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四百二十八話 アンリーナの帰還と戦隊物様

「師匠ー! 私の愛する師匠は今どこに……! アンリーナ=ハイドランジェ、只今ソルートンに帰ってきたのですわー! 今すぐ熱い抱擁とこの書類にサインを……!」



 ボイラー故障騒動の翌日お昼。


 軽く冷やしトマトパスタなんておっしゃれな物を食べていたら、宿入り口に聞き慣れた元気な声が響きわたってきた。



「あ、師匠ー! やっとソルートンに帰って来られたのですね。社の者から師匠帰還の報告を受け、お仕事を一気に片付けてきました!」


 どう見ても金のかかっている質の良い服を着たちょっと背の低い女性。彼女は世界的規模で魔晶石・化粧品販売を行っているメーカー、ローズ=ハイドランジェの一人娘、アンリーナ。


 大きなキャスケット帽が外れる勢いで俺めがけ突進してくるが、これ受け止めなきゃならんのか? 明らかに怪しい書類を右手に持っているのだが。


「お、おおアンリーナ。いやすまなかった、連絡もせずに長い期間ソルートンから離れてしまって」


「いえいえ、今の師匠は世界を股にかける冒険者。師匠の夢である世界の全てを見る、を妻として理解し全力で応援させていただきます。そして近い未来、世界を見て得た広い知識と経験を糧に私と二人で商売人として羽ばたいていきましょう!」


 妻だのなんだのは無視して、警戒しつつアンリーナを抱きとめ書類を持った右手を掴む。


「あら師匠、なんて積極的な抱擁……さすがデゼルケーノであの千年幻ヴェルファントムを倒された英雄ですわ」


 アンリーナが俺の耳元で小声でつぶやく。


 おっと、千年幻は一応魔女ラビコが倒したと公式に情報が出ているわけなんだが、さすがにアンリーナには独自の情報網があるのかね。


「その辺はふんわり包む感じで頼むぜ」


「もちろん、心得ていますわ。なにせ私は師匠の妻なのですから。ええ、愛し合う二人は目を合わせるだけで全て通じ合うものなのです。ですが、悲しいかなこの世界は書類社会。二人の愛を明確に世間に知らしめるには、こうして文面で残さねばなりません。さぁ師匠、二人の愛を世界に見せつけてやりましょう! 大丈夫ですわ、式を執り行うアイランド計画も順調に進んで……」


 アンリーナが小さい体にも関わらず、ぐいぐい右手の書類を俺に押し付けてくる。ぐぅ、俺は左手でとはいえ、そこそこ腕力あるはずなんだが押し返される……。


 あと俺とアンリーナの会話、噛み合っているようで全然噛み合っていなくねぇか。なんだよアイランド計画って。



「お~アンリーナじゃないか~。元気してた~? あっはは~」


 二人で腕力と愛の力の押し合いをしていたら、水着魔女ラビコが笑いながら登場。助かった……。


「これはラビコ様、お久しぶりでございます。まさか火の国デゼルケーノに行っていたとは驚きました。かなり危ない橋を渡る旅になったとか……しかし皆様が無事のようで一安心しました」


 さすがにペルセフォス王と同権力を持つラビコ相手にアンリーナは身なりと言葉を正す。そしてくるっと周囲を見渡し、ロゼリィ、ラビコ、アプティ、ベスと目を移し、最後に俺を見て肩を優しくなぞってくる。


「本当に、ご無事でよかったです……」


 火の国デゼルケーノにいた千年幻ヴェルファントム。それは人間の歴史上、どんな英雄も倒すことが出来なかった上位蒸気モンスター。


 それに知り合いが襲われたと聞いたら、この世界の人は友の死を覚悟するだろう。アンリーナは本気で心配してくれていた様子。すまなかった、そしてありがとう。



「いや~マジで危なかったんだけど~家出猫の加勢と社長とベスのおかげでなんとか生きて帰ってこれたよ~あっはは~」


 ラビコがゲラゲラ笑って言うが、結構どころかマジで危なかったからな。途中クロが来てくれなければ、今ここに俺はいれなかっただろうな。


「……ラビコ様、家出猫というのは何でしょうか。師匠の愛するペットに猫が増えたとかでしょうか?」


 アンリーナが不思議そうに聞くが、クロのことまではさすがに情報が得られなかったのか。


「ペットってよぉ、せめて人間扱いしてくれ。……あ、いやそれもいいのか。キングのペットとして愛されるって未来も悪くねぇな、ニャッハハ!」


 ラビコの後ろから温泉施設のボイラーの調子を見終わったクロが登場。


「よぉ初めまして、か? ローズ=ハイドランジェの一人娘アンリーナ=ハイドランジェだったか。お前んとこの魔晶石は質が段違いだからなぁ、国でもよく使わせてもらってるぜ」


 クロがさっと右手を上げ挨拶をするが、それを見たアンリーナが目を丸くして動きが固まる。


「……え、あ、こ、これは失礼をいたしました! 髪型を変えられたのですね、とても素敵です。魔法の国セレスティアで何度かご挨拶はさせていただきましたが、アンリーナ=ハイドランジェと申します。いえ、私のことなど覚えていなくて当然かと。数え切れないほどいる、国に出入りする商売人の一人でしかありませんし」


 数秒固まっていたアンリーナだったが、すぐに頭がフル回転しだしクロにざざっと頭を下げる。


 知っているのかクロを。って魔法の国の王族様だしな、世界規模で動き回っている商売人アンリーナが知らないはずないか。セレスティアにもアンリーナのお店あるみたいだし。


 あと今のクロは以前のボサボサ髪ではなく美容院で綺麗に整えてあるから、アンリーナが一瞬戸惑ったのはそれだろう。俺が以前オウセントマリアリブラという本に触れたときに見えた過去の偉人マリア=セレスティアさんそっくりになっている。


「わりぃわりぃ、初対面じゃなかったか。あとアタシの正体は公言しないでくれ。それなりに面倒な事情抱えて家出してきた身だからよ、ニャッハハ」


 なんとなくの経緯はアンリーナにも言ったほうがいいか。



「──なるほど。セレスティア国民向けには修行の旅に出ていて、お城内部向けにはサーズ様公認でペルセフォス王国に滞在し、世界屈指の大魔法使いであるラビコ様に師事を仰いでいる状態である、と」


 いつもの席に座ってもらい、みんなで顔寄せあって小声で話す。


「家出に至る細かな経緯は計りかねますが、今まで一人も弟子をお取りにならなかった大魔法使いであるラビコ様の元にいるというのであれば、お城内部の人間もあれこれ言う人はいないでしょう。……そしてそこまでしてクロ様は師匠の元にいたいとお考えである、と」


 最後アンリーナが溜息をつき俺をじとっと見てくる。


「ちょっと目を離していましたらこんなことに……。このままでは毎月レベルで女が増えていきそうです。これは計画を急がねばなりませんね」


 アンリーナがぶつぶつ悪い顔で呟いているが、さっきサインさせようとしていた紙に関係しているのか?



「ま、難しいことは置いといてよ、よろしくなアンリーナ。アタシのことは気軽にクロでいいぜ、ニャッハハ」


「いえ、さすがにクロ様とさせていただきます。そこはお許しください」


 二人が握手をするが、俺たまにクロが王族だって忘れてるかも。


「あとこれが一番大事なことなんだけどよ、アタシもうキングの女だからそういう扱いで頼むぜ。この髪型といい、今のアタシの姿は全部、身も心もキング好みにされてるからなぁ。ニャハハー」


──ザワッ


 それを聞いた女性陣が無言で一斉に立ち上がり、打ち合わせもなしに左手薬指につけているシルバーのリングを同じポーズで見せつけてくる。


「あんま調子に乗んなよ家出猫~。自分がいつセレスティアに強制送還させられても文句言えない立場だって自覚しとけよ~? その姿は社長が家出猫のボロッボロの姿に見るに見かねて美容院に連れて行っただけだろ~? そしてこれ。この社長からの愛の証が無い女がイキってんじゃねぇぞ~あっはは~」


「……言いたくはありませんが、この中で一番お付き合いが長いのはこの私なんです。お付き合いというのはつまりデート。お互いの好きという気持ちがなければこれほど長いデートは出来ないものです。そして彼の気持ちが形になったものがこの指輪なのです。これを渡してくれたということはどういうことか、もうお分かりですよね? ふふ」


「申し訳ありませんがクロ様、そこはお譲り出来ないですわ。師匠はどんなときでも君は一人ではない、虚勢を張らず先の見えない広い世界だろうが二人で支え合って並んで進んでいこうと言って下さいました。例え遠く離れる時間が長くても、師匠はずっと私の側にいるよ、とこの指輪を渡してくれたのです。これを愛の指輪と言わずなんと言うのか!」


「……マスターは私のことが好きと言いました。このような綺麗な物もくれました。あと紅茶もくれました……アップルパイという見ただけで震えてしまう食べ物もくれました……」


 ラビコ、ロゼリィ、アンリーナ、アプティが長げぇセリフと共にクロを睨みつけるが、アプティさんは食べ物の話しかしていないんじゃ……。


 あと四銃士のみなさんに指輪をあげた話、すげぇ色々とんでも脚色されていないか? 



「あーくそ、そういやお前ら指輪組だっけ。しかもアンリーナまで持ってんのかよぉ。おかしいってキングー、命の恩人であるアタシにくれないのは道理がなっていないんじゃねぇかなぁ? つかアタシも五人目になってこのポーズしてぇ。かっけぇじゃん!」


 クロが俺の体を揺すって子供のようにねだってくる。


 四銃士の横に立ち、指輪無しでみんなと同じポーズをして喜んでいるが……いやまぁ命の恩人なのは間違いないし、感謝の指輪を贈るべきなんだろうなぁ。



 そして目の前の五人の揃ったポーズを見て、なんとなく懐かしい想いが蘇ってくる。


 ──そうそれは子供の頃の美しい思い出。暑い夏、かき氷、扇風機……かじりついてテレビを見ていた少年、俺。


 五色の爆煙が吹き上がり、格好いいポーズを決めて前口上を述べる五人のヒーロー達。子供達を守るため、バッタバッタと悪役達をちぎっては投げねじっては踏み。



 ああこれ、戦隊物だ。





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