四百六十七話 水の国オーズレイク 3 湖に浮かぶ都市と悪魔のバーガー様
「す、すげぇ! あれが王都オーズレイクの島側のほうなのか!」
ホテルガーベルメッサ。アンリーナのおごりで泊まることになった高級ホテル。
そこの最上階である十階の部屋から窓の下を見るとそこに広がっていたのは、パンフレットで見た、海かと見間違うほど巨大な湖に浮かぶ都市の姿。
夜の暗い湖面に煌々と輝き浮かぶ大きな都市。
湖中央あたりにある大きな島の上に都市が出来上がっていて、その周囲に点在する小さめな島にも街があり、巨大な橋でつながっている。
このホテルはその湖のすぐ横に建っている、リバーサイドならぬレイクサイドホテルといったところか。
「はい、元々は湖に浮かぶ大きな島だけが王都だったのですが、造船業で成功を収め急速に人口が増えた結果、周囲の小島、さらには湖の対岸にも街を作り、そこも王都としたそうですわ。呼び方としては、お城がある島が島王都、今私達がいる対岸側が対岸王都となります」
アンリーナが説明をしてくれたが、なるほど……元々は島で収まるぐらいの少なめの人口スタートだったのか。
当然島は人が住める面積が限られているわけで、対応策として対岸だったここに街を作ったのか。見た感じ、対岸王都と呼ばれるこっちのほうが栄えているふうに見える。
まぁ対岸のこっちのほうが面積取れるし、新しく開発されたっぽいから設備も整っている、と。
「へぇ、飛び地って珍しいよな」
「ここは地形が特殊だから~苦肉の策って感じかね~。当初は島王都が栄えていたんだけど、今では魔晶列車の駅がある対岸のほうが栄えているね~」
さすがにラビコは何度か来たことがあるそうで、俺のように興味津々で窓からの景色を見ようとしない。見慣れているって感じか。
「うわぁ、うわぁ……これが王都オーズレイク……! ついに私、こんなところにまで来てしまいました! パンフレットで見ていた景色が今ここに……!」
俺の隣で宿の娘ロゼリィが大興奮。うん、普通はこういう反応だよな。
「……マスター、紅茶が飲みたいです……」
「キングー、腹減ったぁ……フィッシュバーガー食おうぜ、なーなー」
アプティとクロは景色より食い気か。はいはい、俺も腹減ってるしすぐに……ってフィッシュバーガー? なんだその聞き慣れた食い物は。
「さすがクロ様、ご存知でしたか。そうなんです、今王都オーズレイクの若者に大人気なのがフィッシュバーガーなのです。ここの湖や、近海で取れた新鮮な魚の切り身を油で揚げ、葉物野菜と一緒にパンで挟んだ物がとても売れているとか」
アンリーナが説明をしてくれたが、うん……それ、こっちに来る前によく食ってたわ……。異世界感は無いが、花びらスープよりましか。
夜十九時過ぎ、ホテルの部屋に荷物を置きアンリーナ案内のもと、今人気のお店へ。
「混んでいるなぁ。なんかペルセフォスにいるような感覚だ」
ホテルから歩き繁華街に向かうが、街灯は明るく、この時間でも普通に開いているお店が多数ある。人通りも多く、なんだかわくわくしてくるぞ。
ペルセフォスで見た、魔晶石で動く車等が普通に動いている。確かあれ、おっそろしくお高いはず。本体も維持費も。
「栄えているからね~対岸オーズレイクは。島の方は結構落ち着いた感じなところが多いかな~」
右隣を歩くラビコが答えてくれたが、島のほうは明日行ってみようか。まずは腹が減った。
キョロキョロ周囲を見ながら初めての街の雰囲気を楽しんでいると、ふと気が付いたことが。
「なんか、テイクアウト、持ち帰る系のお店がすげぇ多いのな」
食べ物を売っているお店を中心に見ていたら、その場で買って商品を受け取り、近くのベンチや階段に座りご飯を食べている人を多く見かける。
お店も持ち帰り系のお店が多く、席があるお店が少ない。
「ああ、それはこの王都に住む人の生活スタイルが影響しているかな~」
ほう、どういうことだろうか。
「オーズレイクって造船業だったり、さっきホテルから見えた巨大な橋の維持管理だったり、物を作る技術者が多いんだよね~。彼等は作業の片手間に短時間で食事をとるから、持ち帰る系のご飯が普通なのさ~」
へぇ、基本テイクアウトなのか。
アンリーナが今オーズレイクで流行っているというお店に到着。夜十九時過ぎだというのに、お店の前には十数人の列が出来ている。まぁフィッシュバーガーに外れはないだろう。
「お待たせいたしました! オーズレイクバーガーになります!」
並ぶこと数分、アンリーナが六人分まとめて買ってくれ、人気だというフィッシュバーガーを店員さんから受け取る。商品名としてはオーズレイクバーガーというのか。
「どうぞ師匠! あちらの広場に座れるベンチがありますので体を密着させて座り、お互いのバーガーを一口ずつ食べあいましょう! 頬にソースがついても大丈夫です、私がペロンと行きますから……ヌッフフ……ペロン」
アンリーナが悪魔みたいな笑顔で舌を出し、棒に突き刺さったオーズレイクバーガーを渡してくる。
いや、味が違うのならまだしも、全員同じ物頼んだのに一口ずつ食い合う必要ねぇだろ。まぁいい、なんにせよ腹減ってんだ、多少味がおかしかろうが……って俺はフィッシュバーガーを持っているんだよな? なんでバーベキューで使うような長さ三十センチぐらいの木の棒を持っているんだ?
「……フィッシュバーガーが棒に突き刺さっている……だと……」
バーガーの見た目はよく日本でみかけた、丸いバンズに油で揚げた魚の切り身が挟まれたもの。だがその中心にぶっすり棒が刺してあり、お祭りの屋台で見たリンゴ飴みたいな状態になっている。
「どうやって食べるのでしょうか……」
近くの広場のベンチに座りそれぞれが手に持った棒に刺さったバーガーを食おうとするが、ロゼリィがどうしたらいいか分からず苦戦している。
「これ、手は汚れないけど~口の周りはソースでベットベトになるね~あっはは~」
ラビコが豪快にかじりつくが、ものの見事に口の周りがソースまみれ。……ちょっとエロい……あ、うそです、長旅で俺の頭がおかしくなったみたいです。
「このフライの外側のカリッカリのとこがいいんだよ! 味はまぁ、アレだな! ニャッハハ!」
猫耳フードをかぶったクロもラビコに習い、豪快にバーガーを食いちぎる。あーあ、髪にまでソース付いたぞ……。
「……食べにくいです、マスター」
周りを見て食べ方を迷っていたバニー娘アプティ。結局汚れるのが嫌らしく、棒に突き刺さったバーガーの一番上から一枚ずつちびちび食べ始める。
愛犬には途中の商店で買ったりんごを渡したが、こちらはまさに獣のように食い、汚れなど気にせずがっついている。うむ……ここは上品ぶっても意味ないな。ベスに習い、汚れること上等で欲のままに食うべきか。
「どれ……うむぅ、ソースが溢れて……うん、これ安い油使ってんな……口の周りがソースと油まみれになるぜ」
案の定俺もソースまみれに。味もそんなに美味しくはない。
「し、師匠……! ソースがお、お顔に……ヌフ……ヌフフフゥ! ああああ! なんてこと……こんな日に限っていつも持ち歩いている高級ハンカチを忘れてしまいましたわ……不覚……このアンリーナ=ハイドランジェ一生の不覚……リサーチ不足で師匠のお顔を汚してしまうとは……! ここは主催者であるこの私が責任を持ってお綺麗にヌフゥゥェァ……!」
ラビコを押しのけ俺の右隣に座っていたアンリーナが突如興奮しだし、演技がかったセリフを吐きつつ悪魔みてぇな動きで長い舌を俺の頬に近付けてくる。
う、両手を掴まれた……こ、この圧倒的握力……これが本当に一人の少女が出せる力なのか……!
リサーチ不足とか言っていたけど、絶対こうなること分かってて、これがやりたいが為にこの店選んだろアンリーナ……!




