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【書籍化&コミカライズ!】異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが ~職業街の人でも出来る宿屋経営と街の守り方~【WEB版】  作者: 影木とふ「ベスつよ」②巻発売中!
12 異世界転生したらお姫様が集まったんだが

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四百八十五話 俺のこの手に魔法を 3 俺の趣味は登山様


 人生にはどんなに辛くても、歯を食いしばり登らなくてはならない山があるという。



 それは人それぞれに、ライバルだったり試験だったりと形を変え立ちふさがる。当然それを乗り越えようとすれば無傷では済まないこともある。


 無理をせず、今の変わらない妥協の日常で満足する道も人生の選択としては正しい。だがその苦難に耐え、立ちふさがった山を乗り越えた時、人は心からの笑顔と輝かしい栄光をその手に掴むという。



 今回は男達の遥かな夢を時代を越え追い求め、受け継がれた熱い想いを仲間と共に分かち合った、そんなお話。


 紳士諸君には残念なお知らせだが、女性はほぼ出ない。覚悟してくれ。




「も、もうだめだよ兄貴……俺、見た目より体力ないん……だ……」


「おい、しっかりしろ! そこまでモリモリに鍛え上げた筋肉は何の為なんだよ! 女性にモテたかったからという不純な動機だったとはいえ、結果筋肉はついた。残念ながら惜しくもその後モテることはなかったみたいだが、外に出ず、室内トレーニングだけで得た筋肉は裏切らない、そうだろう!」


 重い荷物を背負い、青い顔でグラグラと体を揺らす世紀末覇者軍団の一人、モヒカン一号に俺は声を上げ檄を飛ばす。


 俺だって童貞だし言う資格はないのかもしれないが、女性に好かれたいのなら、せめてモヒカンヘアーはやめようぜ。


「アンタ……そんなひょろい体なのに、意外に体力あるんだな……さすが英雄と呼ばれるだけはあるぜ……」


 肩で息をしている状態ではあるが、こっちはまだ大丈夫そうなドレットヘアー二号。


 屈強(二人ハリボテ、俺もやしっ子)な男達とはいえ、昨日の早朝から丸一日山の中を歩き回り、体力と気力は限界に近付いている。俺も膝がガックガクだが、隊のリーダーとして決して顔は下げないぞ。


「ベッスベッス」


 だいぶ先に行っていた愛犬が元気よく戻ってきて、俺の足に嬉しそうにまとわりつく。どうやらこの先に休めるポイントを見つけてくれたようだ。



「ゴクッゴク……ごっふぅげふぅ!」


「落ち着け、ゆっくり飲むんだ一号! 水はいくらでも湧いてくる」


 五十メートルほど進んだ先に飲める湧水が湧いているポイントを愛犬が見つけてくれ、そこで俺達は久しぶりに腰をおろし乾いた喉に水分を含ませる。


「しかしどうする、これじゃ八方塞がりだぜ。高い金で買った地図は偽物、下手に動き回ったせいで、今ここがどこなのかも分からない始末だぜ」


 ドレット二号が暗い表情ながらも冷静に言う。


 

 ことは一昨日に遡る。


 ナディさんと別れた後、冒険者センターで待っていた彼等が俺がずっと求めていた物の情報を得たと、この話を持ちかけてきたのだ。


 俺達はその情報に歓喜し熱く語り合い、すぐに商店街で登山グッズを人数分買い漁った。


 翌朝、情報筋から大金を出し買った地図を元にソルートンを出発。馬車で二時間ほど北側にある大きな山を登り始めた。


 ソルートンを出る時水着魔女ラビコに「登山ねぇ~、社長にそんな趣味あったっけ? しかもそいつらと一緒に~? な~んか怪しいけど~男だけで行くのならまぁ……」とジロジロ睨まれた。


 もちろん俺に登山を楽しむなんて趣味はない。だが俺が追い求める物をこの手にするためには山を登り、危険を乗り越えてでもその場に行かねばならないのだ。


 ロゼリィにはすごく心配されたし、クロは面白そうだから一緒に行くと聞かなかったがなんとか説得し、男だけでパーティーを組みここまで来た。アプティさんは無表情で興味なさそうだったので、今頃宿で紅茶を楽しんでいるのではないだろうか。



「……遭難……と言ってしまえばすごくしっくりくるが、そういうありきたりな言葉は使いたくないな。地図は偽物だったが俺には熱い想いを感じる。目的地には近付いている。つまり、今はその地へ辿り着くための複雑な手順を踏んでいる、そういうことさ」


 山に入ってすぐに地図がデタラメだったと分かり焦ったが、俺達は地形からおおよその予想を立て、お互いを励まし合いここまで来た。熊などの凶暴な野生動物に怯えながら歩き回り、夜少しでも寝ようと見つけた洞窟で野犬の群れに襲われもしたが、ベスが吼えそいつらを一喝。


 結果、心を通じ合わせた野犬の群れが俺達を囲み守ってくれ、安心して寝ることが出来た。


 ……今も俺達の後を数十匹の野犬達がついてきているが、たまに彼等が吼えたかと思うと、何か大きな動物がドスンドスン逃げていく音が聞こえるので、人と動物は分かり合える、そう感じた遭難一日目の朝。



「地形から見るに、あの辺りなんか怪しいと思うんだ」


 遥か先に見える山の中腹。そこの森の木の生え方が不自然なんだよな。周囲の木よりちょっと背の低い木が固まって生えている。なんとなく、一度人の手が入ったように見えるんだ。


 日帰りの予定だったので食料も尽き絶望の状況ではあるが、これがラストアタックだ、とお互い目を合わせ無言で頷き合う。



「行くぞみんな。目指すは伝説が眠っているという、数百年前栄華を誇った豪商の別荘跡。冒険者の間で噂はされど、いまだ誰も見つけられていないという、通称エロ伯爵の館へ! 俺達が見つけ、その想いを継ぐんだ!」


「行こうぜ兄貴! わざわざ別荘まで作って情報封鎖して隠したっていうんだ、きっととんでもねぇエロいやつにちげぇねぇぜ!」


「やっぱ英雄であるアンタに情報出して正解だったぜ! 俺達だけじゃ不確かな情報なのにも関わらず、ここまで前向きに来れなかっただろうしな。ついていくぜ……この命、アンタに預けるぜ!」


「ベッスベッス!」


「ワオンワオン!」

「ワンワン!」

「ワオーン」


 男達が想いを込め熱い拳を天に向かいかざすと愛犬も楽しそうに吼え、現地集合で知り合った野犬達がリーダーと認めたベスに続き吼える。


 なんと心強い声なのか。俺は幸せ者だな……同じ想いを共有出来る仲間がこんなにも……。



 待ってろエロ伯爵。お前が必死に隠したっていう伝説のエロ本を俺達が次世代に継いでやる。



 え、魔法の話どこいった? いいんだよそんなもん、後々。


 まずはエロ。エロがなくちゃあ人間生きていけないだろ。優先順位ってやつだ、な?








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