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12 異世界転生したらお姫様が集まったんだが

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四百八十二話 セレサの一人暮らしと五人娘の想い様

「宿から近いんだな」


「はい、それが物件探しの一番の条件でしたから。その、少しでも隊長のお側で暮らしたいなーなんて、なんてー……あはは」



 正社員五人娘の一人、セレサが一人暮らしを始めたという物件。


 なんと宿から歩いて五分の場所にある、三階建ての新し目の建物だった。セレサが恥ずかしそうに笑っているが、良いところじゃないか。


 賃貸で、お値段は高くもなく安くもなく、毎月のお給料でそこそこ余裕を持てる範囲だそうだ。バイト時代では厳しかったが、正社員になってお給料が相当増え、これならいけると踏んで決断したそうだ。


「俺に相談してくれれば、少しは融資したのに」


 家具とか、お祝いで多少はお金出しても良かったんだが。


「あ、いえ、一人で全部やってみる、が目標だったのでお気持ちだけで。そして流され……うう、ま、負けない」

「セレサ泣かないのです。隊長はこういう人で、そういう鈍感なところが逆に良いところなのです! ロゼリィさんも苦労しているみたいだし……その、私と一緒に頑張るのです!」


 あれ、なんかオリーブがセレサの背中を撫でて慰めているが、なんかあったのか?


「う、うん私は攻め続ける! 隊長、じ、実は私ってドジっ子なので、鍵をなくしたら困るからって予備の鍵を作ったんです。隊長は私よりしっかりしているから、よかったらこの予備の鍵を持っていてもらえません……か?」


「え、セレサって宿じゃすっげぇ頼れるしっかり者のお姉さんじゃん。プライベートだと力抜けてドジっ子になるのかぁ。それちょっと普段とギャップあって可愛いな。いいよ、俺の部屋に鍵置いておくよ」


 セレサが真っ赤な顔で震えながら予備の鍵を渡してきたので受け取る。うっそ、セレサって家じゃドジっ子なのか。宿じゃミスなんて滅多にしないウーマンなのに。


「か、かわ……やった……! やったよオリーブ、隊長に可愛いって言われた!」

「う、うん、やったのです。鍵の意味は通じなかったけど、褒められたのですセレサ!」


 二人が涙ぐみながら抱きついているんだが、うーんこの美女が二人抱き合う感じ……写真に撮って後でじっくり見たいんだが、だめっすかね。


「うひゃあ、相変わらず手強いなー兄貴は。でもまぁこれが私達が好きな兄貴だしな、変わってなくて私は安心したぞ」


「恐ろしいまでの鈍感体質……これもう脱いで迫ったほうが早いんじゃ……隊長は押しに弱いっぽいし、五人でいけば余裕で……」


「ロゼリィさんやラビコ様が近くにいない今しかチャンスは無い系。ヤっちゃうタイム?」


 なんか他の三人の動きがおかしいぞ……ってあれ、一階共用ホールにある郵便受けのセレサの部屋のネームプレートにセレサと俺の名前が書いてあんだけど、なんで。


「あ、これはその……女性の一人暮らしは防犯が必要かな、と思いまして、男性の名前も欲しいなーと隊長の名前をお借りしてしまいました……だ、だめでしたか……?」


「ああ、そういうことか。分かった、いいよ。俺で良ければガンガン使ってくれ。それで俺の大事なセレサを守れているのなら嬉しい。みんなも一人暮らしをしたとき、不安だったら俺の名前を使ってくれ。俺はみんなを守りたいんだ」


 俺の視線に気が付いたセレサが説明してくれたが、そうか、女性の一人暮らしだもん不安だよな。変な男が近寄ってこないように男もいるって匂わせたのか。それは正解じゃないかな。まぁ、俺の名前がそういうのに効果があるのか分からないけど。


「俺の大事な……! ど、どうしようオリーブ……!」

「お、落ち着くのですセレサ、これはいつもの隊長の無意識告白なのです。あと隊長、それ私にも目を見て言ってくださいなのです!」

「おお、私も一人暮らししたら隊長の名前入れとこっと! 二人暮らしっぽくて最高だよな!」

「隊長との連名ネームプレートを作る目的の為だけに一人暮らしも……あり、かな……」

「私はもうワンランク上を目指して、隊長に加えベスちゃんの名前も刻み込むん」


 ま、待てみんな、五人同時に喋られても俺は聞き取れねぇっての。




 いつまでも共用入り口で騒ぐのは良くないか、と、すぐに階段を登りセレサが借りている三階の部屋へ。


「すーはーすーはー……い、いざ一人暮らしの女性宅へ……!」


 人生初だろう、女性の一人暮らしの部屋へ入る準備。俺は過度に深呼吸をし、体の震えと火照りと興奮を抑える。


「そこまで意気込まなくても……隊長はもはやアプティさんと二人暮らし状態じゃないですか」


 セレサが溜息混じりに指摘してくるが、俺がアプティと二人暮らし? ばか言え、バニー娘ことアプティの部屋は宿にちゃんと借りている。


 なぜかほとんどその部屋には寄り付かず、鍵をかけてあるはずなのにどうやってか突破してきて俺の部屋にいるけど。


 鍵のかかったドアを無断で突破してきて俺の部屋に居座っていることを二人暮らしとは言わないだろ。俺の元いた世界ではこういうのを不法侵入と言う。



「おお、綺麗……って本当に何も置いていないんだな……」


 五人娘に続き俺もセレサの部屋に入るが、そこそこの広さの部屋内にベッドと食卓テーブル、タンスの前に服が山積みになっているぐらい。


 引っ越してきたばかりらしいし、まぁこんなもんなのかね。期待していたような生活感のある女性の部屋ではなかったが、でも部屋内がセレサのいい香りがする。肺いっぱいに吸っておこう。


 ……お、山積みの服の端っこに下着っぽいものが見える……あれこっそり持って帰れないかな……無理かな……。



「ではほとんど宿の料理ですが、いただきましょう!」


 セレサの部屋に来る前、一旦宿に戻り持ち帰り用に売っている惣菜やら、イケボ兄さんがわざわざ作ってくれた冷めても美味しいトマトパスタ六人分をテーブルに広げお昼ご飯タイム。


「うん、美味しい。やっぱりジゼリィ=アゼリィのご飯は最高だなぁ」


「なのです。ここのご飯を食べたら他のお店には行けないのです」


 みんなが笑顔でイケボ飯を頬張る。


 セレサが一人暮らしをするならこれだけは絶対に買いたいと決めていたらしい、自慢の魔晶石コンロで沸かせたお湯で紅茶もいただく。


 宿に近いから、ご飯は宿で食べるそう。家では簡単な調理しかしないので、それぐらいの使用頻度なら燃料代が高い魔晶石コンロでも大丈夫だそうで。


 魔晶石はお高いからなぁ……。




「……隊長」


 お昼も食べ終わり、そろそろ宿に帰るかと思っていたら、セレサが神妙な顔で近寄ってきた。


「その、本当にご無事で良かったです。隊長が銀の妖狐にさらわれたと聞いた時、もう二度と会えないんじゃ……と悪い方悪い方へと考えてしまい涙が止まらなくて……。アンリーナさんの船でロゼリィさん達が迎えに行くとき、私達も乗せて下さいと懇願したのですが、ラビコ様に止められてしまって……」


 そうか、俺のことは街の人には言わなかったと聞いたが、宿の一部の人には言ったのか。ローエンさんジゼリィさんは当然として、セレサ達も聞かされていたのか。


「なのです。五人全員で乗ろうとしたのですが、ラビコ様が私が必ず連れて帰るから隊長が帰ってくる家、宿を守ってくれと言われたのです。……正直悔しかったのです、自分に戦う力がないことが。だから私達は全力で宿で働き、隊長のお部屋をみんなで毎日掃除していたのです」


 オリーブが右腕に絡んでくるが、五人全員乗ろうとしたのか。まぁ……ラビコは止めるだろうな。そして俺の部屋の鍵って、宿管理のスペアキーがあるんだよね、なぜか。入ろうと思えば誰でも入れるフリーダムルーム。


 ああ、アプティはその鍵を使わず入ってくるんだ。どうやってんのか、本当に謎。


「だからよ、アンリーナさんから兄貴もみんなも無事って手紙が来た時、全員で泣いて喜んだんだぜ」


「その手紙が来るまでに、放心状態だったセレサが何枚のお皿を割ったことか……」


「そうそう、あのボーニングシェフも砂糖と塩を間違えたりしていた。あんなミス、普通しない。みんな、心が乱れていたん」


 ヘルブラにアランス、フランカルも体を寄せてくるが、最後のその話マジで? ……無敵のイケボ兄さんまでもが……。


「いいですか隊長、あなたはこの宿の柱なんです。隊長がいるからこのメンバーが揃い、ずっと維持されているのです。私達だって隊長がいなければ、アルバイトである程度稼いだら王都でお仕事を探そうと考えていましたし」


 そういやセレサが以前言っていたな。この宿に来る前、王都にお仕事探しに行こうとしていたが、宿のご飯食べて衝撃を受けてアルバイトに応募したって。


「私はこの宿が好き。ジゼリィ=アゼリィのメンバー全員が大好き。いつも笑顔で溢れていて、毎日がとても幸せな空間なんです。そしてその空間を作り上げた中心人物、それがあなた。あなたがいるからみんなが集まり、あなたを信頼しているから安心して働いている。みんなあなたのことが好きなんです……好きだから心配だったんです……あなたがいなくなってから毎日、いつもいるはずの席を見てはあなたを思い出し……もし隊長が帰ってこなかったら……そう考えたら涙が止まらなくて……私……。いなくならないで下さい……もう二度と私達の前からいなくならないで下さい……あなたがいないと、隊長がいないと私達の心が持ちません……。もうこの際はっきり言っておきます、私、セレサ=フェイバーはあなたのことが大好きです!」


 セレサが涙混じりに訴えてくる。


 そうか、俺はこんなにもみんなに心配をかけてしまっていたのか。


 ……まぁ俺が自発的にいなくなったわけではなく、銀の妖狐とその妹と判明したアプティさんがね、島に連れ去るっていう行動を起こしたわけで……って言い訳だな。宿からいなくなって心配かけてしまったのは事実。


 心が持たない、か。そういやそのセリフ、銀の妖狐の島のメイド達にも言われたな。みんな、元気かなぁ。



「あ、ず、ずるいのです! わ、私も隊長のことが大好きなのです!」


「私もだぜ兄貴! 今度二人で筋トレデートしようぜ!」


「どさくさでそういう大事なこと……そういうのは落ち着いた雰囲気のある場所がいい……だから隊長、今度二人でご飯を食べにどうですか」


「隊長は私に美味しいご飯とお金をたくさんくれた。私はエサに釣られた魚がごとく隊長が大好き。言い方は悪いけど、生きていくうえで最も大事な物を隊長はたくさんくれた。あと優しさも。だから、好き」


 だから待てって、みんなそれぞれに喋りながら抱きつかれたって聞き取れねぇって……!


 

 とりあえずみんなの頭を撫で、大丈夫、俺はこの宿からいなくなったりはしないよ、と断言しておいた。


 うん、俺だってこの宿ジゼリィ=アゼリィが大好きだし、みんながいるこの空間が大好きなんだ。だから俺は大金を出し、ここに家を作った。


 この宿こそ異世界での俺の家であり、帰るべき場所。そしてそこにはみんなの笑顔がある。


 こんな最高の場所を俺が手放すわけがないだろ。


 何があろうが、俺は必ずここに帰ってくる。自分の心にそう誓ってある。



 しかし……五人娘の頭を撫でつつ想像するが、残りの四人全員が一人暮らしを始めたとして、それぞれの部屋のプレート全てに俺の名前が入っているわけだろ……。


 女性の名前は全員違うのに、俺だけ共通で名前がある。うーん、それって大変誤解を生むやつだよね。防犯上やってもいいとは言ったものの、代わりに俺の世間体がとんでもない数値を叩き出しそうで怖いので、彼女達には今しばらく実家暮らしを推奨しておこう。



 あと、セレサの家から帰る時、隙を見て山積みになっている服の中の下着様をこの手に出来ないか試みてみたが、俺の不審な動きに気付いたオリーブさんにニッコリ笑顔で腕を掴まれた。


 異世界の言葉ではなく、現代の言葉で簡単に表現すると『逮捕』。







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