五百十二話 冒険者の国ヘイムダルトとルナリアの勇者様
「魔法の国セレスティアの南側に~大陸が別れて出来たような大きな島があってさ~そこが冒険者の国ヘイムダルトなのさ~」
ラビコが紙にサラサラと略図を描いてくれる。
ほう、魔法の国セレスティアの南側にある国か。冒険者の国ヘイムダルト。猫耳フードをかぶったクロ曰く、冒険者センター発祥の地ときたか。
一応俺も冒険者だし、冒険者センター発祥の地ってのにはちょっと興味がある。
あと、ルーインズウエポン。
「魔晶ウエポンってのは~冒険者の国ヘイムダルトのとあるダンジョンのみで手に入る強力な武具、通称ルーインズウエポンを参考に作られた、いわゆる廉価版、ってとこかね~」
なんだ、魔晶ウエポンよりそっちのルーインズウエポンってやつを手に入れたほうが良さそうじゃないか。
「ルーインズウエポンってのは超強力で~武器を手にし、少しの才能があれば蒸気モンスター相手だろうと対等に戦うことが出来るっていう~。ただし、ルーインズウエポンを手に入れるには命を数個用意しないとならない~って言われているのさ~あっはは~」
い、命を数個?
無茶言うな。普通の人間に割り当てられた命ってのは一個のみだ。キノコ好きのヒゲの配管工でもない限り、複数所持は無理だろ。
「……ようするに、そのダンジョンってやつの難易度がとんでもないってことか?」
「そういうこった、キング。一攫千金や強力な武具を夢見てそのダンジョンに潜る冒険者は数しれず。他とはあまりにも違う難易度に、自身の力量の無さをすぐに認めて浅い階層で小銭拾って逃げ帰れたら頭のいいヤツ。欲を出し、もう一層だけ……とか思ったヤツは、その後そいつの姿を見た人はいないという……とかになんだよ、ニャッハハ」
夕飯のエビかき揚げ丼だけじゃ足りなかったっぽいクロがデザートを頼みながら言うが、うっへ……なんだよそのダンジョン、甘い餌ぶら下げた冒険者ホイホイみたいじゃねえか。
「たま~に一人ぐらい持ち帰れる奴がいて~それはすごい、とそいつを讃えて国を上げてのお祭り騒ぎが起こるかな~。正確な数字は知らないけど~体感ではルーインズウエポンがあるっていう深い階層に到達して、生きて帰れる冒険者は年間一人いればいいほうって感じかな~。生存者ゼロが当たり前~あっはは~」
こちらも物足りなかったっぽいようで、水着魔女ラビコがデザートのブドウたっぷりケーキを注文しながら笑う。
ゼロって……全滅ってことか……。年間にどれだけの数の冒険者が挑戦するか分からないが、そこまで成功率の低いチャレンジに自分の命をベットしちゃアカンだろ……。
でも、それでもチャレンジを決意してしまうほどルーインズウエポンってのはすごいのだろうな。
「なるほど……ルーインズウエポンってのは強力な物なんだけど、手にするにはそれこそ命が数個必要な難易度である。それにはパワーは及ばないが、なんとか人工でそれっぽい物が作れないか、で出来上がったのが魔晶ウエポンってことか?」
「そゆこと~。でも王の眼、千里眼持ちの社長と神獣覚醒ベスなら余裕でダンジョン行けるかもよ~? 護身用ってんなら、そっち狙ってみる~? あっはは~」
正社員五人娘のセレサが持ってきてくれたケーキをうっとり眺めながらラビコが言うが、護身用の物を求めて命懸け、は意味なくね……。
緊急用に強い武具は欲しいが、ルーインズウエポンってのは無理っぽいな……やはりお金は湯水の如く消費するが、入手に命の危険がなさそうな魔晶ウエポンをターゲットにしたほうが賢明か。
冒険者センター発祥の地だったり、ルーインズウエポンが眠るダンジョンだったり、かなり俺の冒険心をくすぐる場所っぽいなぁ冒険者の国ヘイムダルト。
「まぁ魔晶ウエポンだったりルーインズウエポンだったりは置いておくとして、俺はその冒険者の国ってのにとても興味がある。一応俺も冒険者だしな!」
「はぁ~? 社長は公式に「街の人」じゃない。変に背伸びしないほうがいいんじゃないかな~あっはは~」
ラビコが爆笑。
俺って冒険者センターで鑑定してもらった結果、街の人って出たんだよね……。発行された冒険者カードにも「街の人」って刻み込まれたし。
でもこれは職業じゃなくて、測った機械での戦闘力なりの数字が街の人レベルってだけの話。
別に能力がなかろうが、カードが発行されたのだから冒険者を名乗ることは出来る。どんなに冒険者としての力が弱くても、それは俺の自由だろ……。
一応街の人のレベルも「2」に上げたんだぞ。
「社長が行きたいって言うなら止めないし~妻としてついていくけど~」
誰が妻か。
「そういやラビコもちょうど用事があるんだろ? 近々ヘイムダルトに行かなきゃとか言ってたし」
あんまり乗り気な感じではなかったが、そんなことさっき言っていたよな。
「うん、まぁ……なんというか~絶対にありえないんだけど~確認には行かなきゃな~って」
やはりラビコがあまり乗り気ではない雰囲気。絶対にありえない? 確認? はて、その冒険者の国ヘイムダルトで一体何が起きているというのだろうか。
「たまにそういう噂は流れるんだけどさ~大抵が注目を浴びたいが為の嘘だったりなんだけど~どうにも今回は雰囲気違うみたいで~。元メンバーとして見過ごせないというか~でもそんなわけはない、というか~」
なんだかラビコにしては珍しい、随分と歯切れの悪い言い方だな。
表情は、困惑している、が一番当てはまりそうな顔だろうか。
元メンバー? ラビコが所属したことのあるところなんて、俺が知っている限りはあれしかないが……。
「ガトが漁船であちこちの国に行っているんだけど~最近、各地で盛り上がっている噂ってのを耳にしたらしくて~……」
「ア……アニキー!! ルナリアの勇者が……あのルナリアの勇者が帰ってきたらしいですぜ! 冒険者の国で活動を再開したとか! どうにも今回は定期的に現れる偽物じゃないっぽいですぜ! ホラ! あの所持者が限定されている強力な武器、ルーインズウエポン持ちらしいとか!」
宿の入口から血相変えて俺の元に走ってきた世紀末覇者軍団の一人、モヒカン一号。
ル、ルナリアの勇者……?
確かこのソルートン出身の冒険者で、ラビコ、宿のオーナー夫妻であられるローエンさんにジゼリィさん、漁船でお世話になったガトさんたちがいたパーティーのリーダーだった人。
「あ~……ついにこの大陸の外れの田舎街、ソルートンにもその噂が流れてきたか~……」
モヒカン一号の持ってきた情報にラビコがため息をつく。
ルナリアの勇者って、世界各地で蒸気モンスターを相手に戦いを挑み、撃破。その功績は世界で英雄と呼ばれ讃えられた。
だがあるとき突然パーティーを解散して雲隠れしてしまったとか。
そしてその理由は、この世界で唯一の回復魔法の使い手の女性を守るため。それ以降全ての情報をシャットアウト。元パーティーメンバーだったラビコですら行方を知らないぐらい、徹底していた。
うどん屋をやっているガトさんの奥さんに聞いても、本人につながる情報は言えないの、と言われた。ローエンさんやジゼリィさんも絶対にルナリアの勇者の詳しい話はしない。
……相当の決意を持った行動と思われる。それなのに活動を再開……そんなことありえるだろうか。




