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四百三十六話 キツネ達のエデン 4 銀の妖狐の文化奮闘記様

「で、なんだよアーゾロ。見せたいものって」


「う、うーん、一応それも君が僕の為に考えてくれたオリジナルネームなんだよね……? それなら受け入れようかな、ふふ。君に見せたいものはこの先さ」



 寝て起きたらなぜかいた銀の妖狐の根城の島。


 こいつが言うにはソルートンから遥か南、花の国フルフローラの沖あたりの場所らしい。今の俺に確認のしようがないが。


 気温は確かに緯度的に南国という気温で、マント付き長袖ジャージだとだいぶ暑い。さすがに上脱ぐか。


「ふふ、いいね。君はいい体をしているなぁ」


 俺が暑さに負けてジャージの上を脱いだ途端、前を歩いていた銀の妖狐が振り返り頬を赤らめる。やめろ、男にジロジロ見られた上「いい体をしている」とか言われたくねぇ。



 石造りの整備された道をゆっくり歩き、開けた場所へ出る。


「ここさ」


 銀の妖狐が立ち止まり、綺麗に並んで立っている木を指す。見ると、雑草がしっかり抜かれかなり手入れが行き届いた感じの空間で、木が一定間隔で整然と生えている。木には赤だったり黄色だったりの実が成っているな。これは……


「果樹園さ」


 銀の妖狐が微笑み言うが、そう果樹園、これ果樹園だ。


 銀の妖狐が実の収穫作業をしていた男性に声をかけ、その実がいっぱい入ったカゴを持ってくる。


 男性の頭にはしっかりキツネ耳とお尻に尻尾が生えていて、どう見ても蒸気モンスター。


「ほら、食べてみてくれないか。とても美味しいと思うよ」


 銀の妖狐がその男に丁寧にナイフで剥かせた果実を俺に手渡してくる。これはオレンジだろうか。


「うん、美味い。これはよく熟していて美味いなぁ」


 恐る恐る食べてみるが、これがまた甘いオレンジ。柑橘のいい香りが鼻を抜け、酸味と甘味がじゅわっと口の中へ広がっていく。これは相当高級な品種のオレンジだぞ。


「人間の好みに合うように頑張っているんだけど、よかった、君が認める美味しさなら余計に自信が湧いてきたよ」


 銀の妖狐が目を細め、嬉しそうに俺を見てくる。


「他にもいっぱい種類を作っていてね、どれも僕の自信作さ」


 果樹園。オレンジ。これが俺に見せたいものなのか? これが一体なんだって言うのか。さっき見せた魔晶石と何の関係があるんだ。



「そしてこれが野菜畑さ。根菜から葉物、手広くやっているよ」


 次に案内されたのが果樹園から歩いて十分ぐらいの畑。


 大根やら葉物野菜やらが大量に植えられ、広い畑を女性と男性の蒸気モンスターがせっせと手入れを行っている。


「人気なのは葉物野菜かなぁ。ホラ、この島は移動が出来るから嵐とかの自然被害がなく、安定して質の良い物が生産が出来るんだ。人間の有名な産地とかで台風などの被害が出るとチャンスだねぇ、ふふ」


 銀の妖狐がうっとりとした顔でしゃがみ、何かの葉物野菜を愛でる。


 被害が出るとチャンス? さっきからこいつは何を言っているのか。


 アプティは魔晶石以外にも普通にご飯を食べるし、こいつら蒸気モンスターもご飯を食べるんだろうか。そのために作っている、と?


 ──いや、さっき人間の好みに合うように作ったとか言っていた。ならば自分達用ではない? 有名な産地で被害が出るとチャンス……。


「もしかして、これ全部出荷しているのか? 人間の市場に」


「ふふ、正解だ。さすがだなぁ、その常識にとらわれない直感力」


 人間の生命を狩ることを繰り返してきた蒸気モンスターが人間に売る為に農業を行っている……? どういうことだ。もしかして毒入り……いや太らせてより美味しく人間を喰う為に……?


「これも全て君に学んだんだ。君は力を使い生命力が弱った我が妹に魔晶石を与えてくれ、おかげで妹は力を取り戻すことが出来た。感謝している、ありがとう。そして君は妹に定期的に魔力を補うために魔晶石を買って与えてくれている」


 初めて王都に行こうとしたとき、列車が龍に襲われ応戦するも、俺が列車から落ちかけたところをアプティが助けてくれたやつか。


 その後、ソルートンのアンリーナのお店で魔晶石を買ってあげたな。今も定期的に買ってあげている。魔晶石を直接バリゴリと噛み砕いて食べるのは驚いたが。



「そう、人間を襲わずに、君に嫌われること無く魔力を手に入れる方法……それはお金さ」


 そう言い銀の妖狐が懐から左手でお金を取り出し、右手の魔晶石と交差させる動きをする。


 え、お金って……お前らまさか普通に街に来て買い物してんの? うそん。


「君に出会うまでは人間なんて一切興味がなかったからね。人間は魔力を補給するために狩るだけのもので、これから喰う存在の暮らしとか文化とか知る必要もなかった。でもね、僕は君と出会ってしまった。この世界は面白い、そう思わせてくれた君はもっと面白い。君とこの世界を見たい、君とならこのつまらなかった世界も輝いて見えた。君に嫌われたくない、好かれたい、側にいて欲しい一心で僕等は人間の文化ってやつを学んだのさ」


 どうしてこう、こいつのセリフは全て恋愛がかっているのか。もはや才能レベル。


「妹から君の情報を得て、僕等は学んだ。この世界で生きるには魔晶石を手に入れるのが一番効率がいい。それを君に嫌われること無く入手するには、人間の文化に習い、お金で買えばいい。そしてお金を手に入れるには君の商売から学び、物を売ればいいと理解した。幸いこの島は資源が豊富でね、手始めに島に自生していたものを利用して農業なんてやってみたんだけど、これが質が良いと人間の市場で好評でね」


 物を売り、お金を得て魔晶石を買う。


 なんだよ、実にこの世界の人間の文化に馴染んだ平和的行動じゃないか。それが本当なら俺も手伝いたいぐらいだ。


 それをしたとして過去の人間を狩り続けた行動が清算されるわけではないが、考えを変え、この世界で俺達と共に生きようと試行錯誤した行動は評価したい。ラビコはどう言うか分からないが……。


 蒸気モンスターの自立。その一歩をこいつが歩みだしたのなら、俺は応援したいとも思う。まだこれが口だけの嘘か、それとも本当か判断は出来ないが。


 こいつ、実は結構話せるやつ……いやいや、簡単に信じちゃいかん。島にいるあいだ、そのへん見極めてみるか。


「僕はやるからには徹底的にやるほうでね。部下を人間の農家などに派遣して就労してもらい、その知識を得てもらった。そして世界中に散った部下達の知識を全てこの島での農業に詰め込んだんだ。はっきり言って、人間の作る物には負けない品質と生産数を維持出来ているよ。ソルートンによく卸しているから、何度か君の口にもうちの作物が入ったんじゃないかな、ふふ」


 しかもソルートンに卸しているのかよ。そういやさっきのオレンジ、兄さんが好んで仕入れるオレンジに味が似ていたような……。



「ああ、魔晶石は島内の種族全員分、ソルートンとかの君のお知り合いのお店で買っているよ。ローズ=ハイドランジェ、僕もたまに買いにいくけど、あのお店のは極上に品質がいいんだよねぇ……おっとヨダレが」



 以前アンリーナが俺と関わってからローズ=ハイドランジェの売上が急に伸びたとか言っていたが、宿とのコラボの影響もあるだろうが、もしかして銀の妖狐が魔晶石を買いまくっているから、なのでは……。






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