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10 異世界転生したら島で暮らすことになったんだが

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四百四十五話 エデンからの脱出 5 ラビコの涙と俺の決意……? 様

「俺は……帰れない……」


「はぁ?」


 

 俺はソルートンに帰ろうと腕を引っ張るラビコの動きに逆らい足を止め下を向く。


 その動きが予想外の反応だったラビコが目を見開き驚き、少し間の抜けた声を出す。



「ふふ……あはは! 答えは出たね、本人がこう言っているんだ、無理強いはよくないと思うよ? ね、魔女さん? ふふ、あははは!」


 俺達の動きをニヤニヤしながら見ていた銀の妖狐が堪えきれず、腹を抑え大げさに笑い出す。まるで俺が絶対にこう言うと分かっていたかのように。


「てめぇ……私の男に何かしやがったな。どうりで本人の気持ちとか言い出して余裕の態度だったわけだ。……大丈夫だ。どうせつまらない弱みでも握られたんだろ。そういうのはこの私がブッ飛ばしてやるから気にすんな」


 ラビコが殺気のこもった視線を銀の妖狐に向け、俺の頭を優しく撫でてくる。その手はとても温かく、優しい。……はは、やっぱラビコはすげぇな……一瞬頼りそうになったぞ。


「まさか、昔の僕ならまだしも、彼の為に生まれ変わった今の僕はそんなことはしないよ。ね? 僕は真っ直ぐに気持ちを伝えただけだよね?」


 銀の妖狐が後半甘えたような声を出し首を傾げ、俺の顔を覗いてくる。


「何が真っ直ぐな気持ちだ。どうせエロ絡みのハニートラップでも仕掛けて弱みを……」


「すまないラビコ、俺はこの島に住むよ。それが果樹園とか畑とかお土産開発とか結構やることいっぱいあってさ、それにご飯もすっげぇ美味しいんだ。……みんなが大変な思いを決意してここまで来てくれたのは分かってる。ありがとう。でもごめんな、みんなによろしく言っておいてくれ」


 俺は下を向いたまま、ラビコの顔を見ること無く腕を払い銀の妖狐とアプティの元へ歩いていく。


「ほっほ、一人脱落、かのぅ。ではあとはキツネとわらわの一騎打ちというわけか」


「ふふ、そちらは僕等みたく彼に信頼を得られるような行動を示していないよね? 人間と共存とか、聞き心地のいい言葉だけはなんとでも言えるよ? ふふ」


 黙って見ていたアインエッセリオさんが俺の横にぴったりくっついてきて、右手の大きな鉄の爪を銀の妖狐に向ける。それに対し銀の妖狐が不敵に笑うが、確かにアインエッセリオさんの目的は言葉で聞いただけなんだよな。


「……待てよ……この……待てって言ってんだろ万年童貞!!」


 呆けた顔をしていたラビコが肩を震わせ、次の瞬間ダッシュで体当たりをかましてくる。俺が驚き、よろけたところに腕が伸びてきて胸ぐらを乱暴につかんでくるが、これにはさすがの愛犬ベスまで驚いた顔をしているぞ。


 あと、万年童貞ってちょっと酷くね? いくら孤高の気高き魂を持つ俺でも傷つくっての。


「てめぇ、どういうつもりだ……この島に住む? よろしく言っておいてくれ? 催眠術か幻術でもかけれられて頭イってんのか? お前の夢はこの世界の全てを見る、だったんじゃないのかよ……その夢に私達を連れ回して、毎晩取っ替え引っ替えヤってやるとか言っていたじゃねぇか!」


 い、言っていない……前半は確実に言ったしそれが俺の夢だけど、後半の取っ替え引っ替え云々のくだりは俺みたいな万年童貞君じゃ絶対に言わないセリフだろ……。


「…………ごめん……」


 激怒するラビコに俺はその程度の言葉しか返せなかった。情けない……でもみんなを危険な目に遭わせたくないんだ。


「ごめんじゃないだろ……! 分かった、今お前が思っていることを当ててやる。自分がソルートンにいたらまた蒸気モンスターに襲われるかもしれない、だから帰れない……とかくだらない事その少ない脳で考えてんだろ」


 う……な、なんで分かるんだよ……つか分かっているのなら余計に放っておいてくれよ。ラビコが元いたパーティーのルナリアの勇者だってその道を選んだんだろ。


「てめぇ、勇者気取りかよ……お前はどうあがこうが職業街の人だろ……! 街の人が街に住むのなんて当たり前だろ、何一人で全て抱え込もうとか考えてんだよ! なんだ? てめぇはソルートンから出て行けとか一回でも言われたのかよ! ソルートンの住民誰一人そんなこと言ってねぇだろ……お前は住民全員が認めるソルートンを救った英雄なんだぞ! お前がいなきゃあのときみんな死んでいた、その悲惨な未来を変えたのがお前だろ! 街がまた襲われるかもしれない? ソルートンの冒険者と住民を舐めんなよ……蒸気モンスターに再び襲われようがお前が逃げない限り、みんなお前という光を信じ戦うって、もう覚悟は決まってんだよ!」


 ラビコが俺の胸ぐらをさらに強くつかみ下を向く。


 ソルートンのみんなはいつも笑顔で俺に接してくれる。お前がいたらまた蒸気モンスターに襲われるとか、出て行けなんて一切言われたことはない。そうか……俺を信じていてくれたのか。なのに俺は……逃げてしまった……。


「それにお前はソルートンがホームだって……私達のことを家族みたいに思っているって言ったじゃないか……私はその言葉がすごく嬉しかった……この世で一番そう言って欲しかった相手に家族って言われて……私……すごく、嬉しくて……」


 震え声になったラビコの目から涙がこぼれ落ちる。


 家族、確かに俺はパーティーの皆を指しそう言った。その時の俺の想いは、それぐらい大事に考えているという意味だったのだが、孤児だったラビコにとって家族という言葉はとても大きな意味を持つ。


 以前王都ペルセフォスでラビコとデートをしたとき、子供のときの憧れだった玩具屋さんでお人形セット、子供服のお店で子供用のワンピースを買い、大きな食堂でお子様ランチを食べるという変わったコースを辿った。


 いわゆる普通の子供だったら親にねだれば何度か経験出来たであろうコース。


 だがラビコにとって俺とやったそれが生まれて初めてのことで、ついに子供のころの願いが叶った瞬間だったそうだ。


 恵まれた環境で育った俺では想像が追いつかないぐらい嬉しかったのだろう。ラビコは俺が買ってあげた物を全てソルートンの宿の部屋に大事そうに並べて置いてある。


 親がいない。家もない。頼れる人も、甘えられる人もいない。ラビコは孤児として過酷な環境で育った。俺が当たり前に受けていた親の愛も想いも、ラビコは一度たりとも受けたことがない。


 街で見かける幸せそうな家族。ラビコはずっとそれに憧れていたのだろう。あの暖かそうな輪に私も入りたい、と。


 そして俺が皆を指し、家族みたいに思っていると言った。ラビコにはその言葉が、ついに自分に出来た暖かな輪だと思ってくれたのかもしれない。


「家族ってのは……いつだって……辛いときこそ一緒にいるものじゃないのかよ……私はどこに行けばいいんだよ……お前がいなくなったら私は一人になるんだぞ……もう一人は嫌……嫌、嫌……側にいて……怖い……一人は怖い、暗い……私を……私をあの明るくて暖かな輪に入れてよぉおおお!!」


 ラビコが今まで聞いたことがないような声で叫び崩れ落ちる。



 俺は皆を守りたくてソルートンを離れた。でも逆に皆は命を懸けて銀の妖狐の島まで俺を迎えに来てくれた。単身で銀の妖狐の島に乗り込むなんて、普通の人間なら絶対にやらない無謀な行為。沖にはおそらくアンリーナの船があって、そこで皆が信じ待ってくれているのだろう。


 俺は何の為にここに来たのか。


 それはみんなの笑顔を守る為、その為にソルートンには帰らずここで生きていこうとした。ではなぜラビコは目の前で泣き崩れたのか。こんな姿を見たくなくて俺は……逃げて……。


 そう、俺は逃げたのだ。街の皆を守らず、大事なパーティーメンバーである皆から距離を置き、逃げた。


 守りたいのならば、大事な人がいるのであれば、どんな強大な相手であろうが逃げず前を向き立ち向かわなければならない。ラビコはいつだって前を向き、どんな強大な相手であろうが逃げず立ち向かってきた。


 でも俺はそのラビコを泣かせてしまった。信じていてくれたのに、命を懸ける覚悟すらしていてくれたのに。


 俺は言った、皆を家族みたいに思っていると。その言葉に嘘はない。それを今から行動で示さねばならない。ラビコの涙に誓おう、俺は逃げずに立ち向かう──そう、大事な人を守る為に。



「ベス、俺に皆を守る力を貸してくれ」


 俺が決意し静かに愛犬に声をかけると、ベスは待ってましたといわんばかりに俺の横に来て同じ方向を見てくれた。いつもすまない、頼りないご主人様で。



「……やっぱ俺、ソルートンに帰るわ。どれだけ似ていようがやはりここはソルートンじゃない。俺とベスの力が他の蒸気モンスターに知られた以上、今後もソルートンが危険な目に遭うことになるかもしれない。でも俺は街を守り、襲ってきた奴全てを弾き返す。そう今決めた」


 俺のホームはやはりソルートンだ。それは今後も絶対に変わらない。そしてソルートンには俺の全てをかけて守るべき大事な人達がいる。


 例え銀の妖狐一派とアインエッセリオさん、この二つの勢力と戦うことになろうが俺は必ずソルートンに辿り着いてみせる。いくぞ、ベス──



「……? 王の力が他の種族に知られた? はて、何を言って……」


「あー……あのさ、空気を読もうよ。それバラしたらここまで積み上げた僕と彼の初めての共同生活計画がパァになるんだよねぇ」


 俺の決意を不思議そうに首を傾げ聞くアインエッセリオさん。そしてアインエッセリオさんの発言を聞き、銀の妖狐がつまらなそうに溜息。



 ──あれ? 結構シリアスに決めたつもりなんだが、二人の様子が何かおかしいぞ。








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