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13 異世界転生したらルナリアの勇者が現れたんだが

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五百三十話 冒険者センターの娘クラリオ=クラット様

「す、すごい! これだ、君こそ私が求めていた新たなる勇者! なあ君、名はなんと……」


「はいそこまでだ爆破娘~。まずはこちらの質問に答えてもらおうか~」



 ケルベロス迷宮地下十階。


 異常種蒸気モンスターである巨大狼を倒したら現れた謎の女性。彼女はケルベロスと名乗り、俺たちに襲いかかってきた。


 ラビコ、アプティ、クロの攻撃をいとも簡単に跳ねのけ、桁違いの力の差をみせつけられたが、神獣化ベスと俺の目の力を駆使し顔面を殴打。


 色々あった結果、俺はケルベロスを名乗る女性の付けていた首輪を右手に巻かれ、夜かいい感じに暗いとこみつけたら散歩に連れてってくれ! と一方的に約束され、彼女は元気に帰っていった。


 俺の頭が悪いせいか、理解が追いつかない謎のワードをいっぱい並べられ、頭にハテナをいっぱい浮かべながらパーティーメンバーの元へ歩いていったら、このダンジョンで知り合った女性、ルーインズウエポンの大剣を持ったクラリオさんが大興奮で俺に駆け寄ってきたのが冒頭のセリフ。


 クラリオさんはどうやら元勇者パーティーの一人で、ラビコと知り合いらしい。


 どうにもこの人がルナリアの勇者を名乗り行動していたっぽいが、真相はどうなのやら。




「私の社長が巨大狼を倒し、桁違いの力を持った女を追い払ったんだ、そちらに断る権利は無いよ~?」


 クラリオさんが俺の手を握ろうとした瞬間、ラビコの紫の魔力が込められた杖を顎に当てられ、彼女の動きが止まる。


「くっ……ラビコめ……いや、そうだな、まずは感謝を述べるべきか。ありがとう、勇気ある少年と女性たち。おかげで命を救われた」


 軽くラビコを睨んだあと、クラリオさんが礼儀正しく頭を下げお礼を言ってきた。



「質問の内容は聞くまでもなく分かる。ルナリアの勇者のことだろう」


 ルナリアの勇者。そう、その人物の噂が今回の発端。


 それを確かめにわざわざ冒険者の国まで来たんだ。俺は興味本位だが、元パーティーメンバーだったラビコは真相を知りたがっている。


「分かっているならさっさと話してもらおうか~。その噂を聞きつけ私たちはここまで来たんだ」


 ラビコが俺の横に立ちクラリオさんを睨む。


「……しかし驚いた、まさかペルセフォスの東端、ソルートンにいるラビコのところにまで噂が広がっているとはな……やはり彼の名は世界の人に勇気を与え、行動を起こさせるということか……」


 紺色の騎士が着ているような丈夫で清潔感のある制服。男物みたいなズボンに巨大な大剣。パッと見だとクラリオさんは戦士系の冒険者の男にも見える。


 そういやダンジョン入る前の広場でルナリアの勇者を名乗る男二人に女二人のパーティーが入っていった、とか聞いたが、クラリオさんがパッと見で男性に見えてそう表現していたのかも。


 実際のクラリオさんのパーティーは男性一人に女性二人にクラリオさんの四人パーティー。


 他のメンバーは、先にこのダンジョンにいて負傷していた男性二人のパーティーを地上まで運んでもらったのでここにはいないが。



「……なんでその名を出した。何に利用しようとした」


 ラビコの口調がちょっと厳しい。


 俺は部外者ではあるものの、ルナリアの勇者さんが雲隠れをした理由を考えれば、その名を世間に出すのは控えたほうがいいと思う。ましてや事情を知る元仲間だったら、なおさら。


「…………彼の失踪以降、蒸気モンスターによる被害が目に見えて拡大し始めた。負傷者、失踪者、死者、場所によっては街が丸ごと消え去ったデータもある。毎日本部にそのような世界各地の被害状況が入ってくるが、私はそれを数字で見ることしか出来ず心が痛かった」


 クラリオさんが一度目を閉じ、決意したかのように話し始める。


 蒸気モンスターによる被害か。


 俺はこの異世界に来て日が浅いが、それでもかなり蒸気モンスターと遭遇している。これを年単位とかで考えると、戦う力のない人にとっては危険な数値かもしれない。


 街が丸ごと消滅……ソルートンもその被害に遭いかけた。元勇者パーティーメンバーのみんなとベスの活躍でなんとかそれは防げたが……。冒険者が少なく、戦力のない街だと、抵抗するまもなくやられていたかもしれない。


 しかし本部だのデータだの、クラリオさんって何者なんだろうか。


「各国が被害状況により独自に対策を実行してはいるものの、動きも人員も足りていないのが現状だ。そして騎士だからといって蒸気モンスターに勝てるわけではない。むしろ国民を守ろうと動いた騎士のほうに被害と負担が増え、国としても騎士の命を守るために動きが鈍くなっている。金も戦力も整っていない国では騎士を派遣する街の優先度が出来てしまい、人口の少なさで優先度が低く切り捨てられた街だってある」


 ……厳しい現実の話だが、蒸気モンスターを相手にして生き残れる騎士は相当少ないと思う。


 武器だけでは無理ゲー。魔法的なスキルが使えないと、蒸気モンスターに対して決定打は難しい。


 さらに銀の妖狐のような上位蒸気モンスターには、魔法だけでは勝てない。世界で有数の大魔法使いであるラビコですら銀の妖狐には勝てない、と言っているんだ。


 さぁ、この世界にラビコクラスの魔法か魔法的スキルを使える騎士がどれだけいるのか。


 俺はこれまで多くの国と人を見てきたが、ラビコを除けば中クラス以下蒸気モンスター相手に優位に戦える人間は、柱魔法の使い手、魔法の国の王女様であるクロだけだろう。


 上位クラスになると対等以上に戦えそうなのは……正体不明のケルベロスやジェラハスさん魔王ちゃんを除けば、エルフを名乗ったエルメイシア=マリゴールドさんぐらいだろうか。


 うん、指で数えられるレベルで、ほとんどいない。


「国が動かないのであれば、我々が動くしかない。オードリオ=クラット様は冒険者センターを立ち上げて以降、世界各地に冒険者センターを作り冒険者の育成に力を入れた。それは街を守るため、人を守るため、民間レベルで蒸気モンスターの被害を減らそうとしたんだ」


 冒険者センターを立ち上げたオードリオ=クラット? はて誰だろうか。相当昔のお話だろうか。


「そして私はクラットの名と想いを引き継いだ。運の良かったことに、この時代には勇者と呼ばれる男がいる。実際彼の活躍は素晴らしく、冒険者センター千年の歴史を振り返っても類を見ないほど蒸気モンスターの被害が減った。……だが、彼の活動停止以降、再び蒸気モンスターが猛威をふるい各地に被害が増えた」


 ルナリアの勇者パーティーは世界各地を巡り蒸気モンスターを倒していたらしいしなぁ。それがいなくなると、目に見えて被害が増える結果になったのか。


「驚いたのはペルセフォス王国のソルートンの話だ。上位蒸気モンスターである銀の妖狐の襲撃、その報告を受けたとき、正直私はソルートンという街が消滅したのか……と覚悟した。ソルートンには多くの元仲間がいる。彼等の安否は……と不安になったが、見ると冒険者の活躍により銀の妖狐を人的被害ゼロで撃退と書いてあり、私は目を疑った。……あの銀の妖狐だぞ、我々も対峙したが、勝てる要素はゼロ。それをどうやって……と。報告書を読み進めると、元ルナリアの勇者パーティーのみんなと街の冒険者が一丸となり、最終的には話し合いで銀の妖狐が帰っていったとあって、思わず呆けてしまい、しばらく口が閉じられなかったぞ。話し合いってどうやったのか、と、くくっ」


 報告書ってのは、ソルートンの冒険者センターからの報告書ってことだろうか。


 まぁ普通に考えたら助かったのが奇跡で、本当によく生き残れたと思う。


「そして活躍した冒険者の筆頭としてラビィコールと書いてあり、それ以降ラビィコールによる蒸気モンスターの撃破報告が世界各地から届き始めた。そうか、あのグータラわがまま魔女、二十歳にしてついに正義の心に目覚めたのか! と私は嬉しくなってな。ラビコの活躍が世界に出て以降、不思議と各地の冒険者の活動が盛んになり、蒸気モンスターの被害が減ったとのデータが出て、私は決意した」


 あのグータラわがまま魔女……元お仲間であるクラリオさんもラビコに対してそういう印象なのね。正解だけど。


 ああ、正義の心は無いです。ラビコはほぼ全て私欲です。


「やはり世界は英雄勇者を求めている。皆が憧れる勇者さえいれば、冒険者のみんなの活動が盛んになり、蒸気モンスターの被害も減る。私もラビコに続き冒険者の皆の心を支える勇者になりたい……いや、ならなければ、と」


 俺たちの蒸気モンスター撃破の話は全部ラビコの成したこと、になっているからな。ラビコ曰く、強すぎる力は争いを生むから、だっけ。


 俺も別に有名になりたいわけではないし、ラビコが元お仲間の回復ちゃんの件を踏まえそう判断したのならそれに従うまでだ。



「ふ~ん、それで手っ取り早く勇者になるためにルナリアの勇者を名乗ったってこと~?」


「ち、違う! それは誤解と私の知名度の無さが合わさって出来上がったもので……いや、意図しない形で噂が広まってしまったが、それに乗っかってしまった私の心の弱さも……だが事実、ルナリアの勇者の復活の噂以降、冒険者の活気が戻ったんだ!」


 ラビコに目を合わせず、クラリオさんが下を向いてしまった。


「……最初『私はルナリアの勇者の元パーティーメンバーのクラリオ=クラットである!』と名乗り活動を再開したんだ。だけど前半部分のネームバリューが強すぎたらしく、広まった噂は『私はルナリアの勇者である』になっていて……その、いつしか『あのルナリアの勇者が復活した』になってしまって、その……ええい、もう乗っかってしまえ、と……それっぽく見える男装に目を隠すマスクとかして、その……最近はまんま『私がルナリアの勇者である』って言っちゃって……マズイなぁーと思いつつも、その……」


 クラリオさんがモジモジと体をくねり、申し訳無さそうにラビコを見る。


 あー……伝言ゲームの大失敗に、後には引けず乗っかったパターンか……。



「はぁ~……まぁほとんど予想通りだったけど~実際に聞くと溜息だね~。クラリオは冒険者センターを継ぐ身分だし~ルナリアの勇者が、の噂以降データとして世界の冒険者が活動的になり、結果蒸気モンスターの被害が減ったとなると、その広まったウソを維持したくなるのも分かる話かな~。ま、それも今日までだけどね~」


 ラビコが大きく溜息。


 ウソの情報で支えられている平和は長くは続かないからな……ここらで終わりにしないとならん。



「ラビコ、その、そろそろ紹介をしてもらえないだろうか」


 ラビコとクラリオさんは知り合いだからいいだろうけど、俺には誰だかさっぱりなんだよね。


「あ~ごめんごめん、こっちだけで話進めちゃったね~。彼女とは昔勇者パーティーのメンバーで一緒だったんだ~。名前はクラリオ=クラット、冒険者センター創設者オードリオ=クラットの血を受け継ぐ一族で~冒険者センター本部現代表キースレイ=クラットの娘、次期本部代表が決まっている結構な身分の女さ~あっはは~」


 ラビコが笑いながら紹介。



 ぼ、冒険者センター次期代表……? 冒険者センターって世界のどの国にも、どころか街には必ずある民間施設で、数にしたらかなりの組織だぞ。


 魔晶石と化粧品販売で有名な世界的企業、アンリーナがいるローズ=ハイドランジェより上、というか、世界で一番有名な民間組織なのでは……。


 そこの現代表の娘さん……とんでもない人と知り合えた予感。






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