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【書籍化&コミカライズ!】異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが ~職業街の人でも出来る宿屋経営と街の守り方~【WEB版】  作者: 影木とふ「ベスつよ」②巻発売中!
10 異世界転生したら島で暮らすことになったんだが

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四百三十九話 キツネ達のエデン 7 甘くて強い想いとキモ腹パンで裸様

「どうだい、いい景色だろう? この島の美しさが少しでも君に伝わると嬉しいなぁ」



 俺のお世話をする為に集まってくれたメイド二十人衆を引き連れ露天風呂に来たのだが、施設は混浴ではなく男女別だった。


 二十人というお美人様の集団の裸を想像し期待し、夢と都合のいい妄想で下半身の俺が最大膨張しかけていたのだが、今俺は超イケメン男、銀の妖狐と裸で肩をぶつけ合い露天風呂に入っている。


 もう出たい、マッハで帰りたい。あとこいつの距離が近い。


 

「確かに素晴らしい景色だな。山に森に滝に池、そして島の砂浜の向こうに広がる水平線。ちょっとしたリゾート地みたいだ」


 銀の妖狐ご自慢のこの島は動かすことが出来るようで、現在は南国に位置する場所にあるとか。


「全て君の為に整備したんだ。気に入って貰えたのなら、頑張った甲斐があったかな、ふふ」


 この温泉施設もそうだし、ジゼリィ=アゼリィそっくりに作られた建物も人間の俺が何の疑問を持つことなく利用出来たからな。


 蒸気モンスターの彼等の文化はよく分からないが、実に人間の文化を学び作られた感が伝わってくる。


 ジゼリィ=アゼリィに出向き料理を見て覚え、農業を学び、文化を学び、島内で作った作物や工芸品を売り人間のお金を得、生きていくために必要な魔晶石を買う。この行動は実に平和的で、蒸気モンスターである彼等がこの世界で人間と共に生きる道を歩む第一歩を踏み出したのだと思う。


 間違ってはいけないが、銀の妖狐の目的は俺をこの島に呼び一緒に暮らそうと行動したもので、この世界の人間全てと仲良く暮らそうとした行動ではない。


 まだ課題はたくさんあるだろうが、蒸気モンスターである銀の妖狐側から特殊な条件ではあるが歩み寄ってくれたのは大きな収穫ではないだろうか。人間と蒸気モンスターとの戦いの歴史は長いらしく、すぐには理解し合えないとは思うが、俺の周りだけでも共存の箱庭を作れないものか。


 実際俺は蒸気モンスターであるアプティとはしっかり共存出来ていると思う。


 ラビコあたりに言わせれば、血を血で洗うような長い戦いの歴史を知らない子供の甘い考えなんだろうが。



「……さっきもう一回畑や果樹園に工房とか見てきたけど、きちんとした商品を作っているんだな。工房で作っているお土産なんか俺も普通に欲しいと思ったよ。それらを売ってお金を得て魔晶石を買う。昔のことはあまり知らないけど、争うこともなく、今のこの島はすごく上手くやっていると思う。……と言っても人間側から見た一方的な意見で、君等蒸気モンスターが抑え込んでいる欲や想いは計れないけど」


 俺がそう言うと、銀の妖狐が少し驚いたような顔をし、すぐにいつもの余裕の笑みを浮かべた顔に戻る。あ、それ以上寄ってこないでね。


「ふふ……やはり君は面白いなぁ。僕等が抑え込んでいるだろう想いや欲まで考えてくれるんだね。確かに僕等はずっと我慢をしてきた。基本僕等は戦闘民族だからね、欲しいものは力で奪い、殺し、欲のままに生きてきた。でもそれが通じたのは元の世界での話。紛れ込んでしまったこの世界は僕等に優しい世界ではなく、大気中に魔力が潤沢に含まれていないという生きていくことすらままならない、世界が牙を向いて僕等に襲いかかってくるところだったんだ」


 戦闘民族、ね。略奪が当たり前の世紀末世界って感じなのかな。怖ぇな……。


「欲を抑え、目立たないように小規模で動き、生きるための魔力を求め人間を殺してきた。派手に動くと怖ーい世界の創造主に粛清されちゃうからね」


 こっちの世界に来て何度か蒸気モンスターに襲われたが、毎日起きるわけではなかった。それは国の騎士達や冒険者達が頑張っているから、もあるのだろうが、蒸気モンスターの状況を聞くに生きるために魔力が必要なのにそれほど頻繁に蒸気モンスターが人間を襲わないのは理由があるのか。


 怖ーい世界の創造主? なんか神様みたいのが本当にいるのかね、この世界。せっかく異世界に来れたんだ、いるなら神様ってやつに会ってみたいものだ。


「僕等の考えは基本、力こそ正義、だからね。強い者が生き残り、弱い者は力尽きる。そうやってずっと生きてきたし、それが当たり前の世界だったんだ。だからこの世界に来て弱い人間を殺すことになんの感情も湧かなかった。生きるために必要な行為でもあったしね」


 文化の違い、生きてきた世界の環境の違いで片付けられる問題ではなく、人間側としてはとんでもなく迷惑なことなんだがね。


「でも僕等は君と出会って変わった。君に学び、人間の文化ってやつを覚えた。物を作り、育て、売り、魔晶石を買う。なかなか新鮮な文化だよ、こういうの。君のおかげで僕等は生きるためのエネルギーである魔晶石を安定して入手出来るようになった。僕等水の種族にとって君は命の恩人、そういうわけさ」


 命の恩人、ね。実際に指導したわけでもなく、銀の妖狐が自ら動き学んだ結果であって、俺の実績として受け取っていいものなのか。



「……こうすれば人と蒸気モンスターはやっていける、そう思うんだが、これが時間がかかってもいいから世界に広まっていかないものかな」


 俺は素直に思ったことを言う。甘いのだろう、難しいのだろう。だが言葉に出したかった。


「どうかな、いきなり生き方を変えろって言われてもなかなか理解し合えないんじゃないかな。生命を持ち、個として生きている以上、他と比較してしまい必ず差が生まれ欲が生まれる。その欲はそれぞれに方向性を持ち、その多くの欲を一つに収束することは難しいかなぁ」


 銀の妖狐が空を見上げ微笑む。こいつはこの水の種族のリーダーなんだっけ。まとめる者として色々苦労があったのだろう。


「これは何も我々だけの話ではなくて、君達人間だってそうだろう? 僕はとても長い時間この世界を見てきたけれど、人間同士の争いが絶えたことはないよ。個が多く集まれば必ず争いが起こる。そして争いの中、個は小さな集団を形成し集団同士の争いへと発展していくものさ」


 長い期間見てきた、か。人間と蒸気モンスターの時間の感覚の差が分からないが、いったいどれほどの年月彼等はこの世界を見てきたのだろうか。いつかそういう話を銀の妖狐から聞いてみたいものだ。


「……確かに、な。理想は理想、俺は甘い考えなのかね」


「そうかな、僕はいいと思うけどな」


 俺が下を向き言うと、銀の妖狐が優しい笑顔で答えてきた。


「例え甘い、机上の理想であれ、こうなればいいな、こうなるといいなと想い続けることは大事だよ。現実を見て、ああ無理だなと絶望しそこで思考を止めてしまい、楽な暴力をもってどうにかしてやろうとするよりよっぽどいい」


 銀の妖狐が肩を組んでくる。……いいこと言うのなら、その行動はよして。


「その人は僕等に絶対的な力の差を見せられても諦めず、理想を心にしっかり持ち諦めなかった。どんなに辛い状況だろうが下を向かず、上を見、未来を諦めなかった。うん、強いよ。それはとても強い心の持ち主さ。……僕等には出来なかった。心を折らず前を向き、例え種族が違おうが、世界が違う存在だろうが信じ共に歩もうとした。そう、生きようとしたんだ、この世界で」


 俺もそうだが、蒸気モンスターも異世界からの来訪者だからな。考え方も文化も全部違う。でも……


「僕は逆さ。この世界に絶望し、逃げた。今まで通り力に頼り奪い殺し、挙げ句この世界を壊そうともした。そうすれば元の世界に戻れるんじゃないか、って……ね。でもそんな壊れかけていた僕の頬を優しく殴り、目を覚ましてくれたのが君じゃないか」


 ん? ソルートンを襲われた時、最後のあがきで一発殴ったのがすげぇ色々乗っけられて美化されてないか?


「君は強い。君が思う人と僕等が共に生きる世界とか、今まで誰も成したこと無い、この世界で最も厳しく難しい理想なんじゃないかな。甘くないよ、その理想は。そしてその理想をずっと持ち続けていられる君はとても強い。今では君は神獣の力をもつ犬に自身の魔眼の力を覚醒させ、圧倒的な力も手に入れた。僕は君に従うよ。強い理想を持ち、絶対的な力も持つ君に従うのは尊敬に敬愛を含め、僕としてはごく自然なことだし、ね」


 銀の妖狐がうっとりした顔を近づけてくる。なんか褒められているようだが、俺は今身に迫る危機を振り払うことを最優先にさせてもらう。



「ベス! アプティーー!」


 俺が命の危機的な悲痛な叫びを上げると、温泉にざっぱと飛び込み、ご機嫌で泳ぎ回っていた愛犬ベスが吠え、衝撃波を銀の妖狐にぶつける。


「……例えアージェンゾロ様……兄様が相手であろうと、私のマスターの命令は絶対です」


 銀の妖狐がベスの弱めの衝撃波を左で受けたが、動きが止まったところに突如現れたアプティがその前に出た左手を掴み柔道の技のように足を払い跳ね上げ、空中に投げ飛ばした。


 すげぇ、すげぇよ君等。


「ふふ……これこれ……これだよ、この種族、考え方、言葉すら違う者の想いを一つの方向にまとめあげる才能……すごい、すごい……この力こそ僕が敬愛する君なんだ!」


 銀の妖狐が軽く空中で体勢を整え、ふんわりと地面へ着地。キモい笑顔で体を震わせている。ああ、心底キモい。


「そして我が妹エルエルヴィ、ついに兄である僕に拳を向けたか。……嬉しい、兄は嬉しいぞ……! そう、それでいいんだ。僕の操り人形では得られない幸せがある。自ら考え行動する、それを彼に教えてもらったんだね、うんうん……よし、認めよう! 君にはぜひ我が最愛の妹の不器用な愛を受け取ってもらいたい。さぁ結婚だ、そうすれば僕は君のお義兄さん……ああ、いい響きだね。ほら練習してみようよ、気持ちを最大限に込めて呼んでもらって構わない。お・義・兄・さんって……ごふぅ……」


「いい加減にしろ、くそアーゾロ」


 俺は生まれて初めて身の毛がよだつほどキモいから、という理由で人の腹を軽く殴った。



 それより温泉の途中で呼んだおかげでアプティが全裸。もう全部丸見え。


 そこで気が付いたが、アプティがお風呂に入っているタイミングで呼ぶと全裸が見れる、と。いや、やらないよ。もし私欲でやったら人として終わりだろ。


 ──でも人として終わっていい夜も一度や五度はあるんじゃないかな。俺は銀の妖狐が言うような決して強い人間ではないし。うん。






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