五百五十八話 魔晶列車ソルートン延伸 11 サーズ姫様の帰還とリュウル様の成長様
「今回王都に二週間も滞在させてしまったり、こちらの都合ばかり押し付けてすまなかったな……と、指を絡めつつ至近距離で彼の目を見て話したいのでどけてくれないかなラビィコール」
ソルートンに新たに出来た魔晶列車の駅。
王都からの第一号記念列車にサーズ姫様のご厚意で乗せてもらい、到着したソルートン側での記念の式典も無事、かどうかは分からないが、サーズ姫様と水着魔女ラビコが言い合いになるという面白い方向に盛り上がり終了。
夕方、さすがにお忙しいサーズ姫様御一行はソルートンに宿泊されることもなくお帰りになることに。
「誰がどくかよ~。ま~た去り際に私の男にキスでもされそうな予感バリッバリするし~」
みんなでお見送りをと駅のホームにいるのだが、騎士ハイラが妙なセリフを言い自らのお胸様を触り始めたので、慌てて脳天チョップ。
頭を押さえ涙目になってしまったハイラに謝り頭を優しく撫でていたら、サーズ姫様が冒頭のセリフを言い、ニコニコと俺に握手を求めてきた。
……が、杖にキャベツを刺し本気モードのラビコがなぜか俺とサーズ姫様の間に体を無理矢理ねじ込み、サーズ姫様を威嚇。
「……ち……いいではないか少しぐらい。こちらはたまにしか彼に会えないんだ、日々の+1の積み重ねが出来ないぶん、会えたときは一気に効果的に爆発的戦果を上げねばならんのだ。そして早く結果強い子が出来る行為を……」
「だからそういうのを止めろって言ってんだろ~! どんだけ欲まみれなんだよこの変態姫は~!」
うーん、何のことを言っているのか分からないが、別れ際に揉めるのはやめようぜ。
「ま、まぁまぁラビコ。サーズ姫様はお忙しい中、なんとか時間を作ってソルートンの式典に参加してくれたんだ。ここで言うべき言葉は感謝、ありがとうございましたサーズ姫様。ほらラビコも」
なんだか怒っているラビコの頭を撫で、サーズ姫様にお礼を言う。
「い~や~だ~! 私欲まみれド変態クマにお礼なんて誰がいうか~!」
ラビコもお礼を言うように促すが、キャベツの刺さった杖を振り抵抗。
俺に体を押し当てサーズ姫様から距離を取ろうとするが、その、えーと、そうやってぐいぐいお尻様を俺の腰あたりに押し当てられると、俺の彼が若さゆえの反応を起こしてしまうんですが。
あとクマって何。
「サーズ様、お時間です」
「む、そうか。別れ際の混乱に乗じて彼の体を触りまくろうかと思っていたのだが、それは次回に持ち越しだな、はは」
後ろに護衛で立っていたイケメン騎士アーリーガルが、駅内の時計を見てサーズ姫様に声をかける。
しかし……サーズ姫様ってこんな欲強めの人だったっけ? 王都を離れているから旅行気分で気が大きくなっているのかな。
お忙しい中来られているし、溜まっているストレスが半端ないんだろう。それならまぁ、納得出来るかな。
「さっさと帰れっての~。列車が出来たんだからこっちからだって行きやすくなったし~少しぐらいならまた仕事手伝ってやるかもだし~……ああもう早く帰れ! 今はリュウルが王族としての心を自覚し始めた大事な時期なんだから、しっかり見守ってやれ~!」
そう言い、水着魔女ラビコが俺の後ろに隠れる。
そうだな、列車一本で行けるようになったし、これからは気軽に王都に行けるよな。
「……気付いていたか。リュウルは真面目で優しすぎる性格のせいか、どうにも弱気で人前に出ることを苦手としていてな……。それが君たちと出会って以降、自らの思いで行動するようになり、しっかりと自分の意見を言うようになってきたんだ」
リュウル様ってのはペルセフォス王族の一番下の子供で、九歳だか十歳ぐらいの将来絶対イケメンになる少年。歳が達すれば現国王であられるフォウティア様に代わりこの国の王になるとか。
以前俺にサーズ姫様のおパンツ様をくれたりした、とてもとても優秀な子。
そういやペルセフォス王都での式典で、僕も国民に信じてもらえるようなリーダーになりたいがどうとか言っていたような。さすが、俺なんかとは違って視野が広いっすわ。
「何か目指すべき理想の人物が出来たらしく、一生懸命話を聞いていたな。はは」
サーズ姫様がニヤニヤと笑い、俺を見る。
へぇ、真面目で優しく勉強熱心、目指すは国民に信頼されるリーダーか。こりゃあこの国の将来は安泰っぽいですな。
「おっと、もう列車に乗らなくてはな。それでは今回はこれで失礼するよ。私の仕事を手伝ってくれるのは嬉しいが、ラビィコールには今までサボってきた仕事が山のようにあるのを忘れるなよ。彼に良いところを見せたいというのなら、それを一個ずつ片付けていってはどうかな、はは。ではな、また会おう」
サーズ姫様が嫌な笑顔を浮かべラビコを指し、最後俺にウインクをし列車に乗り込む。
「あああ……また明日からつまらない仕事の日々が始まってしまいますぅ……先生、絶対また王都に来てくだいよ! そして出来ましたらお一人で来て下さい! 私の部屋で、それはもう飽きるまで求め合う怠惰な日常を送りましょう!」
騎士ハイラが列車に乗ろうか上司であるリーガルを殴ろうか迷った動きをし、決心したように拳を収めサーズ姫様に続き列車に飛び乗る。
……よかったなリーガル、無意味に殴られずに済んだみたいだぞ。
私の部屋、ね。そういやハイラって一人暮らしなんだろうか。ハイラの私生活ってどういう感じなんだろうか。
「楽しかったよ、また君がいるソルートンに来たいな。じゃあまた!」
リーガルがイケメンスマイルで歯を光らせ、軽やかに列車に乗り込む。うーん、そういう笑顔は男の俺ではなく女性に向けてくれ。
全員でサーズ姫様が乗った列車を見送り、新たに出来たソルートン駅と大型商業施設の賑わいを眺めつつ外へ出る。
「ソルートン駅かぁ……本当に出来たんだなぁ」
ぼーっと真新しい駅舎を眺めつぶやくと、水着魔女ラビコが勢いよく右腕に絡んでくる。
「な~にをたそがれてんだか~。ほら、さっさと宿に帰るよ。みんなが英雄の帰還を待っているんだからさ~あっはは~」
そうか、そうだな。久しぶりにジゼリィ=アゼリィに帰れるんだよな。
みんな元気かなぁ、王都で雑誌に特集され載っていた写真は見たが、やはり早く直に会って宿のみんなの顔が見たい。
「ふふ、さぁ帰りましょう。あなたの家はジゼリィ=アゼリィなのですから」
宿の娘ロゼリィも左腕に絡んでくる。うーん、相変わらず腕に伝わってくるサイズが大きい……。
「……行きましょうマスター。あの王都という場所はあまり好みではありません……ここがいい、です……あと島も」
無表情バニー娘アプティが俺の背後に立ち、むんずと俺のお尻をつかんでくる。え、なに、なんで、なんで俺の尻つかむの……。
「あー式典とかタるかった、帰ろーぜキング。やっぱあの宿が一番いいな、自由で楽しくてさ」
猫耳フードのクロが大きくあくびをし、宿方向へ歩きだす。
俺とか庶民が式典がたるい、とか言うのは分かるが、お前は魔法の国セレスティアの王族様なんだから、何か学ぶものがあったんじゃないの?
まぁいいけどさ、クロってこういう女性だし、この形式張らない自由な感じが俺は好きだし。
「ここからですと、馬車を使ったほうがいいですわね。さぁ高級馬車で帰りましょう宿ジゼリィ=アゼリィへ!」
のんびり歩いて帰るか、と思っていたら、背の低い女性が駅前に出来ている馬車乗り場を指し元気に走り出した。
ってあれ、アンリーナは帰らなくていいのか? てっきり式典終えたら帰るのかとばかり……。
「え? 帰りませんわよ。しばらくソルートンに滞在して、この大型商業施設の状況を見るつもりですから」
俺の何か言いたそうな顔に気付いたアンリーナが商業施設を指す。
ああ、そういやそうか。アンリーナはこの商業施設に入ってくれるお店を探し回ってくれた張本人だもんな。施設が開業したからその責任を果たそうというわけか。
「ベッス!」
お、我が超絶かわいい愛犬もジゼリィ=アゼリィに帰れると感じたようだぞ。
「よし、じゃあ帰ろうか。俺たちの宿、ジゼリィ=アゼリィへ!」
俺がそう言うと、ラビコ、ロゼリィ、クロ、アンリーナが笑顔で返事をする。アプティは無表情だけど、どうにも宿で飲めるイケボ兄さん厳選の美味い紅茶を想像し少し嬉しそう。
……やっぱこのメンバーは楽しいな。
俺の目標である『せっかく運良く来れたんだから、この異世界の全てを見たい』も、彼女たちとなら達成できそうな気がする。
そう強く思った、久しぶりに帰ってきたソルートンの賑やかな夜──




