四百七十四話 水の国オーズレイク 10 花火と巨大噴水の幻想世界と口に出てしまった想い様
『お待たせいたしました! それではオーズレイクが誇る技術の結集、ナイアシュートをお楽しみ下さい!』
夜十九時半過ぎ、イベント会場である灯台下公園に特設ステージが作られ、そこで司会者のマイクパフォーマンス的なものが行われた。
いや、薄い鉄板で出来たっぽいメガホン使っていたから、メガホンパフォーマンスか。
「さぁ始まりますわよ師匠! 覚悟はよろしいですか!?」
俺達は十八時半過ぎに濡れてもいい恰好でホテルを出て会場入り。道中、イベントを見ようと集まる観光客で島に渡る橋が大混雑となり、一時規制されるほどだった。
さすがに大国が誇るイベント、見に来ている人の数が半端ねぇ。
そして素晴らしいことに水着の人がたくさんいる。濡れる、ってことすらイベントとして楽しもうという人が多いのか。昼間来た噴水の辺りに陣取ったのだが、周囲が水着の女性天国である。
アンリーナが鼻息荒く腕を引っ張ってくるが、覚悟ってなんだよ。つーかどういうイベントなのか教えてくれ。
ステージを照らしていた明るい照明が消され、辺りは公園の安全上点けている一部の街灯のみになる。おいおい……これじゃあ女性陣の水着姿がくっきり見えねぇじゃねぇか、結構なお金払って水着買ったんだぞ、おい。責任者出てこい。
──ポン……ポポーン
暗くなった夜空に湿気った音と共に微光が打ち上がる。
なんだありゃ、花火は花火だが、素人目に見てもしょぼいのが分かるぞ。見ると、灯台の先の湖に小舟が何隻も停泊していて、そこに乗っている何人もの魔法使いさんが花火を上げているようだ。
すまないが、俺は魔法の国セレスティアで本物の魔法の花火を見たもんだから、採点は厳し目だぞ。ノイギア=ギリオンことノギギが打ち上げる大迫力の連続花火に比べたら、しょぼいの一言。
パーティーメンバーである水着魔女ラビコ、彼女の打ち上げる紫の花火も何度も見ているので、どうしてもそれらと比べてしまう。
……いや、音とか迫力じゃなく、色の変化を重視している感じか。打ち上がった花火は色が赤、青、黄色と変化していく。確かに綺麗だが、これが大国オーズレイクが誇るナイアシュートなのか?
「さぁ来るよ~たま~に魚が飛んで来るから気を付けてね~っと、あっはは~」
ラビコが花火を見ながらニヤニヤ笑う。魚? 飛んでくる? 意味が分からな……
──ボン!!
いきなり腹に響くような重低音が鳴り渡り、湖面が下から圧でもかかったかのように盛り上がり始める。な、なんだあれ。
「来たよ来たよ~水の国オーズレイクが誇るナイアシュートと花火の演舞ってやつさ~」
──ゴゴゴゴゴ!
灯台の先の湖面が何個も盛り上がり、そこから一気に水が上空に打ち上げられる。その高さは驚くことに二百メートル近く。
ふ、噴水だ、あれとんでもなく巨大な噴水だ……すげぇぞ、これ。
「す、すごいです! 打ち上げられた水の花に魔法の花火の色が反射してとても綺麗……」
ロゼリィがうっとりと上空を見上げ感嘆の声を上げる。
確かにロゼリィの言う通りで、雲にまで届く勢いで打ち上がった水が上空で花開き、その水の花にさきほどの色重視の花火の光が綺麗に乱反射。見事な光の水柱が出来上がり、その輝きが湖面にも映る。空と湖面、両方に美しい光の世界が展開されている感じ。
「これです! これが欲しいのです! このダイナミックかつ優美な感じ……これこそ激しく愛し合う二人の挙式に相応しい演出! これさえあれば二人は周りの視線を気にせずその場で求め合ってしまう興奮のステージが……! ──!」
アンリーナが大興奮で何か言っているが、水の打ち上がる重い音であんま聞こえねえ。オーズレイクに来る前にダイナミック云々、と言っていたのを今納得した。
「すっげ、すっげぇなこれ、ニャッハハ! さすがオーズレイク、あそこまでの高さに水を打ち上げ続けられるって技術を見せつけられんなぁ。花火はアタシんとこのセレスティアの勝ちだけどな、ニャハハ!」
やはりクロは魔法の国セレスティアのお姫様なだけあって、花火には辛口ですか。まぁ俺も同感だが。
でも、この天にまで届きそうな巨大噴水と色変化する花火の組み合わせは、さすがに見応えがある。
「……来ましたマスター……土砂降りです……あと魚が三匹」
俺の隣で特に感動もなく興味なさげにしていたバニー娘アプティが、上空を見上げ静かに呟く。
土砂降りと魚? ……なんだそれ、と考えていたら、空からバケツでもひっくり返したような豪雨が降ってきた。
「うわわ! これあれか、打ち上げられた噴水の水か……これは確かに濡れる、だな。つかそれどころじゃねぇ、うぶっ……げほっ、お、俺のとこだけ滝修行みたいな勢いなんですが! んごっ……いってぇ!」
湖面の巨大噴水からは相当離れた場所にいるのだが、ここまで打ち上げられた水が飛んでくるのか。そして場所が悪かったのか、俺のとこだけピンポイントで滝修行。
そして頭に小魚がヒット。いっつ……これ結構危険なイベントじゃねぇか!
「あっはは~さっすが社長~美味しいとこ持っていくな~。毎年たまに魚が混じるんだけど~イベント中多くても数匹ってとこかな~。なのに社長のとこに固まって三匹とか、さっすが社長~持ってるなぁ~あっはは~」
魚がヒットした頭を抑えていたら、水着魔女ラビコが爆笑。一体俺が何を持っているというのか。
どうせ奇跡の確率が起きるのなら、女性陣の水着の紐にヒットしてくれよ。そしたらハラリからのポロリで素晴らしいものが見れたのに……使えねぇ魚さんだぜ。
あとさ、濡れるからって水着で来たのは正解だったんだけどさ、花火優先のせいで公園の照明落とされて女性陣の美しい水着様が暗くて見えねぇんだよ。
……いや違うな。花火が定期的に上がり、一瞬とはいえ光は来ている。つまり俺の努力不足。その一瞬の儚い光チャンスを逃さず使えばいいだけの話。まばたき禁止、全てをその一瞬の輝きに捧げるのだ。
そう、エデンの光は俺に優しく微笑んでくれていた。
──湖にある小舟は十隻。一隻に乗っている魔法使いさんは二人。交代で花火を打ち上げている。パターンをつかめ……花火の打ち上がるタイミングと光るタイミングを計り、エデンの光タイム全てを使い水着凝視、よし……!
順番はどうする? 大きさ順か? ならばロゼリィ、アプティ、ラビコ・クロそしてアンリーナの順といったところか。いやまて、それは失礼な話じゃないか。お胸様はお胸様、大きさとかではなく平等に……いや待て、お尻様もあるぞ。まずい、これはかなり目を酷使しなければ達成出来ない過密スケジュール弾丸ツアーになる。
ポン……ポポーン
来た! 迷っている暇は……ああああ、太もも様も見たい……! くそっ……直前で迷ってしまった……ちぃ、こういうときは初心のハートをリメンバー。
「そう、ロゼリィだぁぁぁ……!」
「さっきからうるせぇっての~。何が大きさ順で、だ。ミリ単位だけど家出猫より私のほうが微妙に胸大きいんだっての~」
全ての力込めロゼリィのお胸様を見ようと振り返るが、イラッとした感じのラビコに顔面アイアンクローを食らう。んごご……何も見えねぇ……。
「あぁン? 逆だろラビ姉。アタシまだ成長期だからよぉ、あれからまたちょっと大きくなってんだよ。すまねぇな成長が止まっちまったBBA魔女さん、ニャッハハハハ!」
家出猫こと、クロがラビコを煽るように高笑い。え、クロってラビコより大きいの? マジ?
「はぁ~!? 太った、の間違いだろ~? 社長がおごってくれるからって何でもかんでもバクバク食いやがってよ~、ちゃんとカロリーコントロールしないと社長に愛想尽かされっぞ~っと。あっはは~」
ラビコがキレ気味に言い返す。ああ、ラビコは絶対に引かない女だからなぁ……。
「成長期……! ヌッフフ……さすがクロ様、素晴らしいお言葉ですわ! そう、つまりこの中では一番若い私が一番可能性があるということですわ! 今でこそ控えめな大きさですが、数年後にはロゼリィさんすら超える魅惑のボディに……!」
アンリーナの目が光り、自分を鼓舞するかのように吼える。うーん、どうかなぁ……アンリーナはそれ以上変化なさそうだけど……。
「……マスターは常に皆様の体をじっくり見ていますので、体型維持には気を付けたほうが良いかと……」
バニー娘アプティが無表情に言う。うむ、確かに俺は隙あらば皆様のお体を舐めるように拝見しております。怒られるまではこれからも見続けようと決めています。
「……え……わ、私を一番に見たいと思って……あ、その……それは嬉しいのですが、大きさ順で比べられるのは、その……」
ロゼリィが恥ずかしそうにお胸様を隠すが、ああ、いい……そうやって恥ずかしがる感じも最高にかわいいっす。
そして今気が付いたけど、さっきの俺脳内会議……口に出て……た?




