五十七話 空飛ぶ車輪の姫様 4
「いくぞ、つかまっていろ!」
車輪が速度を上げ、小型の鮫が埋め尽くす上空を駆け抜ける。
「ベス、頭突きだ!」
数匹の群れが突進してきたが、ベスの頭突きシールドで弾き、なるべく大きく円を描くように飛ぶ。
「追って来てます。このままこの辺にいる全ての鮫を引きつけて周回軌道に乗せて下さい!」
こいつ等は動く物、体温のある物を追う。群れで行動し、先頭の個体に続くように動き、8の字の周回軌道をよくする。
「……もう少し速度を落として下さい! もっと引きつけて、あいつ等と同じ速度で飛んで下さい!」
何個かの群れがついてこれず、自由に動いてしまっている。
あれではあっちの動きについて行く群れが出てきてしまう。
「ふんっ……この状況で速度を落とせと言うか。尻を噛まれる覚悟はあるんだな!?」
「大丈夫、あなたの操縦技術なら出来ます。数センチ前に居ればいいんです!」
全ての群れをこの動きのループに入れるんだ。じゃないと意味が無い。
こんな空飛ぶ車輪とか初めて見たが、じゅうぶんあいつらを振り切れる速度もあるし、なによりこの女性の俺の指示を瞬時で理解して動かす操縦技術の高さがあればいけるはずだ。
「いいだろう、少し速度を落とす! 私はもう背筋がゾクゾクしているぞ……!」
車輪の速度が少し落ち、数センチ後ろに鮫達の牙がガチガチとしている状況。ちょっとでもミスったら後ろに続く数千匹はいるであろう鮫達に骨も残らず食われてしまうだろう。
「………………きた! 全部来ました! 軌道変化! 8の字です!」
「……ははは……了解だ! 精神が削られるぞ、お前の作戦は!」
車輪の飛ぶ軌道を円から8の字に変化させる。
「大丈夫、うまく習性を利用出来ました。真ん中の交点は少し上にずらして鮫同士がぶつからないように空中交差にして下さい!」
うまく8の字軌道に変化させることが出来た。
いくぞベス、お前の出番だ。
「……行きますよ。次の交点で真上に最大速度で飛び上がって下さい!」
「分かった、しっかり掴まれ!」
8の字軌道は必ず真ん中の交点を通る。
全ての鮫をこの軌道に乗せ、真ん中を一点攻撃。俺の頭では瞬時に思いついたのはこれだけ、ここまでは上手くいっている。
「いくぞ! 上へ上がる!」
女性の掛け声と共にものすごい重力が体に圧し掛かる。
こ、これはキツイ。俺達は8の字の交点で急上昇。追う対象を見失った鮫はその習性からか、しばらくその軌道を保っている。
「ベス、思いっきりいけ! 撃てぇぇ!」
上にいることに気がついた群れが、真ん中の交点から上昇し始める。後続もそのルートに続いてくる。すべての鮫が一列に俺達に向かってくる。
ベス固定砲台、連射。次々と鮫達が蒸発していく。
「撃て! 撃てぇ!!」
しかし、さすがに向こうは数の暴力。
前の鮫が蒸発しようとどんどん突き進んで来る。
ベスのかまいたちでは一撃で五~十匹の貫通が精一杯。しかし向こうは数千匹、蒸発していく煙がどんどん俺達に近づいて来る。
まじぃ、さすがに数が多すぎたか……?
「撃てぇ! くそ!」
もはや数メートル先まで迫られた、ベスの疲労も見えてきた。ここまでか……。
「よく持ちこたえた、褒めてやろう! あはははは! お膳立ても済んでいるときた!」
上空に光が生まれ、収束された一筋の光が鮫達に当たる。
「天をも操る大魔法使い、ラビコ様とは私のことだ! オロラエドォ……ベル!!」




