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四十四話 回復魔法と勇者様


「社長~腕治った~? ねぇねぇ治った~?」





 昼ご飯の肉野菜炒めを食べていたら、ラビコがニヤニヤしながら近寄ってきた。


「治ってない」


「ふぅ~ん、どれどれ~?」




 あれから二日、そんな急速に治るわけねーだろ。


 ラビコが左腕の傷付近をじーっと見ている。


 そういやこの世界に回復魔法ってあるんだろうか。



「なぁラビコ。魔法に傷を治すとかいう便利なものはないのか?」


「回復魔法? 社長の心の傷を癒すことは出来るかな~? ほ~れ、くらえ~」


 ラビコが水着で右側から抱きついて来た。


 くく……、俺はこの間の旅で悟りを開いた男。この程度のボディタッチ、眉毛すら動かないわ。


「ぬぬぅぅ、ぬぅぅん……すいません無理です。心の傷は癒えたんで離れて下さい……」


「あっはは~相変わらずこの手の攻撃には弱いなぁ社長は~あ~楽しい~」



 あの、それで回復魔法ってあるんでしょうか。



「う~ん、言っていいのかな。社長ぉ耳貸して……」



 お、秘密の話か。ぜひ聞かせてくれ。


「ふぅ~ふふふっ……あははぁ」


 うひ! 耳にふーふーすんな! ぞくっとくんだろ!


「ごめんごめん~じゃあいくよ……はぁ~んっ、お・か・ねぇ~」


 エロい感じで言うな! お金かよ! そりゃー治療費にお金掛かるし、お金あれば回復するってか。アホか。



「あっはは~冗談さ。社長は信じているし、いずれ会うだろうから言うけど……」



 そう言ってラビコがまた耳に口を近づける。くっそ、ラビコいい香りすんな……。



「あるよ」



 そう小さい声で言うと、口の前に人差し指を当て、し~っとジェスチャー。


 あるのかよ。でもなんで秘密みたいな雰囲気なんだ。




「社長、お部屋おいで~」


 昼食を終え、アイスコーヒーを二個持ってラビコの部屋へ。


 相変わらず備え付けの物以外は杖と小さなカバンしかない部屋。



「うふふ~社長は回復魔法が欲しいのかい~?」


「そ、そりゃー欲しいな。こうやって怪我しても治るんだろ?」


 ゲームでパーティ組む時ヒーラーは必須だろ。


 そしてここは現実、怪我をしたら最悪死が待っている。


「そうだねぇ、あれは本当に奇跡だよね。あれを見せられたら神と崇めてしまうかもね~。致命傷の怪我が数分で治るんだもんね~。もし回復魔法を使える人がこの世に一人だけいたとしたら、街の人はどういう反応をすると思うかな~?」


 うーん、毎日大行列だろうな。死ぬかもしれないのを回避してくれるわけだ。


 もしかしたらパニックが起こり、回復魔法を使える人を独占しようとする人も出てくるだろうな。


 それが原因で奪い合い、大きな争いが起きるかもしれない。


「……考えると、人の醜い部分がいっぱい出てきた。もしかしたら俺だって生き死にが目の前に迫っていたら、そういう行動をとるのかもしれない」



 ラビコが虚空を見上げ、静かに、ゆっくりと喋りだす。


「昔、とある田舎の小さな村で奇跡が起きたんだ~……。モンスターに襲われた人がひどいケガを負ってさ、でもそこに現れた『神』が奇跡の力でそのケガを数分で治したんだ~。そうしたら、その小さな村でその『神』を巡って争いが起きたんだ~……。村は燃え上がり~、殺戮が起きたの~。たまたまそこにいた勇者が~『神』を匿い争いを収めたの~」


 おとぎ話……か? 神とか……。


「そして勇者は『神は天上世界に帰られた、また千年後現れるだろう』、と宣言したのさ~」


 ラビコがじーっと俺を見てくる。



「おとぎ話なのか? 神とか千年後とか」



「今のはこの世界に数年ぐらい前に広まったおとぎ話さ~。じゃあ今のお話の『神』の部分を『女の子』に変えてごらん~」


 回復魔法を使えた女の子を巡り殺戮が起き、村が燃えた……。



「後半の宣言は勇者が言った方便さ~、でも前半は本当に起きたことでぇ~。勇者は今でもその女の子を守り、旅を続けているのさ~」


 女の子は神だったとしておとぎ話に仕立て上げ、その子を守った。



「なんか悲しいお話だけど、その勇者はすごいな。さすが勇者と呼ばれるような聖人なんだろうなぁ」


 俺がそう言うとラビコが堪えきれない笑顔で言った。


「ないないない~! 聖人とか……あははっ! あれは単なる女ったらしっていうんだよ~! あっははは~!」



 ラビコが部屋の窓から遠くの空を見上げ言う。




「あいつの旅は、回復魔法がこの世から無くなるまで終わらないのさ~……」













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