五百三十二話 山盛り肉地獄と指輪四銃士様
「さぁ遠慮せず食べてくれ! 冒険者はパワーを付けねばな!」
冒険者センター本部、最上階にある豪華なお部屋。
最初、数百人規模のパーティーが余裕で出来そうな広大なホールに案内されたが、ラビコがそこを断り十人ぐらいが入れる部屋に変更してもらった。
楽団の生演奏が聞けるステージの前のテーブル、さらにはメイドやらがズラッと並ぶ光景はさすがにビビったぞ。どんだけ豪華なんだよ。
ラビコが楽団やらメイドたち、無関係な人の入室を断り、今この部屋には俺たちとクラリオさんしかいない。なんかラビコが規制をかけたが、聞かれちゃまずい話でもあるのか?
まぁその辺はラビコに任せよう。俺頭悪いし。まずは腹減った、豪華な飯とやらを食わせてもらおうぜ。
「肉……す、すごい、肉……」
大きなテーブルのど真ん中に山と積まれた圧倒的な肉百パーセントマウンテン。俺等そんなに肉は食わないっすよ……。
クラリオさんが笑顔で小皿に肉を盛り、俺に手渡してくる。
「君は私の命の恩人でもある、食べたいものがあったら何でも言ってくれ。すぐにシェフに伝えよう!」
「あ、ありがとうございます……い、いえ、このテーブルの肉でじゅうぶんで……」
牛、豚、鳥系の高級そうなお肉がズラリと並び、お肉大好きマンには夢の光景なんだろうが、俺はそんなに肉食わないっす……。
「ああ、すまない、焼き立てのほうがいいよな。よし任せてくれ、私がいい焼き加減のお肉を提供しようじゃないか。なにせ私は火は大好きなんでな!」
俺がモソモソと高級ステーキみたいなお肉を食べていたら、クラリオさんが何を思ったのか炭火焼きセットを用意し、生肉をジュージュー焼き始めた。
こ、これ以上お肉は増やさないで……! 絶対残りますって!
いや、さすがに高級肉、美味しいは美味しいんですが、すでに山盛りの肉っていうビジュアルだけで胸焼けが……。
この量の肉を食い切るには、体育会系ガッツマンを五十人ほど呼ばないとならんぞ。
「ベッス!」
お、我が愛犬ベス様が肉食う気満々だ。全部は……無理なのでほどほどにな。
「随分張り切ったな~クラリオ。ちょっとした物とデザートだけでいいって言ったんだけど~? ぷは~うっま~」
水着魔女ラビコが、俺の隣から離れないクラリオさんを呆れた目で見ながら溜息。
……溜息、じゃないな、最後の。ちょっとした物とデザートでいいって指定した本人であるラビコの右手に、なぜお酒が握られているのか。しかも高級そう。
「それは別で用意した。これは私個人からのお礼と感謝を込めたものだ。いや、こんなのじゃ全然足りない……もっと良いものを、もっと満足をしてもらいたい! このままここに住んでくれても構わないし、君には何不自由のない生活とお金を私が提供……」
「おっとそこまでさ、爆破娘~。悪いがこの男は私の物なんだ、スカウトなんて絶対にさせない。……どうしてもこいつが良いって言うんなら、私と本気で戦うことになると思え」
クラリオさんは冒険者の恰好から着替え、紺色の豪華なヒラヒラのドレスになっている。露出はかなり多め。正直たまらんです、はい。
その彼女がぐいぐい体を寄せ迫ってくるので、ヒヨコみてぇなか弱い童貞紳士である俺は顔を赤くするばかり。
クラリオさんの結構大きめなお胸様が押し付けられたあたりでラビコがガタンと立ち上がり、握っていた高級酒瓶を彼女の頬に当て睨む。
酒瓶はすでにカラ。
睨んでいる顔は凄味が効いているんだけど……それ一本飲み干したのかよ。早いって。まだお昼だぞ……。
「くく……随分と変わったな、ラビコ。彼の指示に文句の一つも言わず従ったり、男にまるで興味のなかったお前が、この男は私の物だ、なんて言ったり」
そういやクラリオさんは元勇者パーティーのメンバーだから、昔のラビコを知っているのか。
サーズ姫様だったり、当時のラビコを知る人は口を揃えて真逆の性格って言うんだよな。どんだけワガママだったんだ、この水着魔女は。
「あっはは~そりゃあ変わるさ。見ろこの指輪を~! もう独り身じゃあないんだ。私の思考や立ち位置は常にこいつと共にあるのさ~」
「………………え……? ほ、本当に……? そういえばダンジョンでそれっぽいことを言っていたが……マジなの?」
ラビコが超笑顔で左手薬指に付けているシルバーのリングを見せつけ、クラリオさんが口をポカンと開け驚く。
ああああああああああ……! しばらくやっていなかったから忘れていたけど、そのネタまだ使うんかい!
それすっげぇ説明が面倒なやつ……!
「おっとラビ姉、その話ならアタシも黙っちゃいねぇぞ。キングはアタシに顔を赤らめながら、永遠にあなたの下僕になりたいですって勢いよく指輪ハメて来てんだからよぉ……にゃっはは!」
あまり正体がバレたくなかったのか、猫耳フードを深めにかぶっておとなしくしていたクロが豪快に立ち上がり、左手薬指にある指輪をかざす。
ああああああああ……やめてクロさん……! 一人目までは、へぇそうなんだって祝福モードになるが、二人目の指輪からは祝福の笑顔から急にしかめっ面になるの……あ、ほーらクラリオさんの眉間に深いシワが出来た。
あと誰がクロに永遠の下僕を誓ったのか。
「初めましてクラリオさん。私はお仲間だったローエンとジゼリィの娘、ロゼリィと言います。私も彼とはそういう関係です。なにせ彼に貰った愛の期間が一番長いのは私なのですから! ふふ……ふふふ」
ああ……ロゼリィまで……何その貰った愛の期間が一番長いのは私って謎アピール。
クラリオさんがさらに驚いた顔になる。ローエンさんとジゼリィさんの娘ってとこに一番驚いているが、ラビコ、クロ、そしてロゼリィと指差し、最後に俺を見て首をかしげる。理解が追いつかなくなったっぽい。
「……マスターとは島で結婚が決まっています……」
もちろん、もちろんいますよ無表情娘アプティ。今までずーっと黙って興味なさそうに俺の後ろにいたんだけど、この話題には左手の指輪をかざし参戦してくる。
ああそうか、紅茶が無いんだ。だから俺の後ろでつまらなそうにしていたのかアプティ。
クラリオさん、一個リクエストいいすかね、紅茶を……ってまさかの四人目の登場にクラリオさんの美人フェイスが崩れかかってそれどころじゃないな。
ああああ……超面倒。この辺の説明、俺もう嫌なんですけど。
でもちゃんと説明しないとカルテット極悪浮気マンみたいに見られるし……。なんで童貞どころか、女性と付き合ったこともない孤高のピュアジェントルマン俺がこんな目に……くそ、こういうのは大体ラビコのせいなんだ。
あいつが面白がってこういうネタぶっ込んでくるから、いつも俺が苦労する。
「……えーと、つまり、君が複数の女性に贈った指輪は婚約だの、結婚の証の物ではなく、普段の感謝を込めたもので、恋愛系の深い他意はない、と」
ラビコたちを抑え、俺が必死に説明。
「ま、まぁ英雄色を好むとも言うし、多少はいいのではないかな……はは。それにペルセフォス王国では、当事者たちが望めば何人と結婚しても問題はないのだろうし」
クラリオさんが苦笑い。ん? 微妙に伝わってなくねぇか? 俺の喋りがヘタ過ぎなのか。でももういい……とりあえず否定はした。
「あっはは~社長ってば格好つけようとして必死過ぎ~。どうせ私たちからは逃げられないんだから、とっとと諦めればいいのに~」
格好つけじゃねぇよ、真実を伝えようと頑張っただけだ。俺は無傷潔白の童貞である! ……はぁ、なんだこの宣言。
「……くくっ、短時間ではあるが君たちを見ていると、本当に楽しそうな雰囲気が伝わってくるよ。まさかあのラビコがこんなに笑顔でいれるとはな……良い仲間に出会えたのだな、ラビコ」
クラリオさんが俺たちのやり取りを見て目を細め笑顔になる。
「そしてその中心にいるのは、やはり君か。戦闘中、パーティーの全員が君を見て、君の指示を待っていた。戦闘が終わってからも、彼女たちはずっと君を見ている。向けられる視線は揺るぎない信頼、期待、恋心……いや、分かるぞ、少し一緒にいただけの私でも君の放つ勇者の波動がビンビンと伝わって……」
後半鼻息荒く語り始めたが、なんなの勇者だのって。
「……ところで君は何者なのだ? あれほどの実力者、世界に名が轟いていないはずがない。……しかし私は冒険者センター本部にいるが、君のことは知らないんだ。いや、不勉強で申し訳ない、よければ冒険者カードを見せてくれないか?」
え? 冒険者カードっすか? いいっすよ、ほい。
「………………ん? 街の人LV2……うそだろおい! 絶対レベルカンスト系魔法戦士の動きだったぞ! おいラビコ、これはどういうことだ!」
俺の自慢の可愛いハンコが押されたカードを見て、クラリオさんから笑顔が消える。おかしいな、そのハンコ、マジで見ただけで笑顔になる可愛いやつだと思うんだけど。
つかこの可愛い街の人専用ハンコ、クラリオさんは本部の人間なんだから、用意した側じゃないか。
「どうもこうもないっての~。冒険者センターのしょぼい機械の判定が街の人だっただけで~社長の力は普通じゃ計れない別格なのさ~」
ラビコがそう言うと周囲に目を配らせ立ち上がる。
「クラリオ、本当に誰もいないね? 護衛とか潜ませているのなら、すぐに追い出せ」
「ご、護衛? いや、そんなのはいないが……どうしたんだラビコ」
マジな顔のラビコにクラリオさんが驚く。
「……誓えクラリオ。これから言うことは絶対に誰にも漏らすな。これを守るのなら、今回ルナリアの勇者の名を利用したことは水に流してやる。もし漏らしたら……私はお前との友人関係を破棄し、全ての冒険者センターを潰しにかかる」
残しちゃマズイとモリモリ肉を食っていたみんなの手が止まる。ラビコが急にマジモードなんだけど、何……? 冒険者センターを潰しにかかるって……。
「……わ、分かった。ルナリアの勇者の名を利用したことは本当に申し訳ないと思っている。あの激戦を生き抜いた友であるお前の信頼を失いたくないし、ラビコとは一生普通に隣に立てる関係でいたい。誓おう、私は二度と友を、仲間を私用で利用しない」
クラリオさんが真面目な顔で答えると、ラビコが頷き席に座る。
「ダンジョンでこいつの戦いを見たのは私たち以外ではお前だけ。覚醒しつつある社長とベスの力は絶対に漏らしちゃいけない。現に一度上位蒸気モンスターが近寄ってきているんだ」
ああ、そうか。
ラビコが人払いをしてこの部屋にしたのはそういうことか。
近寄ってきた上位蒸気モンスターってのは火の種族のアインエッセリオさんのことだろうか。そういや彼女、一度仲間に報告してくるとか言っていたけど、また来るのかな……。
「じ、上位蒸気モンスター? ほ、本当なのかラビコ……」
「……本当だ。社長の持つ力は王の眼、千里眼。そしてベスの神獣化。どれも歴史上、人間側に来たのは初めての力だ」
「せ、千里眼に神獣化……!?」
ラビコが静かに言うと、クラリオさんが目を見開き驚く。
……そういやダンジョンで俺の力を見たの、もう一人いるけど……あっちは大丈夫なのかね。今度散歩でケルベロス呼んだら……って本当に来るのか謎だが、もし来たら言っておくか……。




