五十話 友とは人生最高の宝様
さぁ来い、伝説の男よ。
「……」
「………」
「…………」
ピュロロロロローヒュロローヒポッ
返って来た!
街のほうから残像を残しながら走る一人の男。
「な、なんじゃーありゃあ」
オーナーが驚きの声を上げる。
俺もあれを初めて見たのなら、同じ反応をしていたのだろう。だが今の俺には勝ちもたらす勝利の男にしか見えない。
「友よ、助けを、呼ぶ声が、聞こえた」
返事で吹いた笛の音に呼び寄せられた動物たちがハーメルの後ろにずらっと並んでいる。
犬猫サル豚牛ヤギ、そして巨大なクマ。
クマの身長は見上げるほど高い。五メートルはありそう。
く、クマさんが大きすぎないか。ハーメルいなかったら足ガックガクで座りこんじゃいそう。
「く、くく、熊……ひいっ」
オーナーが悲鳴を上げるが、多分大丈夫。大丈夫だよな?
「クマ、大丈夫、名前も付いてる、メロ子、メロンが大好き女子」
女子? メスなのかメロ子。名前と違って迫力半端ねぇけど。
「ハーメル、来てくれてありがとう。この農園のオーナーがイノシシに畑を荒らされて困っているんだ。イノシシを平和に追い返すことは出来ないだろか、友よ」
「出来る、友の願い、想いを笛に乗せる」
ハーメルがキッとトウモロコシ畑のイノシシを睨む。
クマのメロ子もずいっと首を動かす。他の動物達もハーメルの見た方向を見る。
なんという統率力……この友すげぇわ。
ピュロロローロロローヒポッ
笛を吹きつつハーメルが右足を一歩踏み出す。
動物達も一歩、歩みを進める。
ピュロロッロロローヒポッ
さらに一歩。イノシシ達がザワつき始める。
一番大きなイノシシがハーメル達と対峙するように体を向ける。
さすがリーダーっぽい奴。いきなりは逃げ出さないか。
ピヒューピヒュヒューロロローヒポッ
ハーメルの笛の雰囲気が変わった。
クマのメロ子が両腕を上げ威嚇のポーズ。周りの動物達も静かに威嚇のポーズ。
これ、正面から見たらすごい迫力だろうな。俺多分、漏らしてる。
「ボヒッ、ボヒッ」
リーダーと思われるイノシシが一歩下がる。
ピュロローヒュリリリリリッヒポッ
どうやらハーメルの最終警告っぽい音が鳴り、集団のイノシシの後ろのほうの何匹が逃げ出した。
それを感じ取ったリーダーイノシシが吠え、集団が山に向かって走りだした。
「すげぇ! すげぇぞハーメル! 追い返したぞ!」
「ほっほっほ、これはすごいわい。ええ友達を持ったのぅ」
ハーメルが動物達をねぎらい、こちらを向く。
「あいつらも必死、だったみたい、でも、ここは、だめだ、と伝えた」
うっそ、あれ言葉交わしていたのか。マジ奇跡の男だな、ハーメル。
任務完了、ハーメルとがっちりハイタッチ。
オーナーがお昼を用意してくれ、俺、ベス、ハーメル、動物達が勝利の宴を楽しんだ。
ああ、俺とベスは何もしていない。ご飯が美味しいし、まぁ、いいだろう。
クマのメロ子のメロンの食いっぷりがすごかったなぁ。
報酬はハーメルと半分ずつにした。
ああ、俺は何もしていない。
ああ、友達って人生で最高の宝だよな。




