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11 異世界転生したら森の民がいたんだが

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四百五十七話 花の国の王都フルフローラ 4 王都を守る盾とロイヤルティー様


 馬車内は静かに。これ鉄則。



 さっきちょっとしたトラブルで騒いでいたら、愛犬ベスが吼えて衝撃波と共にマナーを守る心をこの体に刻み込まれた。


 今は王都フルフローラのお城に向かう馬車内。王族であられるローベルト=フルフローラ様のお誘いを、ラビコが国賓ではなく個人同士の再会を祝してお城でお茶をいただく、という形で受けたところ。


 前を走る馬車にローベルト様が、二台目が俺達となっている。



「……なぁラビコ、なんか街のあっちこちに見える不思議な巨大オブジェはなんだろう」


 駅前からお城へ向かう馬車の中から街並みを見るが、さすが花の国の王都らしく色鮮やかな花壇が多くとてもメルヘンな景色。だが、そのメルヘンな世界に似つかわしくない、見上げる高さの巨大なオブジェがお城に向かうにつれ増えてきた。なんだろうアレ。


 高さは五メートルほど、幅も同じく五メートル近い巨大な石のオブジェ。厚さも二メートル以上はある、「凸」の形をした物。それがメルヘンな街のあちこちに点々と置かれている。見渡すだけでもかなりの数、中には高さ十メートルを超える物も。


 古い物らしく、大きく欠損した物や、形はしっかりしているものの長い年月の雨風等で朽ちた感じの物、植物などのツタが這い全てが葉で覆われた物などがある。


「ん~? あれは花の国の王都を守った遺物、テトラシルトだね~」


 ラビコが愛犬ベスに刺激を与えないように穏やかに言う。王都を守った遺物? 


「……見える範囲だけでも相当な数あるけど、なんか……全部一方向、南側を向いているんだな。何か意味があって置かれた物なのかな」


「あっはは~さ~っすが社長~。よくそこに気が付いたね、正解さ~。あれは数百年前、とある目的で建造された物で~」


 数百年前……相当昔の物なのか。


「なんというか、盾……っぽい感じがするが……」


「せいか~い。あれは「盾」なんだよね~。では何の脅威に備え作られたかと言うと~、ほら、その「盾」が向いている方向を見てごらん~」


 ラビコがクイっと顔で南側を指す。


 南側? はて何だろうと馬車の後ろ、南方向を見てみる。


「……あ、あれって……火の国デゼルケーノの火の山……ってことは蒸気モンスター……」


 王都フルフローラから南、そこには遥か遠くにあるにも関わらずはっきりと巨大な山が見える。あれは以前行った火の国にある火の山アオレオグランツ、だっけか。白い炎に囲まれた不気味な山。火の種族の蒸気モンスターがいるとかなんとか……。


「花の国フルフローラの南は火の国デゼルケーノなんだよね~。それであの火の山付近が国境になっているってワケさ~」


 巨大なオブジェは盾。そしてそれら全てが南を向いている。その方向には火の山……つまり数百年前、この王都フルフローラは南側にある火の山から攻めてくる蒸気モンスターの脅威に備えこれらを作った、と。


 これほどの規模、これほどの数を作らざるを得なかった、と考えたら、当時相当な被害が出ていたのだろうか……いや、今も?


 火の種族……俺を誘いにきた女性、アインエッセリオさんがそれに当たるか。


 しかし彼女は人間と共存の道を模索したい、と言っていた。だが自分は少数派、だから強い力を持つ協力者が欲しい、と俺のところに来たんだっけか。


「一番酷かったのが数百年前で~当時は戦死者と墓で溢れた死の国フルフローラって呼ばれていたんだけど~ある時期を境に蒸気モンスターの被害が一気に減って、今ではこうして花の国フルフローラなんて平和な感じで呼ばれるようになったらしいよ~」


 当時多くの被害が出ていたが、何かのきっかけで蒸気モンスターがあまり襲ってこなくなった。それ以降は復興し、花で溢れる国になった、ということだろうか。


 火の種族の蒸気モンスターも全てが危害を与えてくる存在だけではなく、現在はアインエッセリオさんのような共存派もいる。蒸気モンスターといえど色々な考え方がある、一枚岩な存在ではないということか。


 銀の妖狐みたいな変わり者もいるみたいだし……。


 なんとか妥協点探って歩み寄って、ほどほどに分かり合えないものかね……。



「ではアレを頼む」


 お城に到着。


 さっきの巨大オブジェ、お城付近はあれで何重もの壁が作られ、まるで城壁のようになっていた。今でこそ花壇等で囲まれ街中にある巨大オブジェの異様さは紛れているが、これが実用で使われていたときはどういう景色だったんだろうか。死の国……か、想像しただけで恐ろしい。



 ローベルト様を先頭にした騎士達に守られ案内されたのは、豪華は豪華だが少し小さめなお部屋。


 壁際のディスプレイケースには、製造年代別に並べられた紅茶ポットやティーカップが綺麗に置かれている。装飾が美しい物や金などが施された豪華な物など、これだけでも見ごたえがある。


 紅茶好きなアプティが側で見たいらしく、すっげぇソワソワと体を揺らしている。落ち着け、王族様の前だぞ。


「お、アレをいただけるのかな~? やったね社長~」


 ローベルト様がビシッとスーツみたいな服を着たイケメン執事に指を鳴らし指示。イケメン達がにこやかな笑顔となめらかな動きで準備を始める。ラビコが喜んでいるが、アレってなんだ?


「ご期待いただき嬉しい限りですラビコ様。これが我がフルフローラ最高のおもてなしになります」


 数分後イケメン達が持ってきたのは湯気上がる紅茶ポット。一気に部屋中に紅茶の香りが行き渡る。なるほど、この為にわざわざ小さめな部屋にしたのか。


「すごくいい香りです。甘くて芳醇で、香りだけで喉が鳴って……す、すいません!」


 ロゼリィが軽く呆けた顔になり、慌てて今の状況を思い出す。


 いや、気持ちは分かる。俺なんて気が付いたらヨダレが出ていたし。アプティなんか大興奮で俺の肩をつかんで左右に揺らすもんだから、目の焦点が定まらない。


「まさかフルフローラのお城でしか出すことが許されていない王族専用紅茶をいただける日が来るとは……感激ですわ……」


 アンリーナの目が輝いているが、王族専用紅茶なんて物があるのか。さすが紅茶の本場フルフローラってか。


「ご存知とは嬉しい限り。この紅茶はフルフローラ王族の為に開発された品種で、今でもお城でしか提供されていない貴重種。紅茶の名はロイヤルフルフローラ、どうぞご堪能あれ」


 ロイヤルの冠っすか、そりゃすげぇ。ラビコだけじゃなくお連れの俺達にも、とローベルト様がご配慮して下さったので、ありがたくいただくぜ。


 どれ……色は薄めなんだが、甘く芳醇な香りが鼻に入ってくる。その香りと共に紅茶を飲む感じか。うん、美味いぞこれ。ロイヤルの冠は伊達じゃねぇな。


「うっは~美味し~。いや~悪いねローベルト、観光で寄っただけだってのにさ~」


 ラビコが紅茶を飲み干し、ニコニコとローベルト様を見る。


「いえ、ラビコ様に来ていただけたことがフルフローラとしてありがたいことです。どうしても我が国は小さく……東にある港街ビスブーケには多くの方に来ていただいているのですが、なかなか内陸にある王都までは来ていただけなく……」


 ローベルト様が悲しそうに下を向いてしまったぞ。


 さっき王都の街並みを見たが、あの巨大オブジェが異様で……確かに港街のビスブーケのほうがザ・花の国って感じなんだよなぁ。


「今回はさ~ロゼオフルールガーデンを見に来たのさ~。社長がどうしても見たいって言うから~」


 おかわりの紅茶をもらったラビコが軽快に話すが、俺じゃなくてどっちかっていうとアンリーナが見たいって言ったんじゃ。いや、俺も見たいけど。


「そうでしたか。あれは我がフルフローラが誇る……いえ、王都フルフローラに来ていただける唯一の施設……こんな辺境の田舎にある我らが王都に咲いた一輪の希望の花……! ぜひとももっと観光客の方に来ていただいてお金を落としてもらい……せめて古くなった城壁の補修工事代に……!」


 下を向いていたローベルト様が後半急に興奮しだし、豪華な椅子に片足をドカンと乗せて熱弁。



 えーと、なんて言うか……財政状況が結構厳しいお国なのね……。






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