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四十五話 縦笛を吹く男様


ピロローピュロロロロ~~ヒポッ



 ベスの散歩の途中、何となく海に行ってみた。


 港ではなく、砂浜のほう。とある理由で港はなるべく近づきたくない。



 泳いでいる人がいるな。俺も水着があったら泳ぎたいところだ。


 ベスが大喜びで砂浜乱舞するかと予想していたのだが、俺の横にぴったりついてピクピクと耳を立て右のほうを見ている。まぁ理由は分かる。



「あれはなんだろうな、ベス」


 家族連れ、カップル、友達同士などのグループで賑わう砂浜の一画で、一人の男が水着姿の棒立ちで縦笛を吹いているせいで異様な光景となっている。


ピーロロロロロッ~ヒポッ


 音が鳴るたびベスが反応する。


 何かのパフォーマンスだろうか。どんな世界でも自分は周りとは違う個性がある、と表現したい人はいるのだなぁ。


 異様な光景と表現したのは、その男の周囲五メートル程がカモメ、カラス、スズメ、よく分からないでかい鳥、野良猫、野良犬等で砂浜が見えないぐらい埋め尽くされているから。


 ついには海から亀も顔を出し、砂浜を一生懸命移動し、その男の元に行こうとしている。




「ハーメルンかなにかか、あれ」



 よく見ると男の背後には刃幅の広い巨大な剣が刺さっている。


 ベスが笛の音に耐え切れず、小走りでその男の元へ向かっていった。


「こら、ベス。パフォーマンスの邪魔しちゃいかんって」


 慌ててベスを抱えて持ち、その場を離れようとしたら、その男と視線が合ってしまった。



「パーティー、ですか」


「パーティー? いえ、ベスと言う名前の犬です」


 男は無表情で巨大な剣に張ってある手書きの紙を指した。


 紙には、パーティメンバー募集中! 当方屈強ファイターです! と元気な文字で書いてある。


「冒険者さんですか。ここより冒険者センターで募集したほうがいいと思いますが」


「ここの、ほうが人、多かったの、で」


 声小さくて聞き取りにくいな。


 集まっている動物達の声がうるさいのもあるが。


 で、なんで笛吹いてんのかな。ファイターってんなら、剣振ってアピールしたほうがいいんじゃねーの。


「笛、お好きなんですか?」


「ん、好き。喋るの、苦手。だから、笛」

 

ピロローロロッローーヒポッ


 海の沖のほうで鯨が海上に現れ、水を吹き上げ綺麗な虹が出来上がる。


「おおおおー」

「綺麗~」


 砂浜で歓声。



「剣のほうでアピールしたほうがいいのでは……」


「剣は、昨日、持った。重い。怖い」


 当方屈強ファイターじゃねーのかよ。



「君、優しい。これ、吹いて、すぐ行く」


 男はおもちゃ屋の袋に入った縦笛を俺に渡すと、笛を吹きながら街へ向かって歩き出した。男の後に続く動物達の大行列。


 袋の中には冒険者センターで配っている自己紹介カードが入っていて、それを見た俺は笑顔になった。



「よかったな、お前は親の期待に応えたすごい男だよ」


 彼の名前はハーメル。そう書かれていた。




「こっちでハーメルンの笛吹きが通じるか知らねーけどな」










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