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【書籍化&コミカライズ!】異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが ~職業街の人でも出来る宿屋経営と街の守り方~【WEB版】  作者: 影木とふ「ベスつよ」②巻発売中!
10 異世界転生したら島で暮らすことになったんだが

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四百五十話 ただいまとおかえり様 ──十章 完──

「喰らえ! 怒りの雷ぃぃ!」


「や、やめろラビコぉ!! マジであぶねぇって!」



 無事、かどうかは分からんが、色々あって俺は銀の妖狐の島から出ることが出来た。


 現在俺はバニー娘アプティにお姫様抱っこ状態で持ち上げられ、海上を物凄い速度で走っている。


 今が何時か分からないが、日も落ち、見渡す限り全てが暗闇の海ってのは怖いものなんだな。闇に飲まれそうな感じ。



「あ~っはは! ほらほら~女遊びをした罰だ~!」


 背後から水着魔女ラビコが飛んで追いかけて来ているのだが、得意の雷魔法を乱打してきてマジ危ないんですけど。


 いつどこで誰が女遊びをしたんだっての。


 胸を張って言うが、俺は例え女性とそういうエッローんな雰囲気になろうが、どうしていいか分からずオロオロするタイプだ。ああ、しかも混乱して早口になって、ひたすら愛犬ベスの可愛さを語りまくって雰囲気を冷めさせる系男子だ。ああ、もちろんさ。


「女遊びとか何の話だよ! メイドの彼女達は多分、銀の妖狐に命令されて仕方なく俺の世話をしようとしてくれていただけだろ!」


「うそつけ! 仕方なくにしては随分と懐いていただろ~! 指輪もらったり~部屋を掃除していつまでも待っていますとか~それ現地妻じゃないか~!」


 指輪は短髪元気っ子ドロシーが仲良くしようねとくれた物で、部屋の管理をして待っている云々は、メイドリーダーであるアーデルニさんがメイドの立場上そう言ってくれただけだろ。現地妻って……そういう言葉、こっちにもあんのね。


 つーかマジで雷打つのやめろって!


「……大丈夫です、マスター。当てる気は、無いようです……」


 俺を抱えて走っているアプティが無表情に前を見ながら言う。


 あ、そう……ならいいか……とは言わんぞ。普通に怖いっての! 



「……見えました、マスター。船、です」


 アプティが華麗にラビコの雷魔法乱打を避けつつ前方の一点を見ている。船? 


「……雷で私の行き先を誘導していたようです……」


 先を見ると、確かに一隻の大型の船が停泊している。鮮やかな紅で塗られた船体。船首には大型の大砲が付けられている。あちこちにバラのマークが施されているが、あ、これアンリーナの船か。


 そうか、ラビコが沖に船がとか言っていたな。


 蒸気モンスターである銀の妖狐の本拠地のこんな側まで来てくれていたのか。下手したら攻め込まれてあっと言う間に沈められてもおかしくない距離。


 危険を承知でこんな近くまで俺を探しに来てくれたのか……。ありがたい。



「誘導って……他にも方法あんだろ……」


 そういや船の方向から外れたら雷が飛んできたな。


 ……うん、普通に言葉で伝えろラビコ。



「い、行きますよ! 師匠にお会い出来るまで死ぬわけにはいかないんです……我がローズ=ハイドランジェの技術の全てを注ぎ込んだグラナロトソナスⅡ号砲……」


 あれ? 船の大砲がガコンと音を出して動き出し、カコンカコンと細かく照準を合わせようとしているが……。


「あ、やべぇ! だめだアンリーナ! ラビ姉が追っかけてるの、蒸気モンスターじゃなくてキングとアプティだ」


「え? え? し、師匠なんですか!? あ、でももう止まりませんですわ……か、角度緊急変更ー!」


 なにやら船上で女性達が騒ぎ、ゴーグルをつけた女性が慌てて背の低めの女性に指示をだしているが……あれ、クロにアンリーナか。


 直後、俺とアプティの眼の前に船から放たれたぶっといビームが着弾。大量の海水と痛いぐらいの風圧が下から俺の体を持ち上げる。


「うわぁあああああああ!!」


 見事ベクトルに負けた俺達の体は遥か上空へと打ち上げられ……さすがに驚いた愛犬ベスが目を丸くしている。ってこれ海に落ちたらやばいって。俺まだラビコの拘束魔法で縛られたまんまで、手足動かせねぇんだって。


 そしていきなり砲撃とか、お前ら俺を助けに来てくれたんじゃないんかい!


「……マスター」


 空中に舞った俺とベスをアプティが受け止め、そのまま船の甲板にふんわり着地。おお、さすがアプティだぜ。


「ってこらアプティ、俺を転がすな。……や、やぁ……久しぶり……」


 着地後、アプティが俺を甲板に降ろしてくれたのだが手足が縛られ動けないのを思い出したらしく、親切心か俺を船に乗っていた三人の女性の元へそっと転がしてくれた。



「……よかった……よかったです……生きて帰ってきてくれて……」


 芋虫のように転がり挨拶をする俺を、ロゼリィが大泣きしながら覆いかぶさってきた。うっは、む、胸がモロに顔に……。


「すごく、すごく心配したんですよ……もう二度とお会い出来ないとも覚悟しました……でも……そんなのは嫌で、絶対に嫌で……」


 ロゼリィの涙が俺の頬まで伝わってくる。


 覚悟。この異世界には「蒸気を見たら逃げろ」という言葉があるぐらい、蒸気モンスターというものが人間にとって危険な物であると認識されている。


 その蒸気モンスターの本拠地である銀の妖狐の島に俺が連れていかれた。普通の人間なら俺が生きて帰ってくることはないだろう、と覚悟するだろう。


「皆さんと話し合い、私達は覚悟を決めました。助けに行こうと。みんな何度もあなたに心と命を救われているんです。恩を返さないわけにはいかない……それに……あなたがいないのなんて絶対に嫌なんです……あなたがいたから私達はこうして集まり、泣いたり怒ったり笑ったり出来ているんです……あなたがいないと……あなたがいない未来なんて私には、私には……」


 蒸気モンスターにさらわれた人間を助けに行こう。それは相当の覚悟がなければ出来ない、命を懸けた行動になる。それをみんなはやってくれた。


「……ふん、心配かけた罪はロゼリィに免じて許すけど~二度とこういうことはするなよ」


 遅れて船に着いたラビコが俺にかけていた拘束魔法を解いてくれた。


「ラビ姉もアプティもベスもキングも無事! やったぜ、なんとかなるもんだな! おらキングー! 私も抱けー!」


「はぁ……上手く行きましたわね……何かどっと疲れが出てきました……でも本当によかったですわ……クルー含め、皆片道キップの覚悟でここまで来ましたから……。師匠は無事、もうそれだけでこのアンリーナ、満足です。……満足ですが、それとは別に湧き上がるこの欲は抑えられそうにありません! 突撃ですわー!」


 俺は……幸せ者だな。こんなにも想ってくれる人がいる。泣いてくれる人がいる。怒ってくれる人がいる。


 しかしロゼリィが左側から転がる俺に覆いかぶさっているのでクロが右手を掴んでくるのは分かるのだが、なぜアンリーナは俺の下半身を熱心に攻めてくるのか……。いや、今は野暮なことを言うのはよそう。


「……ごめんなみんな、心配かけて。助けに来てくれて本当に嬉しかった。みんなと心がつながっているんだな、俺は一人じゃないんだな、とそう強く思えたよ。その……なんて言っていいのか……えーと……た、ただいま……」


 俺が自由になった手で皆の頭を撫でながら言う。


「……はい、おかえりなさい」

「おぅ、おかえりだぜキング!」

「ヌッフフ……師匠の太ももがたまりませんわ……あっと、おかえりなさいですわ師匠!」


 三人が笑顔で答えてくれたが、ラビコが向こうでふくれっ面か……。


「ラビコ。悪いが動けないからこっち来てくれ」


 ロゼリィとクロとアンリーナが俺に乗っかってきているからマジで動けないんだ。ベスも新しい遊びをみつけた、と興奮しながら乗っかってきたし。


 あとアプティさんが俺の尻の下に手を突っ込んでくるんだが、なんで。


「またそうやって気軽に命令してさ~この私がどれだけ地位も名誉もお金も実力も美貌もあるすご~い人間だって分かって言っているのかね~」


 俺に呼ばれたラビコがムスっとした顔で言葉を吐き、顔を見せないように横を向きながら気だるそうに歩いてくる。


「ありがとうな、ラビコ。そして……ただいま」


 俺に背中を向けて座ったラビコの頭を優しく撫でる。


「……ふん、この私が助けにいったんだから帰ってこれて当たり前だっての~……でもその……おかえり……」


 ラビコが膝を抱えて顔を埋め、ちょっと恥ずかしそうに小さな声で答えてくれた。



 俺達は本当の家族ではないが、こうして遠慮なく怒ったり笑ったり言いたいこと言えて、しかも後腐れがない。こういうのが人間にはとても大事な関係だし、大切な時間なんだと思う。


 ラビコにとって、一番欲しかった子供の頃に手に入らなかったこの空間。


 大丈夫、俺は命ある限りずっと保ち続けていくさ、この暖かな輪を。



 そしてその輪にはお前も含まれているんだからな、ラビコ。







「異世界転生したら犬のほうが強かったんだが」 十章、異世界転生したら島で暮らすことになったんだが ──完──
















++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

お読みいただき感謝!

これにて10章「異世界転生したら島で暮らすことになったんだが」が完となります。


今回は主人公くんがついに蒸気モンスターである銀の妖狐の島に行く、というお話でした。以前から銀の妖狐が 準備はしている という発言の意味が分かったのではないかと。

さらに火の種族の蒸気モンスターも新たに登場し、彼等の関係性や暮らしが少し垣間見えたのかなぁ。

銀の妖狐さん、結構重要なこと言っていると思います。


火の種族であるアインエッセリオさんは少数のグループを作り、この世界に適応し人間と共存して生きていこうと考え行動しているようです。しかし銀の妖狐さんは単に主人公くんに好かれたい一心での行動。

少し差があるようですな。今後この二人がどう絡んでくるのか、作者も楽しみです()


後半はラビコのお話、だったでしょうか。珍しくかなり本音が出ていたのでは。


さて物語は10章中についに文字数が100万文字を突破! すごい!(自分で言う)すごい!(もう一回)

まぁ、長さと面白さは別でして、両立出来るよう頑張ります・・・ます・・・


更新も期間が空くことが多く、申し訳ありませんでした。

それでもお付き合いして下さる読者様がいることに本当に感謝! 今後も頑張れます!


10章は長くなるかも、と思っていたのですが、書いてみたら10万文字いかない感じでした。余計な話は書かないよう削った部分もあるのですが、それでもなんとかまとめれた(個人的に)ような気がするので満足でした。


主人公くんの活躍はまだまだ続きます。

まだ未定ですが、そろそろあの人が出るんじゃないかな、と。


11章の内容はこれから考えますので、またしばらく再開までお時間をいただきたいと思います。

次はどんなお話か想像して待っていただけたら幸いでございます。


再開までは活動報告書などで何かつぶやくと思いますので、たまに見に来ていただけたら嬉しいです。


ご感想などありましたら、どうぞお気軽に(作者が泣いて喜びます)(読んだ、の一言でも嬉しいのです)


さて長くなりましたが、改めて10章をお読みいただき感謝。

今後も頑張って更新していこうと思います。


それではまた 11章でお会いいたしましょう!


2018/10/09 21:50 影木とふ




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