四百七十話 水の国オーズレイク 6 天才サイス家とサーズ姫様のフィギュア(妄想)様
「ご結婚のお話はラビコ様の挨拶代わりのジョークである、と。なるほど……」
水の国オーズレイク。
到着二日目の朝、天気が良かったので島王都へ向かうことに。
島に繋がる橋のお話をラビコとアンリーナから聞いていると、ちょうど湖を移動中の、サーフボードみたいな物に乗った騎士にラビコが呼びかけ、俺に紹介してくれた。
……それはいいのだが、また指輪を見せつけ、からの嘘結婚話を豪快に始めたので迷わず脳天チョップでラビコを止め、キチンと俺が誤解だと女性騎士リリエル=サイスさんに説明。
これやっとかないと、すげぇ面倒なことになんだよ……。思い出すと、火の国デゼルケーノでは誤解解かずに帰ってきたような……大丈夫だったのかな、あれ。
「ちぇ~面白いんだからいいじゃないか~。どうせ将来結婚するんだし~」
「面白ければいいってわけじゃねえだろ。俺の世間体も考えてくれ……」
俺の後ろでラビコが頬を膨らませ不満たらたら。なんだよ将来結婚って。そんな未来の話はまだ考えていないっての。
「……あ、そうそう~実はさ~この結婚指輪~後ろの女性みんな持っているんだよね~。分かる~? この意味分かる~?」
膨れていたラビコがピコーンと目を見開き、最高に面白いことを思いついた顔に。だから結婚指輪じゃなくて、感謝の指輪だっての。
それを聞いた、この流れになると予想し構えていたっぽいロゼリィ、アプティ、アンリーナ、クロが指輪を付けた左手をかざし、もう理解が追いつかない風なリリエル=サイスさんがしかめっ面で首を傾げる。
もうやめて、ラビコさんと四銃士の皆さん……さっき説明してやっと誤解解けたっぽいのに、また不思議そうな顔で見られているんですが。
「ラビコ様……その、あれから愚弟メラノスは心を入れ替えたでしょうか。まさか不正をしてレースで勝とうなどと考えるとは……あのサイス家の恥……。すぐにここに呼び寄せ、打撃を伴う説教はしたのですが、ペルセフォスに帰って以降、連絡が来る頻度が減ってしまって……」
リリエルさんがそっとラビコに近付き小声で聞いてくる。弟らしいメラノスに対し言葉は強めだが、やはり姉弟なのか心配なんだろうなぁ。
打撃を伴うお説教か……リリエルさんとかアルルシスさんは騎士の装備らしく、なんかすげぇ長い棒の両端にデカイ鉄の塊がついたハンマー持っているんだよね……。これ、使ったのかなぁ……。
「ああ、うんメラノスはペルセフォスで大人しく騎士の仕事をしていたよ~。ペナルティとして課された、毎朝のお城周りのゴミ拾いのボランティアも真面目にやっていたし~、ペルセフォス国内の街を巡っての子供向け体験型騎士教室の講師も全てこなしていたしね~結構反省したっぽいよ~」
ラビコが答えるが、へぇ、アイツそんなことやっていたのか。そういやペルセフォス王都で全然見かけなかったが、地方に行っていることが多かったのか。
しかし子供向け体験型騎士教室なんてものがあるとは……ぜひとも俺も参加してみたいのだが。十六歳ってまだ子供で通用するよな?
ああ、まだ魔法使いへの道は諦めていないぞ。
「そうですか……どうにも好きな女に構って欲しくて調子に乗ったみたいで、本当に申し訳ありませんでした」
リリエルさんが丁寧に頭を下げる。
好きな女に構って欲しくて?
ほぅほぅ……メラノスさん、片思いっすか。それ系の話なら、アイツとでも温泉で肩組んで話せそう。
お仕事中ということで、リリエルさん率いる騎士集団が湖上の警備に戻っていった。
「まさかここでメラノスのご兄弟とお会いするとはなぁ。つか兄弟全員騎士ってすごくねぇか」
リリエルさん達を見送り、子供相手に笑顔で先生役をやっているメラノスを想像するが、全く映像が浮かんで来ない。ありえねぇだろ、アイツすげぇプライド高かったし。
「天才サイス家。さすがに知ってるぜ。数百年続く傭兵一族とかなんとか。一国にこだわらず、どの国だろうと外部から実力でその国の騎士にのし上がるってぇのを、ずっとやっているんだっけか。すっげぇよなぁ、ニャッハハ」
リリエルさん達がいなくなってフードとゴーグルを外したクロが言うが、ほう、数百年続く傭兵一族ですか。
知っているだけでもメラノスがペルセフォス王国の騎士に、そして今出会ったリリエルさんとアルルシスさんが水の国オーズレイクの騎士になっていると。なんだかとんでもねぇ戦闘一族なんだな。
天才サイス家、か。
「まぁあんまり敵に回さないほうがいい一族かな~。数百年、各国で騎士をやっているから~その人脈がすっごいんだよね~あっはは~。リリエルとアルルシスは水の国オーズレイクの騎士ゼーブルナイト、ってやつだね~」
人脈かぁ、確かにそれはすごい力になるよな。俺だってラビコとかと知り合えたからこそ、今の俺があるわけだし。
それを数百年、一族全員でやってきたわけだ。それはすごい情報網だろう。
「それで彼等、ゼーブルナイトの役目ってのが橋の管理、なわけさ~。有事にはあのでっかいハンマーで橋を壊して侵略者から王都を守るってね~あっはは~」
なるほど、橋を壊す役目があるから、あんな大きなハンマーを持っていたのか。やはりラビコは色々知っているな。ついでに、湖上をモーターボートみたいな速度で自在に動き回れるサーフボードみたいなやつのことを聞いてみるか。
「ラビコ、あの水に浮いていた乗り物は何なんだ? やっぱ魔晶石系のアイテムなのか?」
「ん~? ああ、あれはコルベットベースって言って~どんな重さでも絶対に沈まないって言われている魔晶石アイテムだね~。ペルセフォスの飛車輪の水上版って考えたら早いかも~。元々はあれに乗って、橋の材料である重い石材を運ぶ役だったんだけど~見ての通りここは湖に点在する島が多いから~橋を作り、管理し、守る役目を果たしていた彼等が国民の生活を支えていたんだ~。そしていつの頃か、その功績を讃えられ国から騎士の称号を得たってやつだね~」
コルベットベース。なるほど、元々は橋の石材を運ぶ役目だったのか。そこから騎士にジャンプアップとか、夢物語すなぁ。
ペルセフォスの飛車輪もそうだが、専用の乗り物があるっていいよなぁ。〇〇専用機とか、俺のプラモデル心がうずく。
例えば、ペルセフォス王国龍騎士サーズ=ペルセフォス搭乗飛車輪モデル、とかあったら買っちゃうな。
もちろんサーズ姫様のエロいボディーラインを忠実に再現した、カラー塗装済みフィギュア付きでな。
いいな、本当に欲しいぞ、それ。
でも……俺には全く意味が分からないのだが、付属品で可愛らしいピンクのクマさんの着ぐるみフィギュアも付いてきそう。
あれかな、お城の皆に愛されているマスコット的なやつらしいから、そういう意味で付いてくるんだろうな。うん。




