五百四十二話 王都の盛り上がりと宿が雑誌デビュー様
『魔晶列車、ソルートン・ペルセフォス王都間ついに始動!』
『そうだ、ソルートンに行こう』
『美食の街ソルートンで幸腹になっちゃおう』
ペルセフォス城の騎士食堂で朝食を終え、俺たちは繁華街へ出てみた。
サーズ姫様とハイラは二週間後に王都発ソルートン行きの記念の第一号車に乗るため、王都でのお仕事を必死で詰めている状態だそうで。
なんか俺とか毎日ぼーっと自由に暮らしていて申し訳ない……。
王都のあちらこちらに貼られている宣伝ポスターのほとんどに「魔晶列車、ソルートン」の文字。
最後のは誤字じゃなくて、幸せに満腹になろうって意味だろうか。
周囲の人の話をこっそり聞いてみてもポスターを指し、楽しそうに食べ物の話をしている。
「すごいな、王都中ソルートン行きの魔晶列車のことで盛り上がっているのか」
「あっはは~、すっごいね~。王都でここまでソルートンの話題で盛り上がったところは見たことがないな~。ルナリアの勇者の出身地として冒険者の間では有名だけど~、普通の王都民の口からソルートンって単語を聞ける日がくるとはね~」
きょろきょろ辺りを見回し驚いている俺の右腕に水着魔女ラビコが絡んでくる。う、お胸様が……大きなお胸様が腕に当たるぅ……。
「かつてはペルセフォス王国の東端にある特徴のない小さな港街っていうか~、王都民がソルートンって名前を聞いても「どこそれ~?」レベルのド田舎辺境の地だったのにな~。ソルートン出身の者としては地元が有名になってちょっと嬉しい感じだね~あっはは~」
ラビコが笑いながら言うが、俺にとってもソルートンという街は地元と言える場所になる。
突然異世界に来て最初に降り立った街だし、今のパーティーメンバーであるみんなと知り合えたとても大切な場所。ソルートンはもはや俺の帰るべきホーム、そう勝手に思っている。
なので、そのソルートンが有名になるのはラビコ同様嬉しいし、しかも王都から直で行ける魔晶列車が開通するって聞いたさらなる嬉しさで顔のニヤニヤが止まらないぐらいだ。
──うん、だから今俺がだらしない顔でニヤついているのは決してラビコの大きなお胸様が右腕あたりに押し付けられているからではないんだぞ。分かってくれるよな、紳士諸君。
「おや~? 社長は別の意味で嬉しいのかな~? ね~ね~、私の胸に触れて嬉しい~?」
俺のだらしない顔に目ざとく気が付いたラビコが、ニヤニヤとわざとらしく追加でお胸様を押し付けになられてくる。ホ、ホアー!
このクソ魔女……まーた俺という純情純粋少年で遊びやがって……確かに十六歳の少年である俺に水着越しとはいえ女性の直お胸様の刺激は強い。大変強い。
普通の無垢な少年なら不自然に何かを守るようにしゃがみ込み、地面に向かってブツブツと好きなスポーツ選手の筋肉の部位を早口で羅列してしまうんだろう。早く治まれ、と願い。
だが、申し訳ないが俺は今までに多くの経験を積んだ歴戦の童貞勇者。この程度で我が聖剣はピクリとも光らない。光るはずもない。
え、嬉しくないのか? バカ言え、そんなの嬉しいに決まって……
「……マスター、この白い布を引っかけますか?」
俺がラビコのお胸様の刺激に脂汗を流しながら耐えていたら、後ろに無表情で立っていたバニー娘アプティがラビコよりも大きめなお胸様の間から白い布を引っ張り出す。
「ニャッハハ……キングよぉ、朝から元気なのはいいンだけど、腕に胸が当たったぐらいでその超反応はなぁ……。この程度でこれとなると、いざヤるってときはどんな大きさになるンだ、これ?」
猫耳フードをかぶったクロが俺の目の前でしゃがみ込み、アプティが俺のマグナムに優しく引っかけてくれた白い布を突く。
あ……こらアプティ! 白い布なんて引っかけたら隠すどころか余計に目立つだろ! クロも楽しそうに突くんじゃない!
あとクロは壮大な勘違いをしているぞ! 女性のお胸様を腕に押し当てられることは「この程度」ではない! この世に生ける全ての男たちの魂を一発で浄化できるクラスの天変地異でグレートな……!
「あ……! 見てくださいあれ! すごい、まさかこんな日が来るとは思いませんでした!」
ラビコにニヤニヤと少年の純粋な部分をもてあそばれ、アプティにどこで買ったのか二枚目の白い布をマグナムにかけられ、クロに爆笑されながら突かれていたら、宿の娘ロゼリィが一軒の本屋さんに駆け寄っていった。
ロゼリィはこういうエロ系のことには厳しいので、てっきり怒られるかと思っていたので助かった。グッジョブ本屋。
「この雑誌、私が子供の頃から欠かさず買っているんです。いつも世界各地のおしゃれな街や雑貨に化粧品、有名な観光地、今人気のランチなどが載っていて、毎月出るのを楽しみしているんです!」
ロゼリィが店頭に置かれている一冊の雑誌を手に取り、興奮気味に俺に見せてくる。
ルコリエとシャレ乙フォントで雑誌名が書いてあるが、よくあるおしゃれ系女性向けリア充本だろうか。俺には近づけない領域だぜ。
そういやソルートンの宿でロゼリィがよく読んでいたような。それの新刊が出ていましたってことか?
まぁ、例え同じ雑誌だろうが、ソルートンで買うのとペルセフォス王都で買うのではありがたみが違うのかね。
「見てください、表紙の左下を! まさかこの雑誌の表紙に出ることになるとは……夢みたいです!」
表紙の左下? ずいぶんと興奮しているが……あ、今世界で一番注目の街ソルートン特集って書いてある。そうか、確かにいつも買っている雑誌に自分の住んでいる街が出ていたら嬉しいよな。ロゼリィの興奮も分かる話だ。
……あれ、なんか見たことがある人物が表紙に出ているが……ってこれロゼリィのご両親であるローエンさんにジゼリィさんじゃねぇか! 宿の前で満面笑顔のお二人がポーズ決めた写真が表紙に載っているってか。
自分の住んでいる街どころか、自分の両親と宿が表紙に載った。これはとんでもなく嬉しいことかも。
「あっはは~すっごいねこれ~。世界的に有名な雑誌の表紙に載ったか~、これは影響でかいぞ~。つ~かジゼリィってこんな笑顔出来たんだね~あっはは~」
ジゼリィさんは元ヤン系の奥様で、笑うには笑うのだが、その裏になにか含まれていそうで怖いのよね……。いや良い人ですよ! とっっっても良い人です! 頼むから変な告げ口はよしてくれ。あの人キレたらマジでおっかねぇんだって。
言い合いでは絶対に負けない水着魔女ラビコと対等に渡り合えるぐらい、心も腕っぷしも強い妖艶マダム。
娘であるロゼリィのスタイルの良さを見てもらえればお分かりかと思うが、お母様であられるジゼリィさんもすごいお体をお持ちなんだよなぁ。
「……社長さ~もしかしてジゼリィで興奮とかしてないよね~。表紙じ~っと見ちゃってさ~下半身が全然治まってないんだけど~」
ローエンさんとジゼリィさん背後によく見たらモヒカン系男子がうっすら写っているな……宿の常連である世紀末覇者軍団までも有名雑誌デビューかよ、と思っていたら水着魔女ラビコがムスっとした顔で右腕にからんできた。
え、あ……って別にそういうことじゃねぇよ。そんなにすぐに元の大きさになるわけねぇだろ。
表紙見てマグナム大興奮していたわけじゃなく、さっきのラビコのお胸様の余韻だよ。
そして表紙で興奮していたのなら俺はモヒカンズ、こと世紀末覇者軍団で興奮していたことにもなるんだぞ。
「え……?」
それを聞いたロゼリィが不審な顔に。や、やべぇ。
「ち、ちがっ……! た、確かにジゼリィさんのスタイルはすげぇけど、俺はロゼリィの体見てたほうが興奮するし、アプティのバニー衣装から半分出ているお胸様を毎日凝視しているし、ラビコの水着もありがたく目に焼き付くレベルで見て、クロの形の良い太ももとお尻も何度隠れて写真に撮ろうかと思ったぐらいなんだぞ! 俺にとってはジゼリィさんじゃなく、みんなのエロい体……」
ハッ……言っていて気が付いたが……これなんのフォローにもなっていなくて、むしろ俺が普段女性陣のどこを変態的に見ているか暴露しただけじゃん。
「え、あ、あの……私で興奮……」
ロゼリィが真っ赤な顔で震えだす。マズイ……! これ朝までお説教コースになる感じじゃねぇか?
「ぶっ……あっははは~! 社長ってば誤魔化しかた間違っちゃったね~。ジゼリィじゃなくて私たちのほうが魅力的だって言いたかったんだろうけど、その言い方だとただのド変態で犯罪すれすれアウト~じゃないかな~あっはは~!」
ラビコが大爆笑しながら俺の肩をバンバン叩く。
そ、そう、それだよ! 俺にとってはみんなのほうが魅力的で、ジゼリィさんに負けないぐらい素敵な女性ですって言いたかったんだって! でも最後にエロい体って言っちゃったから台無しか……。
「……マスター、別に見るだけじゃなく、触っていただいても構わないですが」
バニー娘アプティが無表情で不思議そうに俺を見てくるが、いや、触ったら完全アウトだろ!
「ニャハー! 太ももに尻か! キングってばアタシのそこに興奮する毎日だったのかよ! なんだよ言えよ、キングにならいつでも触らせてやンのによぉ!」
猫耳フードを揺らし、クロが自分の太ももをエロい感じでなぞる。くっそ……超エロい。
クロはパンクっぽい衣装で露出は控えめ。しかし短パンみたいなのをはいているので、太ももだけは見えている。そしてそこにつながるお尻の形が大変綺麗。後ろから見たらよく分かるが、マジでエロい。正直すぐにでも触りたい。
いやロゼリィの大きなお胸様にも触りたいし、ラビコの綺麗な足も舐め回したいし、アプティのお胸さまの谷間に指入れてみたいし……ってまずいって、これじゃ治まるものも治まらん。
この騒ぎに周囲に人が集まって来てしまったし、このマグナム状態だとマジで通報されかねん!
「ベッス」
「え、なんだって俺の可愛い愛犬ベスよ。お風呂に入りたい? いいぞ、すぐ行こうすぐ入ろう!」
都合よく愛犬が吠えてくれたので、俺はベスを抱えお城近くにある温泉施設へ猛ダッシュ。
「あ~変態が逃げたぞ~! 捕まえておしおきだ~! あっはは~」
ラビコが爆笑しながら紫の魔力を放ち空に浮かぶ。
ちっ……そういやコイツ、空飛べたっけ。いざとなったら逃げ切るために愛犬の神獣の力の解放も視野に入れるぞ!




