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五百三十八話 その後のアリーシャ&ロージと俺が欲しいただ一つのスプーン様

「腹が……重い……」



 王都ペルセフォスにあるカフェジゼリィ=アゼリィ。


 以前ソルートンのジゼリィ=アゼリィの支店として作ったお店で、イケボ兄さんの弟であるシュレドがシェフを務めている。


 冒険者の国からの帰り、久しぶりに様子を見ようと寄ってみた。


 お店は相変わらずの混雑っぷりだが、魔晶列車で食べていた固パン&辛スープに心をやられてしまってな……。早く人間の食い物が食べたいし腹が減って仕方なかったのでオーナーの娘であるロゼリィの特権を使い、三階にある関係者用個室を開けてもらった。


 そこになぜか騎士ハイラにサーズ姫様が合流して、一緒に遅めの夕飯を取っている。


 

 よく分からないがカップルメニューがテーブルに並び、ロゼリィ、ラビコ、クロ、アプティ、ハイラにサーズ姫様とお互いに食べさせ合う、みたいなことをやる羽目になった。


 それはまぁお美しい女性陣、さらには可愛いハイラ、マジ美人のサーズ姫様とこんなことが出来て夢みたいな状況だったのだが、それと引き換えに食べ過ぎで腹が重いという……。


 よし、代償は払ったんだ……俺は女性陣が使ったスプーンを全部持ち帰らせてもらう。権利はある。だって俺はこのお店のオーナー代理を任されているのだから。


 特にサーズ姫様のは貴重品。絶対に欲しい。


 持ち帰る理由? それはあれだ、その、ここは一応俺が関わるお店の一つ。使われている食器などを調べ、強度や破損状況、洗浄具合いなんかを抜き打ちでチェックするためだ。


 それ以外に理由はないし、コレクションなどではない。絶対に。決して。誓って。



「し、失礼しますサーズ様にラビコ様! 食べ終わった食器をお下げに参りました!」「ま、ました……!」


 俺は食べ過ぎで苦しんでいるフリをしつつ、カップルメニューの空になったお皿の上に乗っているスプーンに手を伸ばす。もう少し……もう少しだ……。


「あ、いたー! 久しぶりー胸元くーん!」

「やっと会えた。嬉しい」


 大丈夫、女性陣は食後のデザートに夢中でこっちを見ていない。


 いける……いけるぞ!


「俺のスプーンコレクション……! ってうわっ! あ、あれ? アリーシャにロージじゃないか」


 まずはサーズ姫様の使ったスプーンだ、と狙いを定め手を蛇のように伸ばし獲物をつかもうとしたら、スプーンの乗ったカップルメニューの空き皿がひょいと持ち上げられる。


 俺が絶望の顔で見上げると、そこにはペルセフォスの騎士学校に体験入学したときにお世話になった元気娘アリーシャにちょっとおとなしめのロージがいた。


 二人はこのカフェでアルバイトをしているのだが、まさか今日二人共いるとは思わなかった。


「どったの胸元くん。この世の終わりみたいな顔して。ああ、あまりに美味しくて食べ過ぎで苦しんでたのかな? その気持ち分かるー。私もたまにだけど、ついデザート頼み過ぎちゃうんだよね」


「さっきお仕事上がったんだけど、胸元くんが来たって聞いたから急いで来ちゃった。というか、相変わらずすごいメンバーで来るね……サーズ様にハイラさんにラビコ様って……」


 ペルセフォス王都に寄ったのはカフェのシュレドの様子が気になったのと、この二人、アリーシャとロージの様子も見たかったんだ。


「ひ、久しぶり。ちょっと帰り道に寄れそうだったから、さっきペルセフォス王都に来たんだ。なんかハイラとサーズ姫様が一緒だけど、ま、まぁ気にしないでくれ」


 アリーシャがお盆に乗せたお皿にラビコたち、そしてロージが持っているお盆にハイラとサーズ姫様のスプーン。


 狙うはロージか。


「ど、どうかな騎士学校は。頼むからアルバイト始めて成績下がったとかは勘弁してくれよ。二人には才能があるんだし、その邪魔だけはしたくないんだ」


 俺はお盆に乗った空のお皿を下げられないように二人の肩を抱く。セクハラ? うるせぇスキンシップじゃい。


「うわっ……この自然に肩を抱いてくる感じ、慣れてんなぁ胸元くん。あんまりこういうことされると、私たちに気があるのかなって勘違いしちゃうよ?」


「……そ、そうだよ期待しちゃうよ……胸元くんにはすごいお世話になっているし、学校では魔法暴発から助けてもらった恩もあるし……私は胸元くんが……その……」


 そういやなんで俺この二人に胸元くんとか呼ばれてんだっけ? えーと……ああ、騎士学校の授業中ハイラが突然広げた胸元を俺が一心不乱に見続けたからだっけ。うむ、順当だった。


「学校の成績なら大丈夫だって! だってそれが胸元くんからアルバイトに雇ってもらう条件だったし、ちゃんと上位をキープしてるよ」


「うん、それとハイラさんが忙しい中時間作ってくれて、すっごく分かりやすく試験対策のアドバイスをしてくれているんだ。おかげでアルバイト始める前より順位上がったぐらいで、しかも最近はサーズ様までも……」


「おお、アリーシャにロージ。もう上りか? すまないが今日は彼が来ているので特訓は無しになる、後日時間を作ろう」


 アリーシャとロージの肩を抱き寄せこっそりお盆に乗ったスプーンに手を伸ばし、もう少しでサーズ姫様の使用済みスプーンをキャッチザハートというところで背後から声をかけられる。くそ……もうちょいだったのに!


 ってこの声サーズ姫様じゃないか。


「こ、こ、こんばんわ! い、いつもお世話になって光栄でそのあの……」

「あ、い……いえお忙しい中いつもありがとうございます……!」


 アリーシャにロージがド緊張の上擦りボイスでブンブン頭を下げる。あ、ちょ、スプーン落ちるって!


「この二人とはこのお店で知り合ったのだが、話を聞いてみると君と一緒に授業を受けていた学生だと分かってな。そういえばハイラの報告書に何度か名前が上がっていたな、と思い出し、それならばと食後に時間があるとき、たまに特訓をしているんだ。さすが君に認められただけはあり、教えたことの吸収が早くて驚くばかりだよ。これは将来が楽しみな逸材だな、と。はは」


 おや、アリーシャにロージはサーズ姫様に特訓を受けているのか。それってかなりすごいことじゃないか? 学生が受けられるレベルの待遇じゃないぞ。


「もごごっはい先生! このお二人は私がきっちり面倒をみています! 同じ学校の後輩でもありますし、なにより先生と短期間とはいえ御学友だったお二人! ここで面倒見のいい先輩役を演じ、二人の成績がぐいぐい上がれば先生の私への好感度が『今日抱かせろ』レベルに急上昇間違いなし!」


 食べていたデザートのイチゴのロールケーキを一気に吸い込み、ハイラがここぞアピールタイム! と満面の笑顔で自分の功績を話してくる。


 サーズ姫様はさすが、騎士を目指す二人の将来を見据え指導してくれているっぽいが、ハイラさんはどっちかってぇと私欲が強くね? いや、ロージがハイラの試験対策は分かりやすいと褒めていたから、ちゃんと教えてはいるんだろうが……。


 あと好感度が今日抱かせろレベルって初めて聞いた規格なんだけど、十段階で言うとどのあたりなの。



「あ、さすがに一回お皿下げてくるね。お仕事上がりではあるけど、一応お店側の人間だから、あまりお客さんである胸元くんのお時間を邪魔しちゃだめだしね。それにこの空間、私にはあまりに恐れ多すぎて震えがとまらないよ、あはは」


「そ、そうだね……お客さんの楽しい歓談を店員が邪魔しちゃだめだよね、ごめんね胸元くん……」


 アリーシャとロージが苦笑いをし、サーズ姫様とハイラ、ラビコたちに向かい頭を下げる。


 ま、待て……! だ、大丈夫だって、みんな良い人だから、そういうのは気にしていないって! なんならお皿は俺が一回トイレに寄ってから厨房に下げるって! 特にロージのほう!


「ま、待ってくれ! ロ、ロージ……その、目を閉じてくれないか」


 俺はお皿を持ち厨房に下がろうとした二人を止める。


「え……目、目を閉じ……う、うん、分かった……い、いいよ……」


 俺の必死の言葉にロージが応えてくれ、恥ずかしそうに静かに目を閉じそっと俺のほうに顔と唇を向けてくる。


 あ、いや顔は上げなくてもいいんだ。つかなんで口すぼめて真っ赤な顔してんだロージ。


「あ、ずるい! 私だって成績上がったんだし、アルバイトだって頑張っているんだよ! わ、私もご褒美……!」


 アリーシャもロージと同じく目を閉じ唇を突き出してきたが……何? まぁいい、目を閉じてくれている間にお皿のスプーンをポッケに……


「なにしてんの社長~。それ変態姫が使ってたスプーンじゃない」


 ハッ!


「そ、それをどうするのですか……?」


 水着魔女ラビコがニヤニヤ顔で俺の腕を掴んできて、ロゼリィが不安そうな顔で俺を覗き込んでくる。


「ニャッハハ、キングよぉ、そういうお年頃だから分からないでもねぇけど、もーちょっと上手くやれねぇもんかね? 戦いのときのキングは見惚れるレベルの動きなんだが、こういうちょいエロを求めているときはガッバガバなんだな! いや、そこが可愛いンだけどな」


 猫耳フードのクロが笑いを堪えて俺のスプーンを取り上げる。あ、こらそれは俺の……。


「……マスター、私のもいります、か?」


 バニー娘アプティが自分の使っていたスプーンを渡してくれる。あ、いや、すげぇ嬉しい申し出だけど今はいいや……だってハイラとサーズ姫様が不思議そうに俺を見てくるし。



 というか、目を閉じていたアリーシャとロージ以外全員、俺の奇行の一部始終を見ていたご様子。


 うん、そうだよね。だって目を閉じていたのはアリーシャとロージだけなんだもん。



 ──やっちまったなぁ……どうにもエロ関連となると急に俺の視野は狭くなるみたいだ。


 こういうとき携帯端末があれば、自力で小刻みに震わせてマナーモードで電話がかかってきました風に外に逃げ出せるんだが……無いときはどうすればいいですかね?



 日々エロ気まずいモードを難なく切り抜けている歴戦の勇者諸君、至急俺に異世界でこの状態から入れる保険か、生き残れるナイスな知恵を──






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