだろう。
今だけ特別虫の居所が悪いんだろう。そう思うことにしよう。俺のファンタジーお姫様のイメージが崩れるし。
しかしお姫様、平気そうだがケガでの体の負担はきつそうだ。
「ラビコ、助けに来てくれてありがとう。でもお姫様もケガを負っているんだ、戦闘状態を早く終わらせて休ませてあげたい」
俺はベスを抱えすっと立ち上がり言った。
「……ちぇっ、いいとこだったのに。へいへい、この辺にしておきますよ」
ラビコが不満そうにほっぺをふくらましながら答えた。
そのやりとりを見たお姫様が目を丸くして俺とラビコに交互に視線を送る。
「ほう? これは面白い。ラビィコールが人の言うことを素直に聞くとは……なんだ少年、あの女の弱みでも握っているのか? それならばぜひ教えろ。それぐらいないとあいつは言うこと聞かないのでな」
お姫様が俺に顔を近づけてきた。
うっひ、この狭い車輪の上じゃ逃げ場ないのでお止め下さいって。あと弱み握られているのは逆に俺のほうですわ。一日一万Gづつ増える借金あるし。
「おい、そいつに近づくな! 人の男誘惑してんじゃねーぞ! 変態女!」
「男? お前が男? ふん、それは面白い冗談だ! お前のような気まぐれで我が儘で料理も出来ないような女が男とか笑わせる!」
そういやラビコが料理しているところ見たことないな。出来なかったのか。
あと俺はラビコの男ではない、はず。
「うるせーぞ箱入りが! お前だって出来ねーじゃねーか!」
「出来ないのではない! する必要がなかっただけだ! それに最近はシェフに料理を習っているところだ!」
なんか聞くに堪えない罵り合いが……。
俺が溜息を吐きつつふと下を見ると、さっきの巨体の鮫が岩を砕き、俺達に目標を合わせていた。
「やばい……! さっきのでかいのが……!」
「「うるさい!!!!!」」
二人が叫びながら下の巨大鮫に向かってラビコは雷っぽい魔法を、お姫様は手の平から風の塊みたいのを怒りを込めて放った。
見事、巨大鮫の口の中に命中し、鮫は体が蒸気に変わり消滅していった。
なんか内輪揉めの巻き添え食って蒸発とかちょっと同情するわ、あいつ。




